13 / 169
クリスタルハンター編
11 ダンジョン 攻略
しおりを挟む
11 ダンジョン攻略
やがて魔法の迷宮も30Fを走破した。サナによればここらが頂上らしい。
つまりクリスタルもここにある。
気になるのは冒険士たちのことだ。救助隊と同じくどこかで倒れているだろうと思っていたが彼らの姿は見かけなかった。つまり、最上階にいるということだ。
この階からはまたダンジョンの内装が変わった。薄白い霧は、ときおり光を放つ。その明かりを頼りに進んでいく。
通路のさきに人影が見えた。怪我をしているのか座って壁にもたれている。
「オッサン! だいじょぶワヌ!?」
駆け寄ってみるとそこにいたのは街で会ったあの男性だった。たしか娘を探しにきたとか言っていた。
ひとりでこの階までやってきたのだから大したものだ、自分で大物だと言うだけのことはある。
「た、たのむ。娘を……たすけてやってくれ。冒険士になるのを許しておいてなんだが……やはり心配なんだ」
男は俺の肩に手をのせ言う。その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「まかせておくワヌ。絶対助けてやるワヌ」
力強く言うフォッシャの横で、「そうだよね……」とつぶやくサナ。その目からはなにか意志が固まったかのような決意が見て取れた。
「ああ。はやいところ助けないと」
言いかけて自分の頭をおさえた。立ちくらみがして、気分も変な感じだった。
「エイトくん、だいじょうぶ?」とサナが心配そうにのぞきこんでくる。
「……早く終わらせよう」
霧の中を進むと大広間にでた。中央は床が浅く沈んでいて、まるで大きな劇場のようなスペースになっていた。
そこに目当てのオド結晶はあった。暗闇のなか薄紫によどみ光る巨大なオド結晶。クリスタル。見たものを魅了する妖艶な輝きを放っている。
取り憑かれるようにその怪しい光に見入ってしまったが、同時に奇妙で衝撃的なものも視界に飛び込んできた。
「これは……」
思わず息をするのを忘れた。[オド結晶が人間を取り込んでいる]。
冒険士だと思われる彼らはまるで水中で眠っているようだった。氷漬けになった古代生物のように、結晶のなかで意識を失っている。
この巨大な岩みたいなクリスタルは、売ればどれほどの値段になるか想像もつかない。それが目の前にあるが、嬉しさなどどこかへ吹っ飛んでいた。おぞましさしか感じなかった。
「オドパージナル……」とサナがつぶやく。俺たちが身じろぎひとつできずにいるなかで、彼女はひとり結晶へと歩み寄り手で触れた。
「これを求めてきた冒険士たちが大勢行方不明になっているのは、クリスタルが強力すぎて取り込まれてしまっているから」と彼女は言う。
たしかに冒険士たちは怪我もなければ衰弱している様子もない。あまりに強大なオド結晶の力の効果を受けつつもそのせいで気絶しているということなのだろうか。
そのなかには若い女性の冒険士もいた。彼女が例のスベンディーアとかいう高名らしい冒険士か。それほどの人物さえこんなことになっているとは。俺たちにどうこうできるのか。
結晶のなかにあった1枚のカードが光りそのあたりに亀裂が入る。すると鋼のような金属質の骸骨があらわれ、あとから現れた黒いローブをまとってこちらへと近づいてきた。
「気をつけて」
サナに言われるまでもなく俺はカードをかまえる。まるで死神のような姿の敵は、いままでのウォリアーとはちがい自身でカードを召喚してきた。こういうタイプもいるのか。
通常、ヴァーサスと呼ばれるこの決闘方法はオドシーンにカードをセットしそれらを魔法や召喚のコストとして戦うルールだ。魔法には使い切りタイプとトリックレーンに常駐しておけるタイプがある。
基本的にはオドシーン、つまりオドの削りあいが勝負の肝だ。ウォリアーもしくはオドシーンにカードがない状態でダイレクトアタックが成立、2回成功で勝利。ボードルールではそうだが、リアルファイトだとまた微妙にちがう。強力なウォリアーの一撃で勝負が決まることもある。
と言っても俺もまだよくルールはわかっていない。なにせ今つかってるデッキも審官とテネレモ以外は9割がサナの貸してくれたカードで構成されている。
敵は老練そうな魔法使いと、ブラックホールのような黒い空間から顔をだしている獣のウォリアーを召喚してきた。ヨッゾによればあれは『ダンジョンモンスター』と呼ばれる類のカードらしく、あの黒い空間をつかって自由自在な場所から突然出現してくるらしい。
カードが散発的に襲ってきただけの今までの戦いとちがい、骸骨の指揮のもと統率された動きで間合いを詰めてくる。意思疎通ができているのだろう、おそらくカードゲームのように頭をつかって考えて戦わなければやつを倒すことはできない。
「アシストは任せろ。俺がお前らのプレイヤーになる」
前線で魔法をつかって戦う救助隊メンバーやヨッゾ、フォッシャたちにたいし俺も持てる手札すべて使ってサポートする。
直接的な魔法の戦いであってもカードゲームと同じだ。先に崩れたほうが負ける。こちらもアクスティウス、オクトロを召喚し一転攻勢に出た。慎重に状況を見極めて場を整える。
魔方陣による束縛系のトリックカードでダンジョンモンスターの素早い動きを封じこめ、撃破した。やがて鋼の骸骨は分が悪くなったと見るとすぐに新たなウォリアーを出してきた。どうやら切り札を引いたらしく、騎装した大型の獣がオド結晶の上に姿をあらわす。
「あれは……アフハーク」
「知ってるのか、サナ」
「昔ウワサで聞いただけだけど、たしか冥界の龍騎と呼ばれたほど戦場で猛威をふるったとか……」
昔? ウワサ? 彼女の言葉は気になるが、いまはゲームに集中しないと。厄介なカードなのはおそらくたしかなんだろうからな。
サナの言うとおりアフハークはおそらく相手の敵のエースカードだった。今まで見たことがないほどにめざましく強かった。
もともとのカードとしてのスペックが高いのだろう。こちらの一回の攻撃をしかける間に、大剣の二刀流で2体分を制圧してくる。オクトロ、アクスティウス、救助隊がやられた。さらに特殊な効果も持っているのか、攻撃のたびにこちらのオドシーン1枚と手札1枚を破壊される。火力だけじゃなく硬さもあり、ちょっとやそっとの攻撃では傷一つついていない。
だが強力なカードがあるのは向こうの専売特許ではない。
「どうするだぎゃ、エイトどん!」
たしかにあのカードは強い。でも強さにも色々ある。相手が強ければ強いほど輝くカードもある。
が、また立ちくらみがした。一瞬聴覚をうしない、サナがこちらを見て心配そうになにか叫んでいるのがみえた。
俺はどうにか口をうごかして大丈夫だと伝え、頭のなかの考えを明確にするため呪文のように言葉を発し続ける。
「オクトロの効果発動。このカードが墓地へ送られるときオドシーンより1枚カードを手札に加えることができる。それをそのまま使う……。トリックカード【無謀なチャレンジャー】。このカードは敵の攻撃力が最も高いカードを対象とし、その数値が高ければ高いほど発動プレイヤーはドロー枚数を増やせる。俺はデッキから5枚をドロー。さらにトリック【禁書目録】を発動。デッキからウォリアーを3枚除外する代わりに1枚魔法を選び発動する。俺がえらんだのは【インフェルノへの投獄】。3ターンの間対象ウォリアーを墓地へ幽閉する! 墓地に送るのは……アフハークのカード!」
オクトロの2番目の効果、つまりアドバンススキル【タコツボの遺産】を起点とする名づけるならオクトパスコンボ。そのひとつとして考えていたコンボが見事に状況にハマった。
結闘形式ではカードゲームのようにドロー&リリースが基本であり、いきなりポンと好きなカードを出すことはできない。ある程度手札を貯めてそのなかでどうにかやりくりする必要がある。結闘はお互いが宣言することで本来成立するらしいが今回は強制的にこうなった。
だがその条件は相手も同じだ。エースカードを封じられればそれは同時に一転ピンチに転げ落ちることを意味する。
「サナにカードを貸してもらって……デッキを思いついたときからこのコンボは使えると思ってた」
「エイトくん……」
サナは不安そうにこちらを見つめていた。よっぽど今の俺が憔悴しているように見えるのか。
鋼の骸骨は即座にサイクロプスに似ているが二つ目の大型人獣のウォリアーを繰り出してきた。パワーはあるがアフハークに比べれば脅威ではない。
アフハークにオドシーンのほとんどを割いた影響で、相手の陣地は薄い。あとはこちらはもう一気に押し込むだけだ。
当然そうするはずだった。そのはずが――
「トリックレーンをヨッゾに……」
そういいかけたところで意識が遠のいた。そして、持っていたカードが指からこぼれ落ちる。
手に力が入らない。まるで握力がなくなったかのように、あるいは自分の手の感覚さえない。
「なにやってんワヌエイト!」フォッシャが怒号をとばす。
「わ、わからない……カードが持てない……」
なにが起きたんだ。魔法をつかわれた形跡はなかった。
ただとにかく床に落ちたカードを拾おうにも、肝心の手が動かないことにはどうしようもない。俺はただぴくりともしない自分の手のひらを見つめるばかりで、苦しいことに戦えなくなった。
「だ、だめだ。サナ、俺の代わりにカードを引いてくれ」
サナはとまどいながらもカードを拾い上げそれを使う。魔法によって出現した武器を手に、ヨッゾが骸骨と人獣もろとも打ち砕いた。
骸骨の体が黒い煙となって消えていく。勝負はついたかに思えたが鋼の骸骨はそこでとどまり、みるみる巨大化して蜘蛛(くも)に似た化け物に変身した。
不可思議なことだった。このカードゲームはオドという魔力を実際に使って戦い、オドライフを削りあうのがルールだ。すぐには力は戻らない、つまり一度勝負に負ければしばらくは再起不能のはず。
あのオド結晶がなにか関係しているのか。考えている間に蜘蛛は青い鎧を着た奇妙な外見のモンスターを召喚し、襲い掛かってきた。こちらの攻撃は鎧のウォリアーのロウソクを使った魔法によってかきけされ、蜘蛛の吐いた糸によってヨッゾ、フォッシャが敵にとらわれてしまった。
「オドは削りきったはず……」
「あのクリスタルのせいだね」
隣にいたサナは、俺の手にカードをもどして言う。「ごめんエイトくん、冒険士たちを助けてって言ったけど……依頼を変えるね。このクリスタルを破壊して。これがある限り冒険士たちが犠牲になり続ける。この塔を封鎖すればいいと思っていたけど、もうこんなことはあっちゃダメだと思うから……」
彼女の話はわかった。クリスタルのために元々はここにきたが、こういう状況ではしかたない。
やるべきことはわかっている。しかしどういうことか、カードそのものが俺から離れていくような感覚がする。
「だめだ……サナ」
俺は持っていたカードをすべて床に落とし、呆然となってつぶやく。
「カードのことを考えられない……考えたくない」
もはや体が言うことをきかないとかではなく、病におかされたかのように意志がカードを拒んでしまっている。
暗い感情だけがある。今までカードをやってきてここまで鬱になるようなことはなかった。
魔法を放棄したためにこちらは無防備になり、すかさず蜘蛛が強靭な糸を飛ばしてくる。隣にいたサナの手と足は縛られ、蜘蛛のほうへと吸い寄せられていった。次には青い鎧のモンスターが床の岩盤を魔法で剥がし、こちらにぶつけてきた。そのスピードに俺は避けることもできず後ろの壁まで吹き飛ばされ背中を強打した。
それでもカードを取ろうという気は沸かなかった。ここから逃げないと。そんな感情だけが心を支配して、ほかはなにも考えることができない。
やがて魔法の迷宮も30Fを走破した。サナによればここらが頂上らしい。
つまりクリスタルもここにある。
気になるのは冒険士たちのことだ。救助隊と同じくどこかで倒れているだろうと思っていたが彼らの姿は見かけなかった。つまり、最上階にいるということだ。
この階からはまたダンジョンの内装が変わった。薄白い霧は、ときおり光を放つ。その明かりを頼りに進んでいく。
通路のさきに人影が見えた。怪我をしているのか座って壁にもたれている。
「オッサン! だいじょぶワヌ!?」
駆け寄ってみるとそこにいたのは街で会ったあの男性だった。たしか娘を探しにきたとか言っていた。
ひとりでこの階までやってきたのだから大したものだ、自分で大物だと言うだけのことはある。
「た、たのむ。娘を……たすけてやってくれ。冒険士になるのを許しておいてなんだが……やはり心配なんだ」
男は俺の肩に手をのせ言う。その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「まかせておくワヌ。絶対助けてやるワヌ」
力強く言うフォッシャの横で、「そうだよね……」とつぶやくサナ。その目からはなにか意志が固まったかのような決意が見て取れた。
「ああ。はやいところ助けないと」
言いかけて自分の頭をおさえた。立ちくらみがして、気分も変な感じだった。
「エイトくん、だいじょうぶ?」とサナが心配そうにのぞきこんでくる。
「……早く終わらせよう」
霧の中を進むと大広間にでた。中央は床が浅く沈んでいて、まるで大きな劇場のようなスペースになっていた。
そこに目当てのオド結晶はあった。暗闇のなか薄紫によどみ光る巨大なオド結晶。クリスタル。見たものを魅了する妖艶な輝きを放っている。
取り憑かれるようにその怪しい光に見入ってしまったが、同時に奇妙で衝撃的なものも視界に飛び込んできた。
「これは……」
思わず息をするのを忘れた。[オド結晶が人間を取り込んでいる]。
冒険士だと思われる彼らはまるで水中で眠っているようだった。氷漬けになった古代生物のように、結晶のなかで意識を失っている。
この巨大な岩みたいなクリスタルは、売ればどれほどの値段になるか想像もつかない。それが目の前にあるが、嬉しさなどどこかへ吹っ飛んでいた。おぞましさしか感じなかった。
「オドパージナル……」とサナがつぶやく。俺たちが身じろぎひとつできずにいるなかで、彼女はひとり結晶へと歩み寄り手で触れた。
「これを求めてきた冒険士たちが大勢行方不明になっているのは、クリスタルが強力すぎて取り込まれてしまっているから」と彼女は言う。
たしかに冒険士たちは怪我もなければ衰弱している様子もない。あまりに強大なオド結晶の力の効果を受けつつもそのせいで気絶しているということなのだろうか。
そのなかには若い女性の冒険士もいた。彼女が例のスベンディーアとかいう高名らしい冒険士か。それほどの人物さえこんなことになっているとは。俺たちにどうこうできるのか。
結晶のなかにあった1枚のカードが光りそのあたりに亀裂が入る。すると鋼のような金属質の骸骨があらわれ、あとから現れた黒いローブをまとってこちらへと近づいてきた。
「気をつけて」
サナに言われるまでもなく俺はカードをかまえる。まるで死神のような姿の敵は、いままでのウォリアーとはちがい自身でカードを召喚してきた。こういうタイプもいるのか。
通常、ヴァーサスと呼ばれるこの決闘方法はオドシーンにカードをセットしそれらを魔法や召喚のコストとして戦うルールだ。魔法には使い切りタイプとトリックレーンに常駐しておけるタイプがある。
基本的にはオドシーン、つまりオドの削りあいが勝負の肝だ。ウォリアーもしくはオドシーンにカードがない状態でダイレクトアタックが成立、2回成功で勝利。ボードルールではそうだが、リアルファイトだとまた微妙にちがう。強力なウォリアーの一撃で勝負が決まることもある。
と言っても俺もまだよくルールはわかっていない。なにせ今つかってるデッキも審官とテネレモ以外は9割がサナの貸してくれたカードで構成されている。
敵は老練そうな魔法使いと、ブラックホールのような黒い空間から顔をだしている獣のウォリアーを召喚してきた。ヨッゾによればあれは『ダンジョンモンスター』と呼ばれる類のカードらしく、あの黒い空間をつかって自由自在な場所から突然出現してくるらしい。
カードが散発的に襲ってきただけの今までの戦いとちがい、骸骨の指揮のもと統率された動きで間合いを詰めてくる。意思疎通ができているのだろう、おそらくカードゲームのように頭をつかって考えて戦わなければやつを倒すことはできない。
「アシストは任せろ。俺がお前らのプレイヤーになる」
前線で魔法をつかって戦う救助隊メンバーやヨッゾ、フォッシャたちにたいし俺も持てる手札すべて使ってサポートする。
直接的な魔法の戦いであってもカードゲームと同じだ。先に崩れたほうが負ける。こちらもアクスティウス、オクトロを召喚し一転攻勢に出た。慎重に状況を見極めて場を整える。
魔方陣による束縛系のトリックカードでダンジョンモンスターの素早い動きを封じこめ、撃破した。やがて鋼の骸骨は分が悪くなったと見るとすぐに新たなウォリアーを出してきた。どうやら切り札を引いたらしく、騎装した大型の獣がオド結晶の上に姿をあらわす。
「あれは……アフハーク」
「知ってるのか、サナ」
「昔ウワサで聞いただけだけど、たしか冥界の龍騎と呼ばれたほど戦場で猛威をふるったとか……」
昔? ウワサ? 彼女の言葉は気になるが、いまはゲームに集中しないと。厄介なカードなのはおそらくたしかなんだろうからな。
サナの言うとおりアフハークはおそらく相手の敵のエースカードだった。今まで見たことがないほどにめざましく強かった。
もともとのカードとしてのスペックが高いのだろう。こちらの一回の攻撃をしかける間に、大剣の二刀流で2体分を制圧してくる。オクトロ、アクスティウス、救助隊がやられた。さらに特殊な効果も持っているのか、攻撃のたびにこちらのオドシーン1枚と手札1枚を破壊される。火力だけじゃなく硬さもあり、ちょっとやそっとの攻撃では傷一つついていない。
だが強力なカードがあるのは向こうの専売特許ではない。
「どうするだぎゃ、エイトどん!」
たしかにあのカードは強い。でも強さにも色々ある。相手が強ければ強いほど輝くカードもある。
が、また立ちくらみがした。一瞬聴覚をうしない、サナがこちらを見て心配そうになにか叫んでいるのがみえた。
俺はどうにか口をうごかして大丈夫だと伝え、頭のなかの考えを明確にするため呪文のように言葉を発し続ける。
「オクトロの効果発動。このカードが墓地へ送られるときオドシーンより1枚カードを手札に加えることができる。それをそのまま使う……。トリックカード【無謀なチャレンジャー】。このカードは敵の攻撃力が最も高いカードを対象とし、その数値が高ければ高いほど発動プレイヤーはドロー枚数を増やせる。俺はデッキから5枚をドロー。さらにトリック【禁書目録】を発動。デッキからウォリアーを3枚除外する代わりに1枚魔法を選び発動する。俺がえらんだのは【インフェルノへの投獄】。3ターンの間対象ウォリアーを墓地へ幽閉する! 墓地に送るのは……アフハークのカード!」
オクトロの2番目の効果、つまりアドバンススキル【タコツボの遺産】を起点とする名づけるならオクトパスコンボ。そのひとつとして考えていたコンボが見事に状況にハマった。
結闘形式ではカードゲームのようにドロー&リリースが基本であり、いきなりポンと好きなカードを出すことはできない。ある程度手札を貯めてそのなかでどうにかやりくりする必要がある。結闘はお互いが宣言することで本来成立するらしいが今回は強制的にこうなった。
だがその条件は相手も同じだ。エースカードを封じられればそれは同時に一転ピンチに転げ落ちることを意味する。
「サナにカードを貸してもらって……デッキを思いついたときからこのコンボは使えると思ってた」
「エイトくん……」
サナは不安そうにこちらを見つめていた。よっぽど今の俺が憔悴しているように見えるのか。
鋼の骸骨は即座にサイクロプスに似ているが二つ目の大型人獣のウォリアーを繰り出してきた。パワーはあるがアフハークに比べれば脅威ではない。
アフハークにオドシーンのほとんどを割いた影響で、相手の陣地は薄い。あとはこちらはもう一気に押し込むだけだ。
当然そうするはずだった。そのはずが――
「トリックレーンをヨッゾに……」
そういいかけたところで意識が遠のいた。そして、持っていたカードが指からこぼれ落ちる。
手に力が入らない。まるで握力がなくなったかのように、あるいは自分の手の感覚さえない。
「なにやってんワヌエイト!」フォッシャが怒号をとばす。
「わ、わからない……カードが持てない……」
なにが起きたんだ。魔法をつかわれた形跡はなかった。
ただとにかく床に落ちたカードを拾おうにも、肝心の手が動かないことにはどうしようもない。俺はただぴくりともしない自分の手のひらを見つめるばかりで、苦しいことに戦えなくなった。
「だ、だめだ。サナ、俺の代わりにカードを引いてくれ」
サナはとまどいながらもカードを拾い上げそれを使う。魔法によって出現した武器を手に、ヨッゾが骸骨と人獣もろとも打ち砕いた。
骸骨の体が黒い煙となって消えていく。勝負はついたかに思えたが鋼の骸骨はそこでとどまり、みるみる巨大化して蜘蛛(くも)に似た化け物に変身した。
不可思議なことだった。このカードゲームはオドという魔力を実際に使って戦い、オドライフを削りあうのがルールだ。すぐには力は戻らない、つまり一度勝負に負ければしばらくは再起不能のはず。
あのオド結晶がなにか関係しているのか。考えている間に蜘蛛は青い鎧を着た奇妙な外見のモンスターを召喚し、襲い掛かってきた。こちらの攻撃は鎧のウォリアーのロウソクを使った魔法によってかきけされ、蜘蛛の吐いた糸によってヨッゾ、フォッシャが敵にとらわれてしまった。
「オドは削りきったはず……」
「あのクリスタルのせいだね」
隣にいたサナは、俺の手にカードをもどして言う。「ごめんエイトくん、冒険士たちを助けてって言ったけど……依頼を変えるね。このクリスタルを破壊して。これがある限り冒険士たちが犠牲になり続ける。この塔を封鎖すればいいと思っていたけど、もうこんなことはあっちゃダメだと思うから……」
彼女の話はわかった。クリスタルのために元々はここにきたが、こういう状況ではしかたない。
やるべきことはわかっている。しかしどういうことか、カードそのものが俺から離れていくような感覚がする。
「だめだ……サナ」
俺は持っていたカードをすべて床に落とし、呆然となってつぶやく。
「カードのことを考えられない……考えたくない」
もはや体が言うことをきかないとかではなく、病におかされたかのように意志がカードを拒んでしまっている。
暗い感情だけがある。今までカードをやってきてここまで鬱になるようなことはなかった。
魔法を放棄したためにこちらは無防備になり、すかさず蜘蛛が強靭な糸を飛ばしてくる。隣にいたサナの手と足は縛られ、蜘蛛のほうへと吸い寄せられていった。次には青い鎧のモンスターが床の岩盤を魔法で剥がし、こちらにぶつけてきた。そのスピードに俺は避けることもできず後ろの壁まで吹き飛ばされ背中を強打した。
それでもカードを取ろうという気は沸かなかった。ここから逃げないと。そんな感情だけが心を支配して、ほかはなにも考えることができない。
0
あなたにおすすめの小説
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
魔石物語 - 魔石ガチャとモンスター娘のハーレムパーティーで成り上がり -
花京院 光
ファンタジー
十五歳で成人を迎え、冒険者登録をするために魔法都市ヘルゲンに来たギルベルトは、古ぼけたマジックアイテムの専門店で『魔石ガチャ』と出会った。
魔石はモンスターが体内に魔力の結晶。魔石ガチャは魔石を投入してレバーを回すと、強力なマジックアイテムを作り出す不思議な力を持っていた。
モンスターを討伐して魔石を集めながら、ガチャの力でマジックアイテムを入手し、冒険者として成り上がる物語です。
モンスター娘とのハーレムライフ、マジックアイテム無双要素を含みます。
自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜
来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。
自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。
「お前は俺の番だ」
番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。
一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。
執着と守護。すれ違いと絆。
――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。
甘さ控えめ、でも確かに溺愛。
異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。
大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ
鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。
それが約50年前。
聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。
英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。
でも…英雄は5人もいらないな。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる