カードワールド ―異世界カードゲーム―

イサデ isadeatu

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ラジトバウム編

11話 カードゲーマーのリベンジ

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 今日も、食べられる果物を探してジャングルを探索する。
 その途中、モンスター同士が戦っているところに出くわした。
 俺とフォッシャはやり過ごそうと進路を変えようとしたのだが、なにか様子がおかしく俺は立ち止まる。
 
 どうやらただの喧嘩ではないようだった。この間俺を襲ってきたアザプトレが、小さなモンスターを一方的に傷つけている。
 小さな鹿に似たモンスターのほうにも見覚えがある、あれはたしかトナーラ。群れで行動しているはずだが……
 俺たちは茂みに隠れ、そこから状況を見つめる。

「あのコ、群れからはぐれちゃったみたいワヌね……」

 フォッシャがそう言う間にも、トナーラはアザプトレに蹴飛ばされ、弱っていく。

「エイト……助けたいのはやまやまだけど、ムリはできないワヌよ」

「わかってる……。……だけど……」

 今日のクエストの内容は、アザプトレとは全く関係ない。もちろんやつをこのあたりのエリアから撃退すればギルドから報酬はもらえるだろうが、果たして今の俺で勝てるのか。
 この前よりもカードや戦闘の知識は増えたが、左腕は完治していない。

 あの手ひどくやられた子供モンスターが、あの日の自分に重なって見える。最初にこのラジトバウムに来たあの日の。

 怖い。
 逃げたい。
 勝てる気がしない。
 なのにどうしてだ。どうして俺は悔しがってる。

 あの時俺にはまだなにも力がなくて、あいつには到底敵わなかった。

 だけど今なら少しは闘える。時間稼ぎくらいはできるはずだ。
 考えるより先に体が動いて、気づけば俺はアザプトレがトナーラに振り下ろした腕を、剣で受け止めていた。

「ああもう! エイト! 気張るワヌよ! 」

 俺があとずさって体制を整えたところに、フォッシャも入ってくる。

「こうなったら、いちれんたくしょーワヌ!」

 仕方がないと言った感じだが、フォッシャも負ける気はないようだった。

「向こうも誇りをかけて戦いを仕掛けてくるわぬ。中途半端な心構えじゃ、勝ち目はないワヌよ。倒す覚悟と倒される覚悟。なにより相手への敬意をもってはじめてオドは力を貸してくれるんだワヌ」

 俺は冒険士のカードを取り出し、手にする。
 前試したときは、心構えが足りなかったのだろうか。
 あのとき何もできずに、フォッシャの力に頼りきりになってしまった。
 今、俺の勝手で出てきてフォッシャにまでまた迷惑をかけるわけにはいかない。

 今度は俺が守ってみせる。

 俺はふたたび、カードに強く念じた。
 ――カードよ、俺に力を!

 すると体が光に包まれ、不思議な力が体の底から沸いてくるのがわかる。
 ――これが魔法……! カードの力か!
 逆境を跳(は)ね返(かえ)す、俺の力……!!
 
 力がみなぎるだけじゃない。冒険士として闘う上での心構えが、理屈ではなく『感覚で』わかる。
 仕組みはわからないが、オドとやらが俺の心に働きかけて勇気を与えてくれる。

 左手は当然動かない。俺は片手で剣を握りしめ、アザプトレに向ける。

 敵の目もまた鋭くこちらを見据えている。
 今だからわかる。やつの目にもまたオドの闘志の炎が燃えている。
 ――そうか……。お前は、自分と自分の一族の誇りをかけて、闘っているんだな……。
 どうしてか、そんなことまでわかる。

 実のところ、あの子供のトナーラを助けようという気持ちもたしかに俺にはあった。
 だが、それよりもあのアザプトレと決着をつけたいという気持ちのほうが強かったんだ。
 勝負ごとには負けたくない。これもカードゲーマーの性ってやつか。

「この勝負、受けて立つ!」

 アザプトレがカードを飲み込むと、魔法が発動し地面が隆起して襲い掛かってきた。
 やつも魔法をつかえるのか。
 フォッシャと俺は地面を蹴って、隆起攻撃は左右に別れて避けることができた。だが左腕がつかえないため、うまく受身がとれずにもたついていた俺に、容赦なくアザプトレは突進してきて前足の巨大な爪を叩き込んでくる。

「ぐォっ!!」
 とっさに剣で防御したが、衝撃を受け止めきれずはずもなく俺は転び飛ぶ。
 顔の半分がズキズキと痛む。右の頬が、切り傷で出血しているのが感覚でわかった。

「エイト! いま回復薬を――」
「ダメだ!!」

 フォッシャは俺に駆け寄ってきたが、俺は強く制した。

「残り一個は本当に大事なときのためにとって置くんだ。俺たちには回復薬を買うカネはない……!」
「でもほっといたら痕が残るワヌよ……!」
「……このくらいの傷でいちいち使ってちゃ、いつまで経ってもこのまま……俺たちの目的は果たせない」

 薬草でも塗り付けとけば血は止まる。だがここで勝てないようじゃ、俺たちはたぶんいつまで経っても前には進めない。

「それに傷がある男のほうがかっこいいもんさ」

 心配そうにするフォッシャに強がってはみせたが、だからと言ってこの状況がよくなるわけではない。
 だがフォッシャは俺の気持ちを汲んでくれたのか、コクと頷くと臨戦態勢をとる。

 フォッシャ、お前の強さがうらやましいよ。なにがあったのか知らないけど、どんな目にあったって目的のために前を向いてがんばってる。俺は誰も信じられず、途方に暮れてたってのにさ。
 俺には冒険士としての勇気も、この世界に向き合う覚悟もなかった。でも今は違う。

 全てを失うことを恐れて恐怖に潰されるか、生き抜くために勇気の剣を抜くか。それが闘うってことなんだ。
 俺は――勝つ!!

 俺の持っているトリックカード2枚はどちらも大した強さがない弱小カード。
 だが今はこれをうまく使ってしのぎ切るしかない。

「エイト、フォッシャの魔力じゃトリックを打てるのは数発が限界ワヌ。やつの隙をつくるから、連携して倒すワヌ」
「わかってる」

 俺は剣を地面に突き刺し、手をしならせてカードを構え、風を切る。
 『魔法の付け焼刃<マジックシフトアップ>』。俺は剣を抜き、片手で回して剣に魔法を纏わせる。
 
 マジックシフトアップは、一時的に武器の力を強化して開放する魔法。
 剣から青いオドのオーラがほとばしっている。だが魔力の消費が大きいため、攻撃のチャンスを逃せば一気にこちらの勝ち目は薄くなるだろう。

 フォッシャのトリック『オドファイア<火精霊の炎弾>』の発動モーションを見たのは一度きりだ。
 だがあのインパクトを忘れられるはずもなく、タイミングを完璧にあわせることができた。
 向かってくる炎の弾をアザプトレは器用に横にかわす。
 が、同時に俺もオドファイアの炎をかいくぐり、やつに向かって突進した。
 予想通り、当然敵もこちらを爪で攻撃しようとしてくる。

「『クロス・カウンター』発動ォ!!」

 俺は腕を思い切り振りかぶって、空中に出現した魔法のカードごと剣の一撃を敵の首に叩き込む。
 片腕しか使えないため切り抜くことはできずに剣が弾き飛ばされるが、アザプトレも数m吹き飛びぶっ倒れた。
 
 クロス・カウンターは、敵の攻撃による前への体重移動を利用して、こちらの攻撃が当たったときの威力を倍増させるカウンター技だ。回避か防御が成功した時に自動で俺のからだをうごかし、反撃を繰りだしてくれる。
 タイミングが外れれば魔法は発動しない。その上最悪敵の攻撃をもろに食らうのだが、フォッシャとの連携がうまくいった。
 
 腕がしびれてこれ以上は闘えそうにない。
 しかしアザプトレにもかなりのダメージがあったのか、弱々しく立ち上がるやいなやジャングルの茂みへと逃げ去っていった。

 ――撃退した、か。
 オドの結晶は落としてもらえなかったが、今の状態から考えれば退けただけでも上出来だろう。
 息をととのえ、俺はだるい体で剣を拾う。

 だが事態はまだ収束(しゅうそく)していなかったらしい。
 顔をあげたとき、あたりに気配を感じ、周囲を見回す。いつのまにかトナーラの群れに囲まれており、俺たちは四方をふさがれていた。

 20体ほどのトナーラとしばらくはにらみ合いになったのだが、襲い掛かってくるわけではないようだった。

「ついてこいって言ってるワヌ」

 フォッシャはモンスターとある程度の意思疎通ができるのか、そう教えてくれた。

「え、えっと……できれば遠慮したいんだけど……」

「怒らないからついてこいって言ってるワヌ」

「それ十中八九怒られるやつ!」
 
 逃げ道をふさがれ、ほとんど無理やりジャングルの奥へと俺たちは案内された。

 入り口とは違い、奥地は植物や昆虫、生物の種類もどうやらかなり異なるようだ。

 美しくも毒々しい自然が、獣道を彩っている。

 しかしこのトナーラたちはどういうつもりなのだろう。

 俺たちは子供を助けた側なのだが、俺たちが子供を襲ったのだと勘違いされている可能性もある。

 だが正直なところ俺たちに、もうこの数の相手から逃げる気力は残っていない。

 俺もフォッシャも、万事休すかと焦燥感(しょうそうかん)に駆られながら道を進んでいった。

 そのうち石造りの遺跡らしき建物にたどり着いた。あちこち苔(こけ)むしていて、最近人が出入りした痕跡がない。
 なかは薄暗かったが、ところどころ陽が差し込んでおり、トナーラに導かれるまま歩いていく。

「え、エイト……」
「なんだ……」
「すごい嫌な予感がするワヌ……」
「なんだか怖いワヌ」
「……俺も」

 この数に勝てる見込みは薄いけど、いざとなったら一か八か挑むしかない。

「お礼をするだけだから安心しろ、って言ってるワヌ」
「信じていいのか……?」
「わからんワヌ……」
 
 ある程度きたところの部屋で、トナーラたちは止まった。そして俺たちを置いて、一礼すると元来た道を戻っていった。
 大きな部屋だった。かなり古い建物なのだろう、今にも崩れてきてもおかしくはない。

 いったいトナーラたちはなにがしたかったのだろうと考えたが、その答えはおそらくすぐに見つかった。
 部屋の中央の祭壇(さいだん)のようなところに、1枚のカードが浮いていた。天井の隙間から洩れ出た光を浴びて、神々しさを放っている。
 
 カードを手に取るやいないや、俺は息を呑んだ。魔力のオーラでわかる、このカードはかなりの上物だ。
「すごい……オドが固まってできた、天然のレアカードワヌ……きっとかなり珍しいはずワヌよ……!」

 トナーラたちは、仲間をたすけてくれたお礼にこのお宝をくれたのだろうか。

 『宿命の魔審官』という名のカード。影のある男がカードに映っている。その背後に、二丁の拳銃が宙に浮かんでいる。
 この拳銃が念力かなにかで自由自在に動いて攻撃する、ということなのだろうか。デザインの格好良さに、思わず目を奪われた。
 宿命の、か。なんだかかっこいい名前だけど、強いのだろうか。
 この世界のヴァーサスとかいうカードゲームも興味はあるにはあるんだけど、今はなかなかやる余裕がないんだよな。
 
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