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王総御前試合編
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しおりを挟む高ランクの冒険士は、無条件に専用の部屋を借りることができるらしい。
そういうわけで研究室で、フォッシャの特訓を行っていた。
「じゃあ、えっと……ここはこの『モグタ三等兵』でエイトの『アクスティウス・キッド』を攻撃ワヌ」
この攻撃は通る。俺の手札に防御系のトリックカードがあるから防げなくもないけど、フォッシャの練習なのだから本気でやるわけにはいかない。
ボード上のミニ立体映像が動き、アクスティウスはやられて墓場にいってしまう。すまん、今は練習だから安心して眠ってくれ、アクスティウス。
「いいんじゃないか? アド得かどうか、ちゃんと考えられるようになってきたな」
俺が褒めるとフォッシャは得意げに胸をはって、
「えっへん。ハイロもさっきそれ言ってたけど……なんワヌ?」
「あぁ、アド得っていうのは、アドバンテージ、つまり優位があるって意味だよ。色んな選択肢があるなかでなにが最善なのか考える、それがカードゲームのひとつの面白さなんだ」
「うーん……サイゼン、か。むずかしいワヌね。頭つかって疲れるワヌ」
「ま、むずかしく考えなくてもいいんだけどな」
「そうなの?」
「強いデッキには、必ず[テーマ]がある。どうやってたたかいたいのか、どうやって勝ちたいのか。アドが取れてるか考えるのもいいことだけど、もっと大切なのは、自分がどうしたいかだと思う」
「自分がどうしたい……。テーマか……フォッシャにできるかなぁ……」
「そのうち、なんとなくこういう風に勝ちたいっていうのが出てくるよ」
そんなことを話していると、フォッシャは急に声のトーンを落として、
「……ごめんね、エイト。カードのこととか、フォッシャの一族のこと黙ってて。だけどやっぱり、それについてはあんまり言えないんだ……ごめん」
「俺はお前はなんか不思議なところがあるってわかってたけどな」
やっぱりフォッシャは、どうもまだすこし落ち込んでいるらしい。自分の力のことで責任や不安を感じてるんだろう。
「だってここにきてからわけわからない目にあってばかりだったけど、昼は獣で夜は人間って、そんなやつ他にいないもんな。……あっエロい意味はないぞ!! 真面目な話で……!」
いらんことを口走った焦りで、あわわとリアルに変な声をだしてしまい、逆に恥ずかしさが増す。か、顔が熱い。
「そ、その……別に気にすんな。だれでも心に秘密のカードがあるもんさ。お前にも俺にも……。オドの一族がどうとか、そんなことどうとも思わない。なんだかんだ言っても、俺はお前には助けられてる。俺にとって大事なのはそのことで、オドがどうちゃらなんてことはぜんぜん興味ないよ」
「……秘密のカードって……なんかちょっとキモいワヌ」
「フォローしてあげてんじゃねぇか……!」
まったく気をきかせてやってるってのに。
だがウケはよかったようで、けらけらとフォッシャは笑う。
なにかまぶしい気がして、みるとフォッシャの手札がかがやきを放っていた。勘違いかと思ったが、俺がフォッシャの笑顔のまぶしさにやられたわけではなく本当に光っている。
まずい。実体化の合図だ。となりでカードゲームをしていたローグとハイロも異変に気がつく。
フォッシャはあわてて手札を机の上に放り投げたがもう遅かった。ウォリアー『ケセラン・パセラン』と【影分身の術】のカードが実体化して、研究室が白くて丸い毛玉のモンスターでいっぱいになる。
「あわわ……」と声をあげながら手のひらサイズの毛玉たちを回収していくフォッシャにつづいて、ローグたちも急いでその辺の布に毛玉をつめていく。
一匹、窓から研究室の外に逃げてしまった。俺は部屋をとびだしてあわてて後を追う。
風にのって去っていくカードを追って、王都の町を走る。
通りにでたとき、ケセランパセランが歩いていた若い女の子のほうに流れていった。
危険なカードではないとおもうけど、騒ぎになったらまずい。どうにかして衝突は止めないと。
ぶつかる前のコンマ何秒の間に、頭をフル回転させてどうにか防げないかかんがえる。
街なかでぶっ放すのはしのびないが、冒険士にだけ使用を許可されているトリックカード『セルジャック<肉体強化>』で加速してケセパさに追いつき、同じく『クロス・カウンター』でキャッチする。これだ。これしかない。
【衝突までのこり秒数】
0.5 加速してケセランパセランに追いついた。
0.4 クロス・カウンターを発動してケセランパセランを素手でキャッチした。やわらかくて気持ちいい。
0.3 ぶつかりそうだった女の子が、なぜかこちらに武道のかまえのようなものをとっている。
0.2 カノジョからものすごく鋭い蹴りがくりだされた。こちらの顔面にむかってくる。避けきれない。
0.1 これってマジで死ぬ何秒前ってやつじゃねえの?
ドガシッ、と蹴りが俺の顔にクリティカルヒットし、手のなかのケセパサと一緒に俺は道の端まで吹っ飛んだ。
んぎゃあああああああああああ!!! リアルにこんな悲鳴出したの赤ちゃんのとき以来だわ!
地面にはいつくばっていると、ふと3人の天使が見えた。
俺は死んだのか? いやよくみると一匹は犬かネコみたいで人間っぽくすらないな。
ハイロとローグとフォッシャか。あぶないあぶない、本当にお迎えがきたかと思ったぞ。
「エイトさん、だいじょうぶですか!?」
ハイロが体を揺さぶってくるが、俺は返事をすることもできず指でわっかをつくって平気だというサインを送る。
ハンパではない痛さだったけど、冒険士としてモンスターと戦った経験があるからなんとか耐えられた。
「お姉ちゃん……!?」
俺に見事な蹴りを食らわせた女の子が、ハイロをみて声をあげる。
「探したよ! ラジトバウムまでいったんだからね……!?」
「ミジル……? 探しにきたの?」
姉妹(しまい)なのか。そう言われるとどことなく似ている。
「ところでだれ、この人。なんか抱きつこうとしてきたから蹴っちゃった。もしかして私ってモテるのかな~……ごめんね、痛かったよね」
ミジルと呼ばれた少女はこちらに寄って、俺の頭をやさしく撫でてくれた。優しい表情はハイロに近いものがある。
……女の子とのイベントが人生で皆無だった俺にとって、今日だけで忘れられそうにない思い出ができたよ。
「え、エイトさん……?」
ハイロから疑惑の視線をうけているのを感じたが、俺は起き上がることができないので、両手を使って×サインを送る。ケセパサを手から解放してやり、フォッシャにあずけた。
ローグに助けられて起き上がり、地面に座ったまま壁に背をもたれる。
「エイトさんはカード仲間です。そんなことをする人じゃありませんよ……。大会があるので、まだしばらくは帰れません。母さんたちにもそう伝えてください」
「えっ……」
「でも、せっかく会いにきてくれたんだから、なにか観光でもしようか? ミジル」
ミジルの表情はだんだんと曇ってゆく。
「まだ帰れないって、どういうこと?」
「いや、だから……」
「そっか……ハイロはこの男にだまされてるんだね……。だっていくらカードが好きでも家族と私を捨てて、カードのこと優先するわけないもん。あの優しいハイロおねえちゃんが……」
いやいやいやいやや!? 何の話!? なんか蹴りいれられたうえに変な容疑までかけられてるのか。
「家族の邪魔をしないで」
ミジルの雰囲気が一変した。あきらかにこちらに敵意を向けている。
ハイロが俺の前にかばうようにして立ち、
「捨ててなんかいませんよ。武者修行と同じことです。エイトさんを傷つけるようなら……ミジル、あなたでも力づくで止めますよ」
「……そ、そんな……もどってきて! 目を覚ましてハイロ! いつ帰ってくるの!? みんなでまた一緒に住もうよ!」
「……ごめんね、ミジル。こんど御前試合って大事な大会があるから、まだ戻れない。……家のことはすごく大切に思っていますよ。家族の力になりたいとも。だけど……どこまで自分のカードが通じるのか……試してみたいの」
「そ、そんな……」
「ずっと……夢だったの! カードの大会で活躍することが……!」
ハイロの言葉には、真摯な情熱が篭もっているように思えた。
ミジルはこちらをきっと睨んで、
「あんたが……お姉ちゃんをこんな風にしたんでしょ……! このカードクズ男!」
いやいやいやいや知らないし!?
「カードクズ男……? 聞き捨てなりませんよ、ミジル」
「お姉ちゃんどいて。そいつ、お姉ちゃんになんか吹き込んだんでしょ。家族の絆を壊そうとするやつは……殺してもいいよね」
ど、どういう話!? なんでカードやってるだけで殺すとかそういう話になってきちゃうの!?
「そうはさせませんよ」
またもハイロが立ちはだかり不穏な空気になったが、ミジルはやがてあきらめたのか拳をさげてうなだれた。
「ハイロ、私もここにしばらくいることにするよ。エイトとか言ったっけ。あなたがハイロおねえちゃんにふさわしい男なのかどうか……見極めさせていただきます!」
「ええええええ!? ふ、ふさわしいってそんな、むしろ私がっ、お、お、おこがましいいくらいなんじゃないかと……!」
「もしあなたがハイロにふさわしくない人物だと判断したそのときは……無理やりにでも排除しますからね」
そうか。彼女が何を言っているのかわからなかったけど、なんとなく話が見えてきたぞ。
「俺じゃハイロと組むのに実力不足だっていいたいのか?」
「そうよ!」
「な、なんか話かみ合ってなくないワヌか?」
悔しいけどあの蹴りをかわせなかったのは事実だ。まあ蹴りとカードゲームの実力はなんの関係もないけど、情けないやつだと思われたままなのも癪だ。
「わかった。……御前試合は大事な大会なんだ。ハイロの力は絶対に必要になる。……そのためなら、実力を証明してみせる」
「ひひひ必要!?」
やけにハイロが反応してくる。だけど本当のことだ。
「フン。口だけはいっちょまえみたいね」
腕を組んで、こちらをにみつけてくる。
ミジルはどうやらハイロを連れ戻したがっている。妹としてハイロのことが心配な部分があるんだろう。だけどこちらとしてもハイロは必要だ。
要はカードゲーマーとしての力を認めてもらって、ミジルを安心させることができればいいわけだ。それならいくらでもチャンスはある。
それからというもの、本当にこのミジルは俺を四六時中監視してきて、息をつく暇がなかった。
ミジルの前ではなんとかカードゲーマーとして節度ある行動ができたとは思う。
けど、さすがに風呂に入るため着替えるという時もギリギリまで積極的に監視してこようとしたので、さすがそれはハイロに止めてもらった。
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