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第二章 懇親会編
40、私は他国を知らない
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「で、皆さんご存じ、シーツァリア第一王子、クリス・フウグ・ノースコード。色んな意味で注目の的だな。勿論悪目立ちだけど。宜しくない噂話が乱立して一人歩きして、各国での評判は最悪だ。今のところ、歴史上で一番、何を考えてるのか分からない王子だってな」
「それは正しい評価ですわ。実際、彼が何を考えているのかなど誰にも分からないのですから。我が家の愚弟は、何か大いなる目的のために豪快にして磊落な振る舞いをして見せているなどと嘯いていますが、逆に言えば、あの狂信者ですら、そんな意味の分からない言葉でしか庇えなくなっているということでもあります」
「ほーん、そんな状態でも結局最後まで信仰続けるんだから、一周回って大物かもな。信じる対象が誰か別の奴だったら、歴史に名を残す忠臣になってたかも」
「普段の振る舞いを見ていると、そんな立派な将来は悲しいほどに想像できませんわね」
根底には確かに私の影響があるのでしょうが、あの狂信はもう生まれながらにそういう素質があったとしか思えないのですわよね。罪悪感を抱くべき私が、愚弟に情けなさと諦念しか感じていない理由の一端でもあります。会話を極力避けているのも面倒だからですわ。
王子の素晴らしさはどうだとか、王子の格好いい部分はこうだとか、王子の尊敬すべき振る舞いはああだとか、顔を合わせる度に言われていたら誰だって罪悪感など消し飛びます。勿論、家族愛が一切ないとは言いませんが、面倒といった負の感情はそれらを全て塗りつぶすのです。
実際、レンカは愚弟を面白くないと一蹴し、顔を合わせることすら拒否しています。王子を楽しくないと言っているのに、その王子を持ち上げる弟を面白いと思うわけもないですわね。その点に関しては私と気が合っていますが、そういうところでしか合わないので和解は不可能ですわね。
会話で一番盛り上がる話題は人の悪口だと聞いたことがありますが、あの王子に関しては悪口という形ですら関わりたくない対象なのです。実際、最近では生徒間でも王子の話題など一切出ていないようですし。ミラからの情報なので間違いないはずですわ。
あの王子と関わっても損しかないと、徐々に全員が理解し始めているのです。そのため最近、シユウ様に媚びを売る連中が多数出現し始めました。中等部に上がってから爆発的に増えているようで、シユウ様から無駄に人数をグラフに纏めたものがメールで送信されてきました。三秒で削除しました。
「で、ハージセッテ第二王女、アディア・ピア・セレクトメイアと、プレント第一王女、ウェイン・イグ・ボードステッテ。この二人にはあんま関わんない方がいいかもしれない。まあ、アンナなら邪険に扱われることはないとは思うんだけど……」
「あら、シユウ様にしては珍しい発言ですわね。あまり仲がよろしくないのですか?」
「一人一人になら普通に会話できるくらいの仲ではある。ただこの二人ってなると話が変わってくるんだ。率直に言って、この二人は顔を合わせたら間違いなく喧嘩する。断言できる、絶対に喧嘩する。口喧嘩とかじゃ済まない本気のやつな」
「……懇親会の場でですか? 掴み合い殴り合いの喧嘩をすると?」
「する。特に今は時期が最悪だ。ついこないだ、ハージセッテとプレントの間で、少し揉めたのって知ってるか?」
「ええ、知っています。機関からの新聞にそのことに関しての記事がありましたから」
しかし揉め事とは言っても、機関の介入で穏便に終わったとのことだったはずです。揉め事の内容自体も大したことではありませんでしたし。確か、プレントからハージセッテに輸出された野菜の中に腐ったものが混じっていた、といった話でした。
防腐剤を使用していないため、長距離長時間の移動の最中に傷んだ部分から腐ってしまったのだろうというのが機関の発表だったはずで、それには両国が納得したとも書いてありました。そもそもプレントが防腐剤の使用を極度に嫌っているというのはどの国も知っている話です。
大袈裟に取り上げるには少し弱い記事だと思っていました。何しろプレントの野菜の輸送技術は一級品です。空気を清潔に保ち、限りなく野菜にとって最適な温度、湿度を維持するコンテナを用いての輸送には文句の付けようも無いとどの国も認めています。
しかしチェック漏れというのはあらゆるものに起こりうるもので、かなり低い確率ではありますが、腐っている野菜が混じっていることもあると聞いています。その場合、連絡すれば取り替えてくれるという保証も行っています。品質がいいので、一個や二個程度でそんな連絡をする国はありませんが。
「元々二人は犬猿の仲なんだけど、ウェインは大の野菜好きでな。自国の野菜をこれでもかって程に愛してる。他の国で育てた野菜なんて、うちの国の野菜と比べたら全部腐ってる、なんて言う程度には」
「それはまた、色々と波乱が起こりそうな発言ですね」
「そんなウェインが、自国の野菜について文句なんて言われた日にはもう……。しかもよりにもよってハージセッテ。アディアがやったわけじゃないだろうけど、定期報告の新聞の一面にまで掲載されて大事になってるし、ただじゃ済まないのは間違いない」
「輸送用コンテナの全面見直しも視野に入れているとか。確かにそれらの手間を考えれば怒るのも無理はないと思いますが、実際、プレントの野菜は美味しいので、これで交易に問題が生じることはないでしょう?」
「その点に関しては、ウェインのことだから当たり前って思ってそうだな。うちの野菜が他に劣るわけないって考えだから。アディアも、そんなん黙って聞いてりゃいいのにわざわざ面倒な方向に噛みつくし……」
「……国の関係こじれませんか、それ」
「そうならないように俺らがフォローしてきたんだけど、今回はきついかもな。お互いに参加することを把握しての参加だろうし、こりゃあ荒れるぞって、もう開催側はてんてこ舞いだよ」
何と言うか、目の前のシユウ様もそうですが、王族って意外と面倒な方が多いですわね。そういった噂が流れてこないのであまり知らなかったのですが、こうなって改めて考えると、他国とのまともな交流が無い今のシーツァリアにそういった噂が流れてくるわけがないのですわ。
話を聞いている限り、七か国の中でシーツァリアだけが蚊帳の外のようですし。まあ、当然ですわね。
「それは正しい評価ですわ。実際、彼が何を考えているのかなど誰にも分からないのですから。我が家の愚弟は、何か大いなる目的のために豪快にして磊落な振る舞いをして見せているなどと嘯いていますが、逆に言えば、あの狂信者ですら、そんな意味の分からない言葉でしか庇えなくなっているということでもあります」
「ほーん、そんな状態でも結局最後まで信仰続けるんだから、一周回って大物かもな。信じる対象が誰か別の奴だったら、歴史に名を残す忠臣になってたかも」
「普段の振る舞いを見ていると、そんな立派な将来は悲しいほどに想像できませんわね」
根底には確かに私の影響があるのでしょうが、あの狂信はもう生まれながらにそういう素質があったとしか思えないのですわよね。罪悪感を抱くべき私が、愚弟に情けなさと諦念しか感じていない理由の一端でもあります。会話を極力避けているのも面倒だからですわ。
王子の素晴らしさはどうだとか、王子の格好いい部分はこうだとか、王子の尊敬すべき振る舞いはああだとか、顔を合わせる度に言われていたら誰だって罪悪感など消し飛びます。勿論、家族愛が一切ないとは言いませんが、面倒といった負の感情はそれらを全て塗りつぶすのです。
実際、レンカは愚弟を面白くないと一蹴し、顔を合わせることすら拒否しています。王子を楽しくないと言っているのに、その王子を持ち上げる弟を面白いと思うわけもないですわね。その点に関しては私と気が合っていますが、そういうところでしか合わないので和解は不可能ですわね。
会話で一番盛り上がる話題は人の悪口だと聞いたことがありますが、あの王子に関しては悪口という形ですら関わりたくない対象なのです。実際、最近では生徒間でも王子の話題など一切出ていないようですし。ミラからの情報なので間違いないはずですわ。
あの王子と関わっても損しかないと、徐々に全員が理解し始めているのです。そのため最近、シユウ様に媚びを売る連中が多数出現し始めました。中等部に上がってから爆発的に増えているようで、シユウ様から無駄に人数をグラフに纏めたものがメールで送信されてきました。三秒で削除しました。
「で、ハージセッテ第二王女、アディア・ピア・セレクトメイアと、プレント第一王女、ウェイン・イグ・ボードステッテ。この二人にはあんま関わんない方がいいかもしれない。まあ、アンナなら邪険に扱われることはないとは思うんだけど……」
「あら、シユウ様にしては珍しい発言ですわね。あまり仲がよろしくないのですか?」
「一人一人になら普通に会話できるくらいの仲ではある。ただこの二人ってなると話が変わってくるんだ。率直に言って、この二人は顔を合わせたら間違いなく喧嘩する。断言できる、絶対に喧嘩する。口喧嘩とかじゃ済まない本気のやつな」
「……懇親会の場でですか? 掴み合い殴り合いの喧嘩をすると?」
「する。特に今は時期が最悪だ。ついこないだ、ハージセッテとプレントの間で、少し揉めたのって知ってるか?」
「ええ、知っています。機関からの新聞にそのことに関しての記事がありましたから」
しかし揉め事とは言っても、機関の介入で穏便に終わったとのことだったはずです。揉め事の内容自体も大したことではありませんでしたし。確か、プレントからハージセッテに輸出された野菜の中に腐ったものが混じっていた、といった話でした。
防腐剤を使用していないため、長距離長時間の移動の最中に傷んだ部分から腐ってしまったのだろうというのが機関の発表だったはずで、それには両国が納得したとも書いてありました。そもそもプレントが防腐剤の使用を極度に嫌っているというのはどの国も知っている話です。
大袈裟に取り上げるには少し弱い記事だと思っていました。何しろプレントの野菜の輸送技術は一級品です。空気を清潔に保ち、限りなく野菜にとって最適な温度、湿度を維持するコンテナを用いての輸送には文句の付けようも無いとどの国も認めています。
しかしチェック漏れというのはあらゆるものに起こりうるもので、かなり低い確率ではありますが、腐っている野菜が混じっていることもあると聞いています。その場合、連絡すれば取り替えてくれるという保証も行っています。品質がいいので、一個や二個程度でそんな連絡をする国はありませんが。
「元々二人は犬猿の仲なんだけど、ウェインは大の野菜好きでな。自国の野菜をこれでもかって程に愛してる。他の国で育てた野菜なんて、うちの国の野菜と比べたら全部腐ってる、なんて言う程度には」
「それはまた、色々と波乱が起こりそうな発言ですね」
「そんなウェインが、自国の野菜について文句なんて言われた日にはもう……。しかもよりにもよってハージセッテ。アディアがやったわけじゃないだろうけど、定期報告の新聞の一面にまで掲載されて大事になってるし、ただじゃ済まないのは間違いない」
「輸送用コンテナの全面見直しも視野に入れているとか。確かにそれらの手間を考えれば怒るのも無理はないと思いますが、実際、プレントの野菜は美味しいので、これで交易に問題が生じることはないでしょう?」
「その点に関しては、ウェインのことだから当たり前って思ってそうだな。うちの野菜が他に劣るわけないって考えだから。アディアも、そんなん黙って聞いてりゃいいのにわざわざ面倒な方向に噛みつくし……」
「……国の関係こじれませんか、それ」
「そうならないように俺らがフォローしてきたんだけど、今回はきついかもな。お互いに参加することを把握しての参加だろうし、こりゃあ荒れるぞって、もう開催側はてんてこ舞いだよ」
何と言うか、目の前のシユウ様もそうですが、王族って意外と面倒な方が多いですわね。そういった噂が流れてこないのであまり知らなかったのですが、こうなって改めて考えると、他国とのまともな交流が無い今のシーツァリアにそういった噂が流れてくるわけがないのですわ。
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