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王総御前試合編
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しおりを挟むミジルは首をふって、いたずらっこのような笑みを浮かべた。何を言ってるかはこちらからはわからないが、あいつ間違いなく「じっとしてるのは性に合わないのよね」とか言ってるぞ。
観客も、ローグもハイロも、相手チームも愕然となっていたが、ジェアヌは好機を見逃さずに黒魔術師の魔法を連発でミジルにぶつけてきた。
万事休すか、と思いきや、ミジルはアクロバティックな身のこなしで魔法をかるがるとかわしていく。おおと会場から歓声が沸いた。
『ファイアーコブリン』がミジルのほうに襲ってきたのと同時にまた魔法が飛んできて、今度はもうさすがにダメだと思った。
が、ミジルはまったく無傷だった。両手を交差してなにか衝撃波を放ち、ファイアーコブリンをはね飛ばし黒魔法も相殺させた。
あの技、見たことがある。
「あれは……今なにかやったように見えたけど、なんだかわかるかフォッシャ」
「確証はないけどたぶん、無属性中級魔法ワヌね。彼女のスキルなんだと思うワヌ。いつでも使えるってことワヌ」
「そりゃすごいな。そんなのあるなら試合前から言ってほしかったな」
「たとえば【オドファイア】とか、ああいうのは初級魔法で、大した威力がないワヌ。だけどミジルのはかなり範囲もありそうワヌ。あれで手加減してるように見えるワヌ」
「マジかよ」
「いわゆる戦闘の天才……ってやつなんワヌかね」
そんな技があるなら、ミジルをヴァング起用してもいいくらいだったかもな。
ミジルはハイロの制止も無視して、ローグを追い越してフェアリーバイカーと共に相手陣営に切り込み、バッタバッタと無属性魔法で敵とカードをなぎ倒していく。
……カードゲームなんだよな、これ。
もう相手の攻撃がミジルに当たらない上プライドゥウルフの【狼憑き】で全員が守られているため、相手はほとんどなすすべもないままローグとミジルによって勝負がついた。
勝ててよかったんだけど、データはほとんど意味がなかったな。予想した展開や用意した作戦とはかなりちがうものになった。とりあえずこれで3回戦進出だ。この調子ならもしかしたら苦戦もなく勝ちあがれるかもしれない。
試合を終えてローグたちが舞台にもどる。ジェアヌたちと握手を交わしたあと、こちらに戻ってきた。
「みんなお疲れ様ワヌ!」とフォッシャが声をかけると、ハイロが疲れた表情で、
「ミジルが勝手をするので、ヒヤヒヤしましたよ」
姉の気苦労もしらずに、ミジルはどこか満足げな顔をして言う。
「うん、まあまあ楽しかったかな。カードゲームって意外とカンタンじゃない」
「…………う、うん……」
お前のはカードゲームじゃねぇ!
よっぽどそう言ってやろうとおもったね。でもミジルの力が今は必要だから、ぐっとこらえて精一杯の苦笑いを浮かべてやったさ。
試合後控え室にあつまって帰る仕度をしていると、扉をだれかがノックした。
ハイロが「どうぞ」とこたえるなり、勢い良くだれかが入ってきてハイロに抱きついた。
「すごかったよ!」
よくみると、さっき戦ったジェアヌだった。満面の笑みをうかべて、ハイロから離れない。
「えっと……」
「完敗だったよー。こんなに強いところと試合できるなんておもわなかった!」
どうやら賛辞をおくるために訪れてくれたらしい。ハイロはすこし困りつつも、
「その……ジェアヌさんも面白い編成だったと思います。あ、偉そうに聞こえたらごめんなさい、本音です……」
「謝らなくていいよ! そう言ってくれて嬉しいよ!」
「勝てなかったのにそのハイテンションってよっぽどカード好きなのね、あんた」
よこのミジルがあきれるように言う。
「うん。カードはね、みんなの笑顔を守るためにあるんだもん! おばあちゃんがよく言ってた!」
ジェアヌは屈託の無い笑顔で、そう言った。
笑顔を…守るため?
「だから勝ち負けは関係ないよ! 試合できて楽しかった!」
順に俺たち全員の手をにぎってブンブン振り回すジェアヌ。いかん、なんかやわらかかった。
「……へんなの」とミジルはそっぽをむいてつぶやいた。
だけどジェアヌをみて、どこかロッカールームの雰囲気もやわらいだ。
呪いのカードのことや探索のカードのこともあって俺たちみんなかなり肩に力がはいっていた。ジェアヌがきてくれてチームに笑顔がもどってよかった。
「こんどボードヴァーサスもやろうね! アディオス!」
「はい。アディオスです」
颯爽と笑顔をふりまいて出て行くディアヌに、俺たちは手を振る。
「それもまた強さなのかもしれないわね」
ローグがそうつぶやいた。
勝ち負けは関係ない、カードは笑顔を守るためにある、か。
……
「そんな甘いこと、あたしたちは言ってられないかもだけどね」とミジル。
「いえ、彼女のいうとおりです。私たちもみんなを守るために戦うんです。……みんなの笑顔を守るために」
ハイロの言葉に、俺も内心同意する。
そうだな。やろう。カードでだれも傷つかないためにも。
家に帰ってから、その日のニュースを情報カードで見た。
王都で原因不明の病が流行しているらしく、次々に市民が感染して高熱で倒れているらしい。ほかにも不可解な事件がいくつか起きているようだ。
断定はできないが呪いのカードと無関係ではないだろう。いよいよまた逆境が近づいてきたというわけか。
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