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王総御前試合編
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しおりを挟むこれほど優れた名手と戦っていると、思い出してくる感情がある。頭のなかのなにかが刺激されて、今まで対戦してきた数々のプレイヤーたちとの試合の記憶が鮮明によみがえってくる。
苦しい勝負になったとき、いつも助けてくれたのはあのカードだった。このキゼーノに勝るとも劣らないほどの使い手だったデイモン氏との一戦もそうだ。
『暁の冒険者』は兄の形見のカードだ。いつもカードのことばかり考えてボーっとしていた俺は、いつも周りから浮いていてなじめていなかった。
そんな俺の数少ない理解者である兄が使うカードが『暁の冒険者』だった。どれだけこちらが色んな策をつかって押し込んでいても、あのカードが出てくるとたちまちやられてしまう。
俺は兄のようなプレイヤーになりたいと思って残されたこのカードを使った。
あのカードは俺たちの友情の証だった。ただ強いというだけじゃない、苦しい展開でも戦える不思議な力をくれたんだ。
どんな逆境にも負けない最高のカードゲーマー。
どんなに追い詰められても、知恵と勇気で跳ね除ける。
いつしかそんな風になれたらと、このカードに見合うくらい強いカードゲーマーになれたらと思うようになっていた。
そして俺はあのカードとずっと一緒にたたかって、デイモン氏との時のような厳しい勝負をいくつものりこえて、ようやく世界の舞台でたたかうチャンスを得た。
あと少しだったんだ。あと少しで、世界大会で優勝することもできたんだ。なのに俺は……
キゼーノとの勝負が俺の忘れていた感覚を呼び覚ます。カードゲーマーとしての感情を。本気で戦っていたときの、怒り、悲しみ、笑い、楽しみ、失くしたはずのそれら強い気持ちが波のように俺の心のド真ん中に押し寄せてきた。
勝ちたい……勝ちたい……ッ!
だけど頭をフル回転しても、口から憤(いきどお)りの息がもれでるばかりで、なにも策が浮かばない。
「くッ……」
ハイロが敵のヴァングと戦いつつ、こちらのほうまで下がってきた。
「エイトさん! ……私のことを、信じてほしいとは言いません。私も、自信がありませんから……。ただ、遠慮せず思い切りやってください。私のことをカードだと思って」
ハイロに檄(げき)を飛ばされて、俺ははっと我に返る。
ハイロたちのことをカードだと思って、か。そうだった、と思いなおる。俺の役目はコマンド。すべきことは、キゼーノを倒すことじゃない、味方を支援して相手のクイーンを倒すことだ。
おちつけ。戦況をよくみるんだ。
この御前試合のチーム戦は通常のエンシェントに比べるとよりカードゲームに近い。プレイヤーの存在がルールのなかに組み込まれていると考えればいい。実際にそういう種類のカードゲームもあった。
自分がプレイヤーだと考えろ。ローグ、ハイロをカードだとする。戦力比較は、AからGまででAを最高値とするとキゼーノがAを越えたS、敵のほかふたりはB、俺とハイロがB、ローグがAと言ったところだ。
状況によってもかわるので厄介度として考えると相手のナミノリドッグがC、練水探偵がA、水龍がB、くらげ傘がB。こちらはウルフB、ルプーリンDベボイC、テネレモBといったところか。
ローグの守りが固い分敵も攻めあぐねているとはいえ、コマンドを担う俺とキゼーノの差のせいで押し込められてしまっている。
知識量と熟練度のちがい。やつはヴァーサスを根本から知り尽くしている。カードゲームにおいてこの差は致命的だ。
こういうカードの試合で劣勢のとき、俺はいつもエースカードである『暁の冒険者』に助けられてきた。今はあんなに逆境に強いカードは手持ちにはない。せめて『宿命の魔審官』があれば。
そうやって頼りたい気持ちはある。だけどあの審官の訴える目は、俺にそんなことを思わせるために向けたんじゃないはずだ。
キゼーノは審官のカードを倒せたと言った。あのカードがそんなにヤワじゃない。それを証明できるのは、他でもない俺だけだ。
こんなところで情けない姿をさらしていたら、あのカードに顔向けできない。
ハイロのおかげで意識がそれたからか、いつのまにか震えは止まっていた。
思考にジャマな重い防具を脱ぎ捨て、再度カードを構える。
「トリックカード……【魂の測知】」
俺が切ったのは、前にローグが俺に対して使おうとしたカードだ。今回ある目的のために編成に入れた。キゼーノを倒すためには必要不可欠な手段だと考えたからだ。
「珍しいカードを持っているな。思念と記憶をよみ取る古代の魔法。どうするつもりだ? 至近距離でなければそのカードは使えないはず」
キゼーノの言うとおりだ。だが優れた先読み能力のあるお前も、俺の過去までは知らないだろう。
「このカードを……俺自身に使う。あんたと対等に戦える一番カードに集中できていたときまで記憶をさかのぼる。昔の状態を取り戻すために」
微笑を浮かべるキゼーノ。なにを考えているのかわからない。期待できる、とでも思っての笑みなのだろうか。だがそんな余裕はいつまでも持たせはしない。
魔法を使ってから、より具体的な戦術のヴィジョンが見えてきた。キゼーノを倒せるはずがないと諦めかけていた心まで、それに呼応してよみがえるように自信が満ちてくる。
キゼーノとの戦いの中でつかみかけていた感覚、その足りなかった最後のピースがようやくハマったかのようだった。
俺は、俺たちカードゲーマーは、己(おのれ)がカードゲーマーとして優れていることを証明する。自分のえらんだカードとデッキが優れていることを証明する。そんな崇高な目的で誇りをかけて戦っていた。そして今もそうだ。
キゼーノは【湖】のカードでこんどはハイロに急襲をかけてきた。ナミノリドッグとくらげ傘が2体でハイロを挟み撃ちにする。
そこで1枚のカードを切る。
「人狼が狼の守護霊となる。トリックカード【狼憑(おおかみつ)き】」
ローグの前にいた狼男が白無垢の毛並みの狼へと姿をかえ、見えなくなる。すると同時にナミノリドッグとくらげ傘に、斬撃のような激しい衝撃波がぶつかった。2体はあきらかに傷を負ったうえに出鼻をくじかれて後退していく。
【狼憑(おおかみつ)き】。狼のウォリアーがいて、かつ味方ウォリアーが場に3体以上で使用可能。エンシェントのルールでは、ランダムで決まる味方のうち1体に攻撃あたるまでカウンターを続けるという効果だ。
そして今まさしく気高き狼の防護が、敵に反撃の一打を放った。
「カードゲームを……はじめましょうか。こちらの味方のだれかに本物の狼が隠れている。それに攻撃をあてるまでそちらが攻撃するたびに牙の魔法があなたたちに突き刺さる」
と、宣言してみせる。久しい感覚だった。
狼憑きのカードは狼族が場に出ているときのみ使える、トリックカードの中でも限定的な状況でのみ使える【専門魔法】という種類に分類されるカードだ。
プライドゥウルフのスキルだとすでにキゼーノには知られている可能性が高い。だがこの専門魔法までは意識の外にあったようだ。いくらキゼーノといえど、審官のカードがくると読んでいたところに狼のカードがきてその応用的な魔法を組み合わされては、とっさに対処はできない。
「どんなに試合の展開を先読みできるあなたでも、偶然がからむ未来までは見通せない」
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