カードワールド ―異世界カードゲーム―

イサデ isadeatu

文字の大きさ
115 / 169
王総御前試合編

41

しおりを挟む


「さながら水園の宴(うたげ)を守りし番狼(ばんろう)かな。スオウザカエイト。精霊杯での貴様の試合の記録を見させてもらった。カードファンの間では審官のカードのおかげで勝てたと言われているが……我方はそうは思わなかった。たしかな技術があるからこそ強力なカードを使いこなすことができる、と。そのため、いささかこの対戦も期待するところではあった。どちらが英傑(えいけつ)たりうるか……ここで決せん。いざ参る」

 いよいよ控えのカードを切ってくるか。ここからはより緻密な領域となり、正確な予断が求められる。

「不可思議(ふかしぎ)の夜城に水の賢者おとずれ、叡智(えいち)にて魔を祓(はら)わん。出でよ、知の巨獣『カトゥンカイルス』」

 あらわれたのは、500本以上だろうか、数え切れないほどの細かい触手をもつタコのようなイカのような姿をした巨大な怪物だった。まだ幼いキゼーノとの対比でより大きく見える。
 相手の控えのカードは聖札究道杯でも使っていた賢者のカードだと予想していたが、あきらかにそれとはちがう。
 なんだ、このカードは……!? 見たことも聞いたこともない。

 フォッシャにも前に言ったがカードゲームはより多くのカードの効果を知っているほど有利になる。全部とはいかないだろうが自分も普段からかなりの量のカードを調べているから、それだけ頭に入っている。たとえば、今までキゼーノが使ってきたカードのこともすべて知っている。
 しかし、あのカトゥンカイルスとやらは初めてみる。審官と同じ未知のカードだということか。

 どういう能力を持っているのか全くデータがない以上、相当の警戒が必要となるだろう。あんなカードを隠し持っていたとは。
 いきなり、カイルスはその大きな触手のひとつを俺の前にいたベボイに振り下ろしてきた。ベボイは動きが素早いので難なく避ける。床が触手の形にえぐれ、城がわずかに揺れるほどの威力があった。だが、狼のついていないカードに攻撃したことで、カウンターが入る。
 しかし怪物に狼の牙の魔法はまるで効いていないのか、カイルスは攻撃があたったところをすこしかゆそうにさするようなそぶりを見せた。

「これは……物理耐性持ちか」

 なるほど。それにあの触手、スキル発動なしであれだけの威力を持っているということはおそらくなにかある。当たったらただのダメージでは済まないかもしれない。そのうえ、あの怪物があらわれたことでこの大広間からスペースはかなり無くなり、こちらは身動きがとりづらい。

「この墨は曇(くも)らすためにあらず。深海の魔物の目を醒(さ)まさせる力なり【深海の秘煙<ブルー・インク>】」

 カイルスの口から青い煙(けむり)が放出され、それらが味方のウォリアー、そしてキゼーノたちを取り囲んだ。それぞれの体のどこかに、青い紋章が浮かび上がる。

「エイト、わかってるでしょうけれどあれはなにか意味がある。おそらく水属性の威力がアップする、とか……ね」

 ローグの忠告をうけ、二人に指示を返す。

「攻撃がきたら通常より長く間合いをとってください」

「了解です!」と、ハイロは敵に注視したまま返事をする。

 自分自身も敵カードの動向を注意深く観察する。
 ローグの予想は見事にあたり、敵カードの使う魔法の威力が増していた。水龍の使う【ダイヤモンドスライド】という水の高速噴射が、建物を壊す勢いで猛威をふるう。ただ破壊力がふえたというだけではなく、それぞれの敵カードのスピード、そして体をかすめたときのダメージがあきらかに倍増している。

 だが敵の猛攻を、ハイロとテネレモがうまく防いでくれる。時折押されそうになっても、ベボイのスリップギミックが相手の動きの邪魔になって効いていた。相手に読まれはしたもののやはりベボイは優秀なカードだ。
 また相手は小回りの効くナミノリを失い、水龍とカイルスもスピードはないので接近戦における機動性を欠いている。近接戦闘ではこちらにやや分があるかもしれない。審官の読みを外せたのは望外に大きかったかもしれない。
 狼憑きのカウンターが刺さり、今度は水龍にダメージが入った。狼のついているローグかハイロか自分か、あるいはその他カードたちのどれかに攻撃があたるまでカウンターは続く。

「どれに狼がついているかわからないなら……すべてに攻撃をあてればよい」

 そうつぶやき、キゼーノが動いてきた。今の状況は向こうにとって都合の良いものではないはず。おそらくなにか仕掛けてくるならここだ。

「トリックカード……【大河の洪水 <フラッディング>】……【濁流(だくりゅう)】…………【毒聖水(どくせいすい)<ホーリーポイズン>】……スキル【小落下傘機雷(しょうらっかさきらい)】……!」

 4枚のカードを一気に切ってきた。突如として大量の水が周囲に沸き起こり、濁流となってこちらに向かってくる。毒魔法と機雷も同時にまざっており、まともにくらえばこれだけで試合が終わってしまうことが容易に想像できた。
 キゼーノの魔法コンビネーション。ここを耐えられるかどうかが勝敗の分かれ道となる。

「トリックカード。【逆流(ぎゃくりゅう)<バックカレント>】」

 対応として使ったのは、聖札究道杯決勝でキゼーノの敗因となったカード。価値が高く本来入手は困難だが、王都のカードショップのなかで一店舗だけこのカードが店頭で売られていたのを覚えていた。
 キゼーノ対策、メタとして用意した。やはり使う場面がきたか。
 しかし、

「なにっ……!?」

 逆流の魔法で一瞬洪水を押し返したように見えたが、防波堤が決壊するかのようにこちら側に水は勢い良くなだれこんできた。

「賢人(けんじん)過ちを二度しらず。先の大会ではその魔法にやられたが……すでに見切っている。ブルーインクの効果により水属性の威力が増幅された今……このゲキリュウは止められない!」

 キゼーノのそういう声が聞こえたのも束の間、荒々しい水の衝撃が全身を襲い、完全に流れに飲まれこんでしまった。
 まずい。【濁流】のカードはたしかボードヴァーサスでは相手ウォリアーを手札に戻す魔法。エンシェントでもおそらく分断系のわざだろう。ここで味方が全員バラバラの部屋に流され隔離されては、勝機がない。

 おそらく【毒聖水】と【小落下傘機雷】は攻撃手段であると同時にその分断の狙いを隠すための目くらましだと考えられる。言うまでも無く強力なコンボだ。
 逆流のカードで押し返せなかった今、このコンビネーションを防ぐ手立てが用意できない。とにかく、自分とカードたちが【毒聖水】と【小落下傘機雷】をもろに食らったとしても、クイーンであるローグだけはなんとしてでも守られなければならない。

 激流で呼吸もできず、体の自由も奪われているなかで、運よく視界のすみにローグとハイロたちをとらえた。彼女たちも流れにあらがえないなかで、なんとかわずかでもダメージを軽減しようと機雷を避けたり弾き返したりしていた。
 苦し紛れだが『ポッピンスライム』のカードを手に取り、発動した。水の威力でこのトリックカードは破れるが魔法は成立する。ボール状の魔法がローグとハイロ、そのカードたちを包み込み、押し運ばれていく。さすがにこの魔法の範囲はこちらまでは届かなかったが、ローグを孤立させずに済むはずだ。
 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...