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第一章 出会い編

31、私は電話を掛けます

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「さて、シユウ様。私はこうして初めて貴方にかける電話の要件がお説教であるということに悲しみを覚えています。できれば貴方との通話はもっと楽しく愉快で負の感情の無いものにしたかったのですが」
『え、喜んで電話に出て第一声がそれ? 昨日のメールのデレはどこに行っちゃったの?』

「新聞部部長と言えば、何が言いたいか伝わるでしょうか? 伝わらなければこの電話は今切ります。どうです? 思い当たる節くらいはあるのでは?」
『もしかしてミラフリウスに声かけられた? あー、あれだよ、携帯のことを教えたのは悪かったけど理由がちゃんとあって』
「そんなことはどうでもいいのです」
『どうでもいいの? どうでもよくはなくない?』
「ミラーにシーツァリア転覆を促したのでしょう? 彼女はそこまで語りませんでしたが、何となく想像がつきます。彼女は賢い。勝ち目の薄い博打に自らの命をベットするなどありえないことなのです。もしそれを実行するなら、言語化できるほどの明確な勝算があってのこと」
『……それを俺が提示したと?』
「貴方は知っていたのでしょう。ミラーが今の機関の行動を快く思っていないことを。だから貴方は協力関係を彼女に持ちかけた。下手な噂の根絶と、シーツァリアの一刻も早い破滅を交換条件にした。どちらも貴方に有利な条件ですが、双方に利がある都合のいい話ですわね」

『……その言い方は本人から聞いたってわけじゃないっぽいな。あくまで推理であって、真偽は俺に確かめる、か。っかしいなあ、何で分かった?』
「認めるのですね?」
『別にずっと隠すつもりもなかったしな。まさか話した翌日に見破られるとも思ってなかったけど。……あー、違うか。ミラフリウスから絡んだんだな? あいつ俺だけじゃ信用できないからってアンナ嬢にも話を通しておきたかったわけだな? あー、迂闊った』
「そうでしょうね。私が貴方の名前を出したとき、彼女はどうして分かったのかと言いました。それで察しました。彼女の目的はそもそもそっちだったのだと」
『そうだよな。機関の情報を扱い慣れてる奴が図星突かれたくらいで思わず認めてたらクビだよな。俺だって使用人がそんな情報の漏らし方したらクビにするわ』

「あの狸記者が大根役者を演じたことも腹立たしいですが、今は貴方です。何故止めなかったのですか? 彼女が自身の命を消費してでも現状を変えると判断することを貴方は知っていたのでしょう? だから貴方はミラーを味方にしようとした、違いますか?」
『違わない。でもアンナ嬢にはもう俺がどういう考えでこんなことをしたか大体分かってると思うんだけど?』
「たとえそうでも説明責任があるでしょう。それも果たせないほど愚かだと私に解釈させるつもりではないでしょうね?」
『分かったよ、だからその質の悪い脅しはやめろ。そもそもミラフリウスは放っておいても中等部二年の段階で転覆に踏み切る。今そうしてないのはその方法がないからだ。王子の醜態はもう今更な話題だし、かといって殺人を犯すこともないだろう小心者である以上、そういう方向からの吊るし上げは難しい』
「……その方法を与えたわけですか」
『そう。俺としては、中二の段階で急に行動を起こされる方が厄介だった。ほとんど暴走に近い行動だったし、突発的で具体的にいつかの予測もできない。そしてあいつは高等部一年の時に突然姿を消す。足取りも掴めない形でな』
「想像したくないですわね。校内で普通に会話ができる数少ない相手なので」
『そこがもう知り合いだとは知らなかったけど、ミラフリウスの立場と能力は出来れば味方につけておきたかった。あいつに目に見える罪を犯させず、可能な限り協力してほしかった。だから話をした。命に関してはあいつが勝手に言ってるだけで、俺はちゃんと止めた。だから許して』
「……止めたけれど彼女が言い続けているだけなのですね?」
『そう。なんだったら確認してくれてもいいし』
「そういうことでしたら構いません。シユウ様の考えは十分に理解しました。なので次の話題に移りましょう」
『……次?』

「何故事前に私に情報を共有しなかったのですか? 確かに未来のことを把握しているシユウ様が主導で進めるべきだとは思いますが、正直言って今回の件で私のシユウ様への信頼は揺らいでいます」
『え。いやいや待って待って。ミラフリウスに話をしたの昨日のアンナ嬢に会う前だし。相談する暇なんて無かったんだよ。偶然会ったから今しかないって思って。アンナ嬢と知り合いだっていうのを知ってたなら事前に確認とったけど知らなかったからね?』
「三年程度の猶予はあるのでしょう? なのに今しかないとはおかしな話ですわ。貴方がどれほど方々に手を回しているのかは知りませんが、それを私は脅威に感じても心強くは感じません」
『ごめんて。教えるから。俺がどのくらい動いてるか詳しく教えるから』
「これから何をしようとしているかもですわ」
『それも教えるから。勘弁して。許してごめん』
「先ほどから謝りすぎです。それは美徳かもしれませんがつけ込まれる隙にもなるのでほどほどにしてください」
『分かったごめん。まじでごめん。これからはきちんと報告するから』
「学習能力あります? ……はあ、何故私はこうも王族に対して強気に出ているのでしょうかね。情けないからでした。それが全てでしたわ」
『独り言みたいな悪口を聞こえるように言うな。事実だろうと傷付くだろうが』
「自分の欠点は早めに自覚しておいた方が後々楽ですわよ」
『そんな悟った大人みたいなこと言われても……』
「まあ、教える気になったら連絡してください。都合のいい日を教えてくれればこちらが予定を合わせますので」
『了解。とびっきりのエスコートするから、楽しみに待っててくれよな。あ、電話越しじゃかっこつけても顔見えな』

 プツンと、私は通話を切りました。
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