カードワールド ―異世界カードゲーム―

イサデ isadeatu

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ラジトバウム編

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 街の危機を越えたお祝いに、ラジトバウムは連日お祭り騒ぎだった。

 凱旋は派手に行われた。豪華な装飾の馬車の荷台に乗って、お祭り騒ぎの街を回る、パレードのようなものだった。
 沿道の人々がよくやった、すごいぞなど声をかけてくれる。その中には、見知った顔もいくつかあった。
 馬車に揺られながら、俺は包帯の巻いた手を観客に振る。なんだか偉くなったような気分で、悪くない。

 こういうのは慣れてなくてちょっとやりにくかったけど、俺の肩に乗っかっているフォッシャはすごい嬉しそうだった。
 ハイロが教えてくれた話では、なぜかラジトバウムでは飛龍を退治したのはローグで、俺はちょっと手伝っただけみたいなことになっているらしい。すこし納得いかない気持ちもあるが、変にフォッシャのことが騒動にならないように、ローグが気をつかってくれたのかもしれない。

「苦労した甲斐があったワヌ」

 フォッシャの言葉に俺も共感する。あまりこの街のためになにかしようという気持ちで戦ったわけではなく、とにかく必死になって向かっていっただけなのだけど、こうしてラジトバウムに活気がもどったのをみるとなんだか嬉しい。

「それにこのカードがあれば、大会じゃ無敵だろうな」

 ゼルクフギアのカードを手に持ってひらひらとさせると、フォッシャが青ざめた顔で「あんまりこっちに向けないでほしいワヌ」と言った。

 それを見ていたローグが、声をかけてくる。

「公式大会ではさすがに災厄のカードは使えないわよ? いわゆる禁断カードリストに載っているわぁ……」

 フォッシャも俺も、目を丸くして唖然となる。
 ……え? 使えないの?

「……禁断カード……なるほどそういう……ヲチね……」

 脱力感で気絶しそうになったが、なんとか倒れるのはこらえた。

 そのあと、ハイロとラトリーたちがこちらにカードを振っているのが見えた。町長さんも元気な姿でいる。俺とフォッシャは顔を見合わせ、荷台から勢い良く飛び降りた。

「エイトさんさすがです! 勝つと思ってました」

「ハイロが貸してくれたカードが、活躍してくれたからな」

「あ、あのエイトさん、私も手を怪我したのでおそろいですね……。え、エイトさんが勝てるよう、ずっとプレゼントしてくれたカードに祈って……だ、だからその、き、きっと勝てたのは、ぁぃゴニョゴニョゴニョ……」

 ハイロがなにか言った気がしたが、お腹のあたりになにかぴとっと誰かがくっついてきたのでそちらに気を取られた。
 見ると、ラトリーが目に涙を浮かべながら、抱きついて俺の背中に手をまわしていた。

「おにいちゃん……ありがとう」

 ザワ……と観衆がどよめく。

「お、おいやめろって。またヘンなウワサが……」

「おにいちゃん……」

 ザワ……ザワ……と町中によくない声色が広まっていく。自分の顔から血の気が失せていくような感覚がした。
 だがラトリーはギュッと俺の服をつかんで、振りほどこうとしても離してくれない。

 ハイロとフォッシャに助けを求めようとして目をやると、ハイロが背をやや丸めてナイフを抜いているのが見えた。
 うつむいてはいるが、感情を失ったように瞳孔がひらいているのがかなり怖い。

 なんで!? なんかハイロすげえ怒ってないか!?

 心当たりは……ある。ハイロが貸してくれたカード、ゼルクフギアとの戦いでボロボロになるまで使っちゃったもんなぁ……
 何枚かトリックカードは破れちゃったし……やっぱりそのことだよなぁ。

「ご、ごめんハイロ! カード、何枚か破られ……」

「あなたを……破壊します」

「そこまで!?」

 ゼルクフギアを倒すためだったからしょうがないとはいえ、カードゲーマーの怒りをあなどると恐ろしいことになる。なんとかこの場は治めないと。
 だがラトリーは離れてくれない上に、まわりの人も怪訝な顔を浮かべているばかりで助けてくれる気配がない。

 ゆっくりと、ナイフと鎖をかまえて、ハイロがこちらにちかづいてくる。

「ふぉ、フォッシャ……。たすけてくれ、相棒だよなおれたち!?」

「お得意の逆境力でどうにかするワヌね」

 他人事だとおもって、ちょっと笑ってやがる……。

 うう……。なんでこんなことに。

 これが……これが逆境かッッ……!!!








 『逆境に愛された男の異世界カードゲーム』

  ラジトバウム編 TURN END




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