131 / 169
王総御前試合編
55
しおりを挟む「退院おめでとう」
その日、キゼーノが部屋をたずねてきてくれた。私服は黒っぽい茶のローブをまとっていて、知的な雰囲気だった。
「ああ。ありがとう。送ってくれたシップがきいたよ」
「さあ、なんのことかな」
しらをきるキゼーノ。病室に差出人不明のシップが届けられたが、詩の書かれた手紙がついていたのですぐにだれかはわかった。
俺は本題をきりだす。
「それで、流行病(はやりやまい)が呪いのカードとかかわりがあるんじゃないかってことなんだけど……」
「うむ。この書物をあずけに参った」
そう言って、彼女は鞄(かばん)から皮で綴(と)じた分厚い手帳(てちょう)を渡してくれた。
「災厄や呪いのカードに関することがまとめてある。役に立つはずだ」
受け取ってさっそくひらく。呪いのカードのことが詳細に書いてある。判明しているものについてはかなり研究が進んでいるようだ。
俺が手帳に目をとおしている間キゼーノはしゃがんでじっとフォッシャと向き合っていた。彼女がフォッシャの鼻先にゆっくりと人さし指を伸ばす。フォッシャはなにも言わずそれをペロとなめた。
キゼーノは舐められた手をハンカチで拭き、たちあがる。
「本来呪いのカードは20年に一度あらわれるかどうかのような存在。もし今回の件もそうだとすると、いよいよ異常な事態になってくる。なにかが起きているといわざるを得ないだろうな」
キゼーノはすこしうつむいて、神妙な面持ちで言う。
まだ確定したわけではないがこの王都にいきなりなんの脈絡もなく呪いのカードがポンと出現するのは理不尽だ。キゼーノが警戒するのと同様、俺もいやな予感はある。なにか黒いものがまとわりついてくるような、そんな感覚だ。
「……だれかが持ち込んだかもしれない、か?」
俺の問いにはこたえずキゼーノはこちらを見て、
「武運(ぶうん)を祈る。では失敬(しっけい)」
「えっ。手伝ってくれないのかよ」
「ほかにもやらなければならないことは山のようにあるのだ。専門家だろう? その件についての調査は貴様にまかせる」
「いや専門家じゃないんですけど……」
「なにかあれば連絡せよ」
キゼーノはそういうなり去っていった。
「お茶でも飲んでけばいいのにねえ」
フォッシャが言う。だがたしかに急いでいるようだった。まあカードゲーマーはせっかちなやつがやたら多いからな。こっちもうかうかしてられない。
まだすこし体はいたむが、車椅子なしでももう歩ける。
ラトリーが巻きなおしてくれた腕の包帯をさわったり、手をうごかしてみる。問題はなさそうだ。
二回戦勝利のお祝いということで、みんなでローグのおすすめのスポットにいくことになった。
ラジトバウムにもあったような眺めのいい丘だった。王都の街を一望できる。
「三回戦もがんばりましょうね!」
「負ける気しないわ」
「フォッシャも特訓の成果みせたいワヌ」
仲むつまじく話しているミジルたち。露店で買った綿菓子やアイスを食べている。その横でローグと俺だけ笑顔はなかった。
「ラトリーは? 学校?」
ラトリーの姿がみえないのでたずねた。せっかくのお祝いだからついてくると思ったが。
なにか用事があるらしいわとローグが教えてくれた。
「それで、話は?」と彼女がきいてくる。
俺はフォッシャをこちらにくるよう呼んでから、用件をはなしはじめた。
「王都のコタニーラ地区で伝染病が流行してるらしい。倒れるほどの高熱が出て、治療法もみつかってないとか」
「ふうん……変ね。オドの加護があるから、めったに病気ははやらないはずなのだけど。呪いのカードかもしれないというわけね」
「ああ。これからすぐにでもしらべて、場合によってはフォッシャの力を使う」
「フォッシャの力、ね」
ローグはぽつりとつぶやくように言い、
「本来カードはただのオドの魔法のかたまりにすぎない。それはウォリアーとて同じ。あくまでオドの破片がカードの姿を取っているだけ。つまりそれが意思を持って動くということは……
フォッシャの力はカードに命を吹き込む力だと仮定できる
オドの制限をはるかにこえた力だわ」
彼女の言葉に同意の感情しかない。理屈は不明だがそう考えるのが自然だ。フォッシャもうんうんとうなずく。
「エイト、いま王都の護衛部隊があなたのことをかぎ回っている」
「なんだよそれは」
「あなたのまわりで不可解なことが起きていると、おそらく見ているんでしょうね」
「……いつぞやのロ……」
「言っておくけど、私は関係ないわよ」
「……」
「カードを実体化する力なんて、言われるだけじゃだれも信じはしないでしょうけれど……悪く受け取らないでね。危険な力であることにはちがいない。くれぐれも、人目に気をつけて」
「りょーかいワヌ! エイトがポカやらないようにフォッシャがしっかりやっとくワヌ!」
そりゃ俺のセリフだよ。
「フォッシャ、TRPGのカードで変装しておきなさい。あなたは特徴をおぼえられやすい」
そう言ってローグはフォッシャにカードを手渡す。同時に人気者のローグは街中で素顔をさらすことになってしまうが、フォッシャを目立たせないほうが先決か。
「それと、新しい力のほうもむやみに使ってはだめよ」フォッシャの頭をぐりぐりと撫でまわすローグ。
「わかってるワヌ」
「こっちはなんとかやってみる。ローグは御前試合のほうを頼む」
「ええ」
そこで別れ、俺とフォッシャは病気がはやってるらしい地区へと向かう。
0
あなたにおすすめの小説
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~
鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。
そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。
母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。
双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた──
前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ
鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。
それが約50年前。
聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。
英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。
でも…英雄は5人もいらないな。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる