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王総御前試合編
真理追究<リサーチ>カード⑨
しおりを挟むエイトさんが道をこじあけてくれる。だからこそ私は躊躇(ちゅうちょ)無く切り込んでいける。正しい選択をすれば、必ず援護してくれる。
あの人は本当にすごい。エンシェントは得意じゃないといっているけど、本番になると尋常じゃない集中力であのキゼ選手にもくらいついていっている。
だけど勝つには、あと少しなにかを変えないといけない。
相手のヴァングとクイーンはローグさんほどじゃないにしろあきらかにただのカード使いじゃない。なんらかの特殊な軍事的訓練をうけてきた人たちだ。
それでも、なんとかすこしでもダメージを与えていかないと。
これが最後の試合になってもいい……! あのキゼーノ選手相手にすべてを出しつくせるなら……!
エイトさんの天才的な采配のおかげでこの終盤でも決して負けていない。こちらもダメージはかなりあるものの、向こうはリバーストリガーも使い果たしてあとはウォリアーの火力に頼るしかほぼ手がないはず。
とはいえ、こちらはアタッカーのプライドゥウルフが手負いで、エイトさんの支援魔法があってもあのカード2枚を破るには単純な火力不足は否めない。
どうにか、私がどうにかしないといけないけど、相手も全く退(ひ)いてくれない。
エイトさんがミーティングで言っていた。キゼ選手は自分を狙ってくると。この試合中、たしかにずっとキゼ選手はエイトさんを気にして私のことはかなり自由にさせている。
今ならエイトさんの提案した[相乗効果作戦]は成功できる可能性が高い。
だけどエイトさんはためらっている。先を予想できるからこそ、テネレモのカードが相手の攻撃を受け止めきれずに破れる未来が見えてしまっている。
あのレベルの火力のカードが2枚もくるのはトッププロならありえると事前にわかってはいた。けれどこの編成が今の私たちチームのできる最善の準備だった。
私が、エイトさんを助けなきゃ。
そう頭では思っているのに、なぜか体がついてこない。疲労ではなく、私もまたためらっていた。無理にうごけばキゼ選手の餌食になるかもしれない、チームに迷惑をかけるかもしれない、そんなマイナス思考ばかりが浮かんで足踏みしてしまっていた。
昔、私の腕が足りないせいでルプーリンのカードを対戦相手にバカにされたことがあった。そのカードをプレゼントしてくれたミジルはそのことでカード嫌いになってしまい、あれ以来私も勝たなきゃいけないと思うほどプレッシャーに押しつぶされるようになってしまった。
あのときの恐怖や後悔が、今も忘れられずに心をむしばんでいる。
やがてエイトさんから目配せのサインが送られる。準備をしておけ、という意味合いだと私は考えた。
おどろきだった。あのエイトさんが、大事にしているテネレモのカードを犠牲にするつもりなんだろうか。それほどこの大会に強い気持ちで望んで……
チャンスは一度きり。失敗できない。私がしくじれば、テネレモのカードはなくなって、試合にも負けてしまう。絶対に成功させないと。
「えっ……」
体が、うごかない。
ここまで必死にがんばってきたのに。ローグさんとエイトさんの足を引っ張らないようにしていたのに。ここにきて緊張で頭が真っ白になってしまった。
私のせいで……負ける?
こんなんじゃ、ミジルにいいところを見せるなんて、夢のまた夢だった。しょせん私にはこの大会でいい試合をすることすら、無理だったんだ。
「何を恐れているの? カードが好きなんでしょう? 一緒にがんばるのだと、言っていたじゃない」
後ろから、ローグの声がはっきりと届いた。
私は思考停止したまま、私の前に立つルプーリンと、そのカードを交互に見た。
「……ルプーリン……」
私の目の前にいる小動物に似た妖精は、ちいさいのにたくましく見えた。
エイトさんが前に聞かせてくれた言葉がある。どんなカードにも意味はあると信じたい、と。こんな私にも、今できることがある。
やろう。たとえどんな結果になってもできるベストを尽くそう。ずっと一緒にいてくれたこのルプーリンとなら、そしてエイトさんとローグさんとのチームなら、それができる。
「ルプーリンシークレット……【真化(しんか):ルプリア】」
ルプーリンは精悍(せいかん)な獣へと姿を変える。この形態になったルプリアは味方が傷ついているほど攻撃力がアップする。
「さらにレコードスキル……【分身】」
ルプリアの分身が出現。分身の方は体力・攻撃力共に本体より劣るが、スピードは同じ。
「ルプーリンのシークレットか。かなり力を増したようだ。おそらくこの終盤までとっておいたのは条件があるからだろう。たとえば、味方がダメージを負っているほど攻撃力が増す……など。相乗効果が狙いか」
キゼ選手は私ではなく、エイトさんのほうを見て言う。
「答えあわせをする気はない」
エイトさんはそう言って、カードを構えた。両者にらみあい、キゼーノ選手が最後の攻勢にでてくる。
「クラードフルームアドバンス【ダイヤモンドスライド】……カトゥンカイルススキル【キョウキセンジュ】!」
水龍が口から繰り出す水の高速噴射が、地面をえぐりながらテネレモの薮の盾にぶつかる。すでに盾は限界にちかく崩壊しかけていたが、そこにさらにエイトさんたちをまとめて潰そうとカイルスの巨大な触手が振り下ろされる。
私はこの隙にカイルスとその後ろのクイーンめがけてルプリアと共に突撃する。
しかし、キゼ選手はこれにも反応してくる。
「伏兵のつもりだったようだが彼女のあふれる才能は隠せない。ずいぶんこの試合を手を焼かされた……それしき、読み切っている! 【明鏡止水(めいきょうしすい)】」
さすがはキゼ選手だった。このカウンターは読まれ、紫色の水のバリアーが私の鎖ナイフとルプリアの衝撃魔法を吸収する。
しかしこれも、エイトさんの作戦のうちだ。
彼の声が、私たちの攻撃を後押ししてくれた。
「さすがというほかない。……でも水にも止められないものはある。それは思いの強さ……カードゲーマーの[魂(たましい)]ってやつさ!!」
相手のヴァングはローグの守りが薄くなったところを見て、【ブレードウェーブ】で剣の衝撃波を広範囲に飛ばしトドメを刺しにきた。しかしもう遅い。
私は切り札リバーストリガーを手に持ち、高らかに宣言する。
「リバーストリガーフロー! 【さまよえる魂の呼び声】! このカードの発動時戦闘不能になったウォリアーの能力を一度だけ使うことができる。アグニオンアドバンス【インビジブルタッチ<不可視の霊撃>】! 攻撃力が上回ったとき相手2体を同時攻撃……さらにこの一撃は……相手の防御をカンツウする!」
「バカな……ッ!!?」
この試合、はじめてキゼ選手は取り乱した。
そしてこれが最初で最後、ブレードウェーブがローグをとらえるより一瞬早く、私たちの渾身の一打がカイルスと相手クイーンに突き刺さった。
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