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王総御前試合編
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しおりを挟むこれでかなりこちらの防御力は増した。とはいえこの防護壁はカウンターが起動するというだけでダメージを軽減できるわけではない。あくまで攻撃をためらわせて牽制する技だ。
またカードを使用した自分にすらだれに本物の狼がついているのかわからないが、それはキゼーノも同じ。防御力のあるテネレモ、そしてハイロとキゼーノという一流のヴァルフの二人がいるこの状況ではやつも全員に攻撃をあてるというのは簡単ではないはずだ。
相手のナミノリドッグはハイロとの戦いですでにかなり消耗していた。決定的なダメージが入ったことで、キゼーノもたまらずナミノリドッグを手札に戻した。
「死んでいた気迫がよみがえったようだな。貴様のいうとおりカードゲームには見えない力が働いている。すなわち勝利を引き寄せる運と、相手のミスを誘う気迫、そしてどんな状況にも揺らがない頑強な精神力。限界まで高められた技術を持つもの同士の戦いでは、わずかな気力の差が勝敗を決する。その点で貴様と我方では勝負は見えているように思えたが……この土壇場で牙を取り戻したか。……いや土壇場だからこそ、か」
キゼーノの放ってくる気迫。試合を楽しんでいる表情。自分のカードと戦術、デッキへの信頼と自信。やはり彼女は本物のカードゲーマーだとつくづく思わされる。タイプはまた違うが、これほどの強さはデイモン氏との一戦を思い出させる。
彼女を一目見たとき、優れた使い手だとすぐにわかった。目の奥に昔の自分やデイモン氏と同じものを感じたからだ。
全力で挑まなければ勝てない。その焦りから手に無理が出てしまっていた。だが今はようやくおちつきを取り戻せた。自分の役目はキゼーノとカードゲーマーとしての優劣を競うことじゃない。チームの勝利のために局面を魔法でコントロールすることだ。
キゼーノはまだ余裕のある態度で、
「それでよい。精を尽くして戦ってもらわねば、カードに対し無礼というもの」
この底知れない敵に対しては一瞬の油断も許されない。彼女が喋っている間も、こちらは手をゆるめずに次のカードを切る。
「長々と喋って思考の時間を稼いでいるのかもしれませんが……もうその手は通用しませんよ。テネレモアドバンススキル【ドレインフラワー】」
敵のウォリアーから攻撃力を一定量奪い、自分のものに加算するという技だ。エンシェントでも効果はほとんど同じである。
「こざかしい。いまさらそんなものが通用するとでも」
キゼーノはそう言いつつも的確に対応してくる。くらげ傘のスキル【小落下傘機雷(しょうらっかさきらい)<ミニブロリー>】で、敵に飛んでいった無数のタンポポの綿のような種たちは撃ち落されてしまった。相手のスキルはトラップ系統の技で、小さな傘の爆弾が壁のように平面一列に出現する。盾や罠としては優秀な技だ。だがタネの狙いは別にある。
「誰もあなたのカードから吸い取るとは言っていません。吸収するのは地面にある水です!」
キゼーノに飛んでいった種はほとんど撃ち落されたが、広間の中に広がった種からは芽が育ち、花を開く。ドレインフラワーはみるみるうちに床の水を吸い取って消していった。
この御前試合ルール、同じトリックカードは2回までしか使えない。それに対しスキルはオドコストが許す限り何度でも使用できる。これで【魔物のひそむ湖(みずうみ)】は封じたも同然。
「精を尽くす? 精を尽くすことになるのは……あなたのほうかもしれませんよ」
俺の言葉に、ぴくっと反応するキゼーノ。わずかに顔をひきつらせたように見えた。底知れない力を持つ不気味な美少女が、ようやく人間らしいところを見せてくれた。
相手のカードは逃げも隠れもできない。ハイロとローグが一斉に相手にかかって戦闘力の高さで押し込んでいく。
これでいい。これが今の自分の役割だ。
キゼーノに向かって、カードを構える。
「剣ではなくカードで身を守る戦法はあなたのスタイルを参考にしました。自分もカードゲームのなかの一部だと考えるとしっくりくる。特にこのコマンドという役はプレイヤーに近い……。あの二人は違いますが、そもそも僕はエンシェントには向いていない。だけどカードゲームなら……カードゲームで決着をつけるというのなら……望むところです」
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