カードワールド ―異世界カードゲーム―

イサデ isadeatu

文字の大きさ
64 / 169
ラジトバウム編

46

しおりを挟む
 病院で寝ていると、時おりきこえてくる街のにぎわいが心地よい。
 ゼルクフギアとの一戦は嘘だったかのように、ラジトバウムには平穏がもどりつつあった。
 治療のおかげで、両手も問題なく動かせる。
 包帯はまだとれていないが、火傷も順調に回復している。ラトリーの話では、一ヶ月もすれば元通りになるだろうとのことだった。

 目覚めるまで看病してくれたらしく、ハイロが隣のベッドでうつぶせで寝ていた。彼女もまだ傷が完治していないだろうに。
 ローグが病室に入ってくる。見舞いにきてくれたのだろうか。
 そんな甘いわけがないか。フォッシャのことについて知りたいはずだ。

「今日はこれを渡しにきただけだわぁ」

 ローグは思ったより柔らかな表情で、1枚のカードを俺の前に差し出した。

「こりゃ相当強そうなカードだな」

 カード化した『ゼルクフギア・ラージャ』のカード。カードになっても、異彩をはなっている。

「それじゃあね。……ああ、それと――」
 
 ローグは病室を出る間際、こちらに背を向けたままわずかに顔をかたむける。

「お見事、ね」

 ローグが俺を褒めたことも意外だったが、やり取りがあっさり終わったことにも驚いた。
 なんだか安心したと同時に、これでラジトバウムでの出来事も終わったのだなと感じる。

 アザプトレ、ボルテンス、ローグ、ゼルクフギア、強敵ばかりだった。だがやつらと本気で戦ったからこそ、この世界で生き抜いてやるという意地が芽生えたような気がする。

「エイト……よくやったワヌ!」

 獣の姿にもどっているフォッシャが、俺の頭にのってわしゃわしゃと髪を荒らす。撫でているつもりなのかもしれないが乱暴すぎるので、ぽいっと隣のベッドにフォッシャを投げる。

「エイトの言ったとおりだったワヌ。……どんなカードにも強さがある。フォッシャたちにも、逆境を乗り越える力があるんだって……」

「……ああ」

 フォッシャがいてくれなかったら、ムリだったよ。この戦いだけじゃない。ここに来てからずっと……

 ……ありがとな。と、俺は心のなかでつぶやいて、フォッシャにふっと微笑みかける。

「審官のカードは、失っちゃったけどな。……けっきょく一言も会話できないまま……」

「またどこかで会えるワヌよ。オドの結晶になるまで、千年後か二千年後かはわからないけど……。カードとのつながりは、ずっと心の中にあるものワヌ」

「……かもな」

 また会えるかもしれない。オドとやらが運命を決定付けるから、か?
 どうであれ、どんな逆境がまっていてもカードの力で切り抜けなきゃな。

「ま、今回のことでフォッシャが必死になって復元のカードを探す理由がよくわかったよ」

 嫌というほどな。

「これからも、もちろん一緒にきてくれるワヌね?」

「…………お前といたら、命がいくつあっても足りない」

 正直に言って、だ。

「だけどお前といたら……おもしろいカードたちに会えそうだよな」

 そう言って、ふたりで笑いあった。

「それは保証するワヌ。フォッシャたちがいくのは……カードの道ワヌ」

 ラジトバウムでの戦いは終わった。
 大変なことばかりだったけれど、なんとか今日まで生き抜くことができた。
 どんな逆境でも跳ね除けるエースカード、『暁の冒険者』。あのカードの強さは、俺の心の中で生きている。
 『宿命の魔審官』もまた、俺たちに未来を残してくれた。カードの道という未来を。

 彼らだけじゃない、氷の魔女やテネレモたちもまた優れたカードだった。どんなカードにも意味はある。それが俺自身にも言えるなら、俺もまた強くカードの道を歩もう。どんな逆境にも負けないよう、力強く、確かに。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

処理中です...