カードワールド ―異世界カードゲーム―

イサデ isadeatu

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王総御前試合編

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 敷地らしい、裏山に着いてから会議をひらく。そこでハイロが練習プランの書かれた紙をくれた。それをフォッシャと二人でおそるおそる見る。
 特訓プランのあまりの厳しさに、俺は絶句した。となりのフォッシャも、声をふるわせてハイロに質問した。

「ハイロ……これは?」

「約2週間分の特訓メニューです」

 平然とした笑顔で、ハイロは言ってのける。俺はあいかわらず、口を開けて言葉を失ったままでいた。

「ちょっと待って……カードゲームの練習にきたワヌね? こ、こ、この体力トレーニングっていうのは……」

 フォッシャがいうのも無理はない。ハイロが作ってくれたプランによると、2週間のうち1日4時間は必ず山登りや遠泳といった基礎体力トレーニングが計画されていた。
 彼女はここで冗談をいれてくるタイプではない。大真面目にこれを俺たちにやってもらうつもりなのだろう。俺の手汗で、紙がどんどん湿っていった。

 俺は自分の顔から血の気がひいていくのを感じながら、おそるおそる手をあげて言った。

「あの……俺だけ書いてあるこの[べんきょうの時間]っていうのは……」

「みてわかんないわけ? あんた歴史のチシキからっきしないから、勉強したほうがいいって全員一致できまったのよ。ていうかさぁ、カードゲーマーなのに歴史のチシキゼロってどういうこと? あんた自分が使ってるカードがなんなのかちゃんとわかってんの?」

 高圧的な態度をとるミジル。いやわかってないこともあるけど精霊とか竜とかそういうのは雰囲気でなんとなくわかるじゃん。たしかに【宿命の魔審官】とか、なんの仕事をしてた人なのかぜんぜん知らないけどさ。

 めまいがする。カードゲームをやりたいんであって、歴史の勉強したいわけじゃないんだが。

「ま、まってくれ。れ、歴史の知識ならそんなにないわけじゃないぞ。ほ、ほら、世界三大発明は羅針盤・火薬と……あ、あ、あ、あとほら、エジソン、ニュートンがどうとか……」

「あんたさぁ……なめてんの?」

 ですよね……

「ああ、あと言っとくとあたしがセンセイやるから。カンシャしなさいよね」

 い、いかん。熱でてきた。

「ハイロが教えてくれるんじゃないのか?」

 と、思わず願望を口にしてしまった。まだローグが教えてくれたほうが集中できる。

「えっと……」

「ハイロとフォッシャにも別メニューがあるんだから、私はそちらを手伝わないと」

 ローグはそう説明して、肩をすくめる。

「ローグさんとも相談したんです。私はエイトさんのカードの能力を伸ばすべきだと進言したのですが……」

 いや……まず俺と相談してほしかったんだけど……まあそれはもういいか。

「スオウザカ、あなたは見たところ我流で鍛えた戦い方をする。それにしては時々歴戦の古豪のような展開や戦略を見せるけど……今のあなたには明らかな弱点が2つある」

 ローグはそう言い、

「ひとつは御前試合を勝ち抜く体力。エンシェント式はボードヴァーサスより何倍も体力を消費する。もうひとつは、ドローの練習だわぁ」

「洗練されたドローにはオドをより引き出す力があります」

 と、ハイロが付け足してくれた。
 洗練されたドローってなんだ。オドがどうってどういう意味よ? しかしここまできてドローの練習とは。

「おいおい……冗談だろ?」

 思わず変な笑いがでてしまった。
 カードをはじめたころから、一日100ドローの練習を欠かさなかった俺が今更ドロー練習だって? 来る日も来る日も起きてはドローしトイレに行ってはドローし飯食ってはドローし……
 鏡を使ってどんなドローが1番カッコいいか試す、シャドードローイングだって練習メニューに取り入れてたんだ。
 これ以上どうドロー力を伸ばせと?

 ローグはカードを持って、大きな岩のまえに立つ。

「ドローでこの岩を切れるようになりなさい」



「…………」


 …………は?



「無理だわ!!」

 腹の底から怒気をこめて俺は叫ぶ。

「あのねえ私は別にひどいジョークを言ってるわけじゃないのよ」

「むしろジョークであってほしいんだが……」

「力任せに切れって言ってるんじゃない。オドのコントロールに最適な修行なのよ。エイト、あなたはまだカードと自分の力を引き出し切れていない」

「引き出しきれて……いない……!?」

「オドを制すことによって、自身のすべての能力が上がるだけではなく、カードの潜在能力もより引き出すことができる。ドローこそ基本中の基本にして奥義なのだわぁ」

 なるほど。戦略的な意味じゃなく、魔法的な意味でってことか。

「そういえば……ゼルクフギアとの戦いで審官のシークレットスキルを呼び覚ました時、なにかいつもと違う感覚があったな……」

 あの飛竜を封印した時の感覚。
 あの特別な感じがオドのコントロールなのか。
 たしかに使いこなせれば、大きな力になるかもしれない

 ドローの練習は何度もやってきたんだ。精神を統一させ、息を細く吐いて脱力する。岩から数メートル離れた位置で、俺はカードを引く。

「……良し! ドロー!」

 気合をこめた渾身のドローだった。風を切り、パシュン、という音がした。

「ど、どうだ?」

「全く変化が……」

「ないわね」

 ハイロとローグはまじまじと岩を見つめて言う。たしかに特に変化がない。

「あっ、エイト! よく見たら表面の苔(こけ)は削れてるワヌよ!

「……こけ……」

 わりとショックを受けている俺のうしろで、ミジルが腹を抱えて爆笑していた。
 ハイロはすこし驚いた顔で、

「そっか……エイトさんってまだ初心者なんですよね……ずいぶんカードの戦略にくわしいから、忘れていました」

「ハイロも岩が切れちゃうわけ?」

「は、はい、まあ……。まっぷたつ、とはいきませんが……」

 まあミジル、ハイロ、ローグの三人なら腕力で岩切ってもおかしくないのが恐ろしいところだな。

「逆に言えば、まだそれだけエイトは強くなるってことワヌ! 今でも力あるんだから、きっとすごいヴァルフになれるワヌよ!」

 俺の足を、はげますようにポンポンとフォッシャが手でたたいてくれる。

「がんばってみるよ。オドのコントロールができるように……カードの力を引き出しきれていない、なんて言われたら黙ってられないからな」

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