カードワールド ―異世界カードゲーム―

イサデ isadeatu

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王総御前試合編

#45 キゼーノ戦決着

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 ハイロの攻撃がキゼーノの明鏡止水に一旦止められる前、カイルスの触手と水龍の魔法照射がテネレモの薮の盾を打ちくだいていた。
 この薮の盾、耐久力はあまりなくボードヴァーサスではかなり使い勝手の悪い技なのだが、エンシェントでは高速で連発できるため優秀な防御手段だ。しかしさすがにあの2体の破壊力は受け止めきれるわけもない。

 俺はとっさにテネレモをかばっていた。できるだけ遠くへつきとばし、身代わりとなる。
 先読みの優れたキゼーノを倒すには想定外の位置からの攻撃が必要だった。それがアグニオンのスキル。
 そのハイロの一打が防がれれば、どうせこちらにもう手は残っていない。テネレモが破られるくらいなら、俺が犠牲になったほうがいい。土壇場での決断だったが迷いはなかった。
 ゼルクフギア戦のときもそうだったが、当然モンスターと対面したとき恐怖はある。痛いのもイヤだ。だけど俺の中にはそういう感情と同時に、カードゲームで死ねるなら本望だと、どこか自分の人生にたいして哲学のようなものがある。しかしそれはこの世界にきてから気づいたことだ。

 この試合について俺が最後に目視できたのは敵のヴァングが衝撃波をローグめがけて放ってきたところまでだった。
 水龍の魔法が俺の体を包み込み、さらに触手の殴打によって遥か後方まで激しく叩き飛ばされた。

 壁に衝突したあとあおむけに倒れこんだが、立ち上がることもできない。全身に力が入らない。
 本当に死んだんじゃないかと思うくらいほとんど意識は事切れていた。
 が、やがて視界に青空がうつった。そして耳をつんざく大歓声がとおくに聞こえる。
 どっちが勝ったんだ。いい試合だったからどうなっても悔いはない……
 わけがない。ここまでやったんだから絶対に勝っていてくれよ。

「……とんでもないムチャを」

 ローグがこちらを覗き込んでそう言った。

「カードゲーマーってのはみんな……負けたくないあまりバカなことをするもんだろ? ゴホッ……」

「それは正論(せいろん)かもね」

 俺の冗談にふっと、彼女が笑う。それだけで、どういう結果かなんとなくわかった。

 今度は、ハイロの声が聞こえてきた。

「やった……! やりましたよ、エイトさん! 勝ったんです! あのキゼ選手に! エイトさんが考えた相乗効果(シナジー)作戦で……」

「死(し)……? なんだって?」

 頭がぼーっとして、はしゃぐ彼女がなにを言っているのかよく聞き取れなかった。あまりに会場に沸く歓声が大きすぎて耳鳴りがする。

「死なないでくださーい!? ボロボロじゃないですか!?」

 ローグが俺の手をとって瓦礫(がれき)から抱き起こし、肩を持って支えてくれる。
 すでにフィールドは決闘場にもどっており、場に出ていたカードたちもオドの破片へと消えてカードへと戻っていくところだった。
 こちらを向いていたテネレモと目が合う。姿がみえなくなるまえにテネレモは目を閉じていた。相変わらず何を考えているのかわからんやつだ。

 キゼーノのところへ向かうと、クイーン役だった獣人兵士が地面に手をつき、うなだれていた。

「そんな……。私が……ふがいないばかりに……」

 キゼーノがその仲間へと歩み寄り、やさしく彼女の背中に手をのせる。

「水にぬれても魔法のカードはしめらない。だけど涙を落としたらカードもかなしむ。胸をはりましょう。私たちは素晴らしいカードに恥じない戦いをした」

 なぜか彼女の言葉が、俺の心にもひびいた。
 あいつもあいつで何を言っているのかよくわからなかったが、たぶん根はいいやつなんだろうな。

 彼女はこちらに気がつくと、すこしまだ不満げな固い表情を浮かべながら、すっとローグの前に手を差し出した。

 ローグはいったん俺をハイロへとあずけ、かんたんな握手をかわす。

 正直自分のからだの感覚が残ってないので女の子と触れ合ってもまったく気分はよくならなかったが、このしあわせな状況を考えるとすこしだけ痛みは和らいだ気がした。やれやれ……役得じゃねえか……へへ。

 キゼーノはハイロとも握手し、こう賛辞を贈(おく)っていた。

「もっとも警戒すべきだったのは君の心のおくの熱意だったようだな。見抜けなかった……してやられたよ」

「は、はい! あの、試合できてこ、光栄……。いえ、……ありがとう……ございました!」

 ハイロはなにかいいかけていたのをやめ、ぺこと礼儀正しく頭を下げた。
 キゼーノは今度は俺のほうを向いて、

「我方がまず貴様を潰そうとしたことに、気づいていたな……」

 体中が痛いのであまり喋りたくはなかったが、試合前後のあいさつはカードゲーマーの基本中の基本。これを勝者がおろそかにはできない。なんとか力を振り絞って声をだした。

「あんた、よく詩を詠んでただろ。詩にでてくる英雄に、憧れてるんじゃないかと思ってさ。だからあのイベントに居合わせたんじゃないかって……それで試合をジャマした俺をまず潰しにくるんじゃないかって思ったんだ。あんなささいなことでも……カードゲーマーの恨みは深いからな」

「……なるほどな」

 ふっと彼女は笑った。実際どうだったかはわからないが、こちらとしては本気でそういうつもりだった。

「試合中、貴様のプレイングに『宿命の魔審官』の強さを見た。あのカードは貴様の中で生きているらしい。いやあのカードだけではなく、歴戦のカードたちが貴様のなかで生きているかのようだった」

 その言葉は嬉しかったが、もう俺の左手はまったく持ち上がらないので、頭だけ下げておいた。動かしてみてわかったが首も痛かった。

「あれ、この人……」と、ハイロがつぶやく。

 近くに来て、俺もすぐに気がついた。キゼーノとチームを組んでいたこの獣人兵士ふたり、巫女のいる塔にいたあの兵士じゃないか!

「貴様の予想は半分正解で半分はずれだ……私は巫女からある厳命を受けてあの館に立ち寄った。すなわち災厄の兆候(ちょうこう)があると……。そしてこの大会にも同じ兆候がみられると彼女は言われた」

 目の前の少女はそういうと俺の近くに寄ってきて、小さな声で、

「汝(なんじ)に災(わざわ)いあり。この大会には呪いのカードがまぎれ込んでいる。私の実力不足で貴様に重荷(おもに)を背負わせてしまうが、これがオドのさだめだ。貴様がやり遂げてみせろ。王都を守れ、いいな」

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