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王総御前試合編
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しおりを挟む次に向かったのは、王都のとあるカードショップだった。
店主とおもわしきおばさんが、店番をしていた。こちらに気がつくと彼女はニヤッと笑って、
「おや。新顔だね」
「ここに強い人たちがあつまってると聞いたのですが」
「ああ。奥でやってるよ」
スペースのほうをみる、ヤギやらワニやら、獣人族の方々がなかなか多くいらっしゃっていた。なるほど、これはわかりやすい。獣人族の故郷はもっと遠くだと聞く。実際王都でもあまり見かけない。それがここに多く姿があるということはつまり、王都に立ち寄っている強い獣人族のカードゲーマーがこの店に集まっているとみておかしくはない。
「だれか試合をしてくれませんか? できればここで一番強い人がいい」
臆さずに俺は声を張り上げた。なかなか初心者はカードショップの対戦スペースというと緊張して敬遠しがちだが、別に慣れればなんてことはない、カード好きな同じ穴のムジナばかりだ。
「なんだい? ずいぶん態度のでかいボウヤだね」
やや化粧っぽい人間の女性が、不快そうに言った。自分でもむちゃくちゃな挨拶だと思ったが、これでいい。別に好感度を稼ぎにきたわけじゃない。
「待ちな。いいぜ、相手になってやる」
名乗り出てきてくれたのは、大柄なワニっぽい獣人族のカードゲーマーだった。さっそく席について、おたがいのデッキを交換してシャッフルする。
この世界にも当然デッキ交換の文化がある。なぜ交換してシャッフルするのかというと、不正を防ぐためだ。積み込みといって、自分でシャッフルをする場合、やろうと思えばカードの順番を操作することが割と容易にできてしまう。あるいは、コンボとなるカードをある程度まとめたり。だがお互いのデッキを交換して入念に切り混ぜればカードをバラすことができ、対等で公平な条件で試合ができる。
7分ほど経っただろうか。試合に勝つことができた。
手ごたえはあった。この対戦相手はよくカードを研究している。だがハイロのほうが強い。俺との間にもはっきり言って、力差はある。だがそれでも7分。キゼーノはあの機械人形に5分で勝って見せた。やはりそこには単純にヴァーサスというカードゲームをやってきた年数の差がある。実際に対戦したときに俺があのキゼーノにどれだけやれるかはわからないが、俺ももっと、ひとつひとつのカードの働きを追及しなくては。
その後、何人も何人も、連続でボードヴァーサスの試合をした。意気のいいカード好きが揃っているようで、次から次へと我こそはと乗り込んでくる。
だがこんなもんじゃまだまだだ。
もっと気迫のあるカードゲーマーたちといくども戦ってきた。ここにいる彼らも充分強いが、強さに圧がない。真の猛者は狂気じみたような、本当に殺しにかかってくるくらいの雰囲気がある。
今の俺があのキゼーノレベルに到達するためには、感覚を自分の一番強かったときまで戻さなくてはいけない。こんなんじゃ物足りない、それこそローグかキゼーノクラスでなくては。ハイロのおかげでヴァーサスの勉強には事欠かないが、同じ人とばかり練習しているだけじゃ戦略の幅が広がっていかない。そういう意味での、カードショップめぐりというわけだ。
「つ、つええ……!」
「これで15人抜きだぞ、信じられねえ……どうなってんだ。15回もやってれば1回は負けるだろ普通、なあ!?」
「わからない……だがプロではない……プロならば私たちのだれも彼を知らないはずはない」
「どうしてあんなデッキとカードで勝てるんだ……!?」
すでにほかのプレイヤーたちが輪になって俺のテーブルを囲んでいた。みな興味深そうに盤面を見つめている。
――強い、か。本当に強いなら、決して誰にも負けない。決してどんな逆境にも屈しない。だが俺は…………俺は……
「ありがとうございました」と、挨拶をして、俺はギャラリーを押しのけて店を出た。
「思い出した! あいつたしか精霊杯に出てた……」
「ああ、あの棄権したとかいう!」
「あれだけ強いひとが、どうして棄権なんてしたのだろう……?」
おいおい、こんなところにまで俺の悪名がとどろいてるのか。本当にカードゲーマーの情報収集力は恐れ入るな。
それから何日かの間、王都のカードショップというカードショップをいくつも訪ねまわった。半ば道場荒らしのようになってしまったが、キゼーノクラスに勝つにはこれくらいしなければ勝てるようにはならない。
すべては御前試合に向けての下準備だ。
ある日カードショップから帰ってくると、宿の部屋の外の廊下にローグがいた。腕を組んで、壁に寄りかかっている。俺を待っていたのか、目が合うとフッとわずかに微笑んだ。
「さいきんおもしろそうなことをしてるそうじゃない。カードショップを荒らしまわってるそうね」
「荒らしまわってるというか……すこしでも感覚をとりもどしたくて」
「感覚を?」
「カードは引退してた。……久々にカードによくさわるようになったのは、ラジトバウムにきてからなんだ。カンも腕もかなり鈍ってる。……あいつクラスのやつに勝つには、ずっと前のいちばんよかった状態をとりもどさなきゃいけない」
あいつというのは、もちろんキゼーノ選手のことだ。だがわざわざ言わなくても、ローグもヴァルフだからわかるだろう。
「それでお望みどおりの強い人とは出会えた?」
なんとも答えにくい質問だ。当然なかには優秀な相手もいたがキゼーノクラスかどうかまではわからない。なぜなら俺はキゼーノと勝負したことがないから正確な力量を知らない。あれからハイロと一緒にキゼーノの資料をしらべて研究もしたが、彼女の実力が完全にわかったわけではない。結局向かい合ってみなければ肝心な部分はわからない。
だがレベルの高い練習はできた。完全にトップフォームに戻るまでたぶんあとすこしだ、さらに上のレベルの人間と試合ができれば、ヴァーサスのこともより深くわかってくるはずだ。
「うーん……」と返すと、後ろから「あっ、エイト!」と聞きなれた声がした。廊下の向こうから、フォッシャがやってきた。
「ちょうどいいとこに。ローグと話したんだけど、エイトを連れて行きたいところがあるワヌ!」
「ローグと? なんか嫌な予感がするんだが……どこにいくんだ」
「巫女(みこ)のところワヌ」
……みこ?
…………だれ?
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