116 / 169
王総御前試合編
42
しおりを挟む城のなかは水で埋め尽くされていた。なんとかテネレモ、ベボイの助けをかりながら泳いで上階へとあがる。
防具を身につけたままだったら溺れ死んでいたところだ。こちらは孤立してしまったが、おそらくポッピンスライムでハイロとローグをまとめることはできたはず。まだツキはあると思いたい。
上階までは水の侵食が進んでいないが、だんだんと水位は増えていっている。早くローグたちと合流しなければ。
カードを通して連絡をとる。ローグからコールがきていた。
「いい判断だったわぁ。そっちは無事?」
「ええ。なんとか。ただベボイが毒をあびてしまって……そちらは?」
「そう。実は私も毒聖水をあびてしまったらしいの」
「大丈夫なんですか?」
「不思議と気分がいいわぁ。だけど体に力が入らないのよねぇ」
「麻痺性の毒ですか。あのカードの効果はたしかウォリアーの能力値を極端に下げるというもの。ダメージ系の毒ではないかもしれませんが、長引けば不利になるのは間違いありません。とにかく合流をめざしましょう。この状況でキゼーノとやりあうのは危険です」
「ええ。それと、あのコンボの対策を考えておかなくてはね……。いま、私とハイロは上階にいる。書斎のような部屋が見えるわ。そちらはどう」
「特に目印になりそうなものはないですね。ずっと廊下が続いています」
「そう。じゃ、あなたが向かってきてくれるかしら」
「了解」
「……あなた、雰囲気がいつもと違うわね。まあ、がんばりましょう。ここまできて負けるわけにはいかないわ」
「そちらも」
通信をおえ、テネレモを抱えて廊下をひた走る。ふと振り返ると、水滴で道に跡が残ってしまっていた。しかしどうにもできないか。服をかわかす時間もない。それに水もいずれこの階までのぼってくるかもしれない。
急ぎつつも、慎重にすすむ。分断もキゼーノの手の内。一人になったところを狙ってくるとしたら、層の薄いこちらを潰しにくると考えるべきか。
オドコストを惜しんでいる場合ではない。【セルジャック】を使用し、聴覚、嗅覚のレベルをひきあげる。この肉体強化の魔法は筋力だけではなく知覚まで高める。このことは使っているうちにわかってきた。
足音と、人の気配がわずかにする。ローグたちのものではない。水の跳ねる音が、どんどんとこちらに近づいてきている。
あえて遠くまで見渡せる広い通りに向かい、曲がり角の壁裏に隠れる。顔だけ出してのぞきこむと、遠くにキゼーノたちの姿がはっきりと見えた。あのカトゥンカイルスがサッカーボールほどに縮小化し同行していた。あのカードの図体では移動は困難だろうとたかをくくっていたのだが、期待は裏切られた。なにか魔法をつかったな。
ここで出くわせば勝ち目はない。気づけば、床が水で濡れていた。水を跳ねさせないように抜き足で、別のルートを進む。
しかし何度ルートを変えてみても、必ずキゼーノに先回りされてしまっている。
背後に気配を感じ、ふりむくとスライムのような液状のモンスターが4体ほどこちらを追いかけてきていた。枚数制限があるからウォリアーカードではない。『オジャマスライムの召喚』というトリックカードのデザインに似ている。あまり攻撃力は高くなさそうだが、毒聖水と併用されていた場合厄介だ。ここは逃げるに限るか。
スライムから逃げ、ローグたちと連絡をとりつつ城内を移動する。階段をあがって上階へいきたいところだが、スライムが行く手をふさいでいる。
しかし何かが変だ。キゼーノといいこのスライムといい、あまりに何度も遭遇する確率が高すぎる。こちらの位置を把握しているとしか思えない。
長年の勘が、なにかあると告げている。相手の術中にハマっているような気がする。デイモン氏との試合のときもそうだった。罠に誘い込まれているようなこの嫌な予感、間違いない。
自分がキゼーノだとして、この状況であのスライムにさせたいこと……
そうか、読み切ったぞ。
スライムで俺の進行ルートを封じて孤立させ、距離をつめて挟み撃ちにするつもりか。
だが仮にスライムはかわせてもキゼーノを突破するのは不可能に近い。審官のカードでもあれば別だが、なんとか手持ちのカードで工夫してこの場をのりきるしかない。
やはりキゼーノのいるこの階での合流はむずかしいかもしれない。どうにかしてスライムを突破して、上階でおちあうしかないか。それでも通路構造のわからない上階で合流するまでの間に追撃をうけるリスクがあるが、そちらの選択肢のほうがアド。
水であれば吸収できるかもしれないと考え、テネレモのドレインフラワーを発動しスライム群にあてる。が、スライムに触れた花は腐り落ちて、魔法は成立しなかった。
「毒持ちか……!」
やはり毒聖水の効果も含まれていたか。この城全体の水が毒聖水におかされているわけではないだろうが、まだあのトリックカードの使用回数は一回残っているため厄介だ。
ベボイのスリップギミックであのスライム群の隙をつくることはできるが、階段へのこの一本道でテネレモを抱えてあれだけの数をかわしきれるかどうか。またベボイには通常攻撃、弱衝撃魔法があるが毒の効果で火力は出せずあのスライムすらおそらく倒せないだろう。すこしでもあれに触れれば全員毒を浴びることになる。
こうしている間にもキゼーノはこちらに近づいてきている。わずかな時間で解決策を見出さなければ。
ふと気づいたが、スライムに当たった花は枯れたもののその周囲には魔法の花がわずかに咲いていた。床に満ち始めていた水も、花があるところだけ排水溝があるかのように水位が減っていく。
ここに、まさしく活きる路(みち)を見出した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
MMS ~メタル・モンキー・サーガ~
千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』
洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。
その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。
突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。
その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!!
機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる