141 / 169
王総御前試合編
65
しおりを挟む研究室の廊下で、俺は足早なローグのあとを追う。
「きいてもいいか」と俺は声をかける。
「ことによるわね」
ローグは振り向かずにこたえる。
あのチェイスとかいう女性兵、あきらかにローグを敵視していた。ローグは元護衛部隊副隊長のはず。そうであるならなぜあそこまで折り合いが悪い。なにか理由があるはずだ。
「個人的な事情なら話してくれなくていい。でも試合に関わることなら教えてくれ。やつとなにがあった」
そう言うとローグはいったん立ち止まり、歩くペースをおとしはじめた。
「私は呪いのカードがきっかけで、部隊を離れたのよ。彼女は私の後継者で、教え子でもある。私は秘密任務としてとあるカードを護衛していた」
彼女がはなしている間に研究室へとたどりつく。
中に入るとすでにミジルとハイロがおり、ソファーのうえでくつろいでいた。試合のあとで疲れているのだろう。
「あ、お二人とも」
「おそかったじゃない」
ハイロとミジルの声も気にせず、ローグはむかしのことを語り続けてくれた。
「結論からいえば任務は失敗した。ある犯罪集団によって機密だったカードを奪われた。やつらは呪いのカードを使用していて、こちらは勝ち目がなかった。強すぎる力によって敵自身もただではすまなかったけれど、私の部隊の兵は重傷を負ったわ。私は運よく生き残ったけれど、ほかは……ほかの仲間はオドの加護のほとんどを失い、兵士として引退をよぎなくされた」
驚きだった。ローグにも呪いのカードとの因縁があったのか。
「自分に力がないばかりに仲間を危険にさらした。私には副隊長は務まらないとわかったの。だから部隊を離れたのだけど……あの子、チェイスからすれば私は逃げたも同然でしょうね」
「えっ。な、なんの話?」
話においつけない、といった感じにミジルはとまどっている。
「でも今度こそは……災厄から、あなたたちを守ってみせる。いえ、この街の人、カードを愛する人すべてを」
ローグはしずかに、ただ力強く声をふるわせて言った。
呪いのカードのせいで部隊が壊滅、か。その過去をきくと、ラジトバウムでの俺とフォッシャに対する彼女の行動も理解できる気がする。
そう言ったあとでローグは「それにしてもやつらが自分たちを犠牲にしてまで手に入れたあのカードの一部……どうしてその復活に失敗したのやら。オドの加護だとすると……今回も助けがあることを祈るべきね」と意味のわからないことをつぶやいていた。
「よ、よくわからないけど……呪いのカードを止めよう、って気持ちはすごくつたわったわ」
「災厄は絶対に……とめなければいけませんよね」
ミジルとハイロもなんとなく話を察して、それぞれおもうところがあるようだ。となりのラトリーだけはなんの話しだかまったくわからないという風に首をかしげていた。
「そうだな」
ローグたちの言うとおりだ。俺も自分にできることをやろう。たとえどういう結果になっても。
「さっそく、決勝のあいての研究と行くか」
カードをつかって試合の画面をうつす。反対ブロックの準決勝の動画だ。
決勝にあがってきたのは、ワードハープチーム。
「特にやっかいなのはノコウ選手。『破壊(はかい)の天使(てんし)』とよばれ恐れられています。カードをわずかですが回復することができ、ダメージを恐れずちゅうちょなく攻撃をしかけてきます」
と試合をみながらハイロが解説してくれる。
「再生能力……か」
カードゲームでも墓地からカードを復活させる魔法はあったりする。このノコウの場合傷ついたカードを回復できるとなると、エンシェントにおいては相当厄介な能力だ。
「センリ選手にいたっては、まだスキルが判明していません。チェイス選手は王都護衛の副隊長。手ごわいチームです」
「このセンリという選手……注意が必要ね。たしかアマチュア最大の大会、ホープ杯の優勝者」とローグが指摘する。
「はい。私は準決勝でノコウ選手に負けてしまいましたが、センリ選手はそのノコウ選手をあっさりと倒していました」
センリ・ワードハープ。病気を治したあの美少年が決勝の相手とは。これもなにかの因縁か。
「作戦をかんがえるまえに、みんなに言っておかなきゃいけないことがある」
俺は立ち上がって、これから待ち受ける出来事について説明をする。
「巫女の占いによれば、この大会には災厄のカードがまぎれこんでいる。おそらく決勝はかなり危険なものになる」
「あれ。王都にある呪いのカードは、エイトさんたちがもう破ったはずじゃ……」
「それが……たぶん巫女が予言したカードは、呪いのカードを引き寄せるカード。つまりまだ何枚もヤバいのがでてくるかもしれない」
「呪いのカードを……ひきよせるカード?」
さすがのミジルも事態の深刻さに唖然となっていた。
「想像できません。こわいです」と、ハイロは身をちぢこませる。
「この都(みやこ)のどこかにまだそれは潜伏してる……と、俺はみてる」
「それってもうカードの大会どころじゃないんじゃないの?」
ミジルがきいてくる。話すべきか迷っていたが、今かかえている情報はできるだけ共有しておきたい。
「ミジル、ラジトバウムでの事件は知ってるか。ローグが解決したことになってるあれだ」
「そりゃね。オドの加護がたすけてくれたって話でしょ」
「ゼルクフギアを倒したのは、俺たちなんだ。フォッシャには特別な力がある」
俺はテーブルの上に手を置き、
「巫女は俺たちに呪いを仕留めさせようとしてる。放置して街に被害がでるより、大会のなかで解決してほしいってことなんだろうな」
そんな説明で納得いってくれたかどうかわからないが、ミジルの様子をみるにその努力はしてくれているようだった。
「ラトリー、この件はお前には危険すぎる。今はあまり俺たちのそばにいないほうがいい」
心配する気持ちからそう言ったが、ラトリーは強気にこばんだ。
「わ……私もチームの一員です! だれかがケガしても私が治します!」
この子の気持ちはわかるし、尊敬もするが、そんなことを言っている場合じゃない。
俺が注意しようとするのをさえぎるように、ミジルは言った。
「そのくらい手ごたえがあると、むしろやる気がでてくるわ」
「やりましょう。ここで逃げたらカードゲーマーじゃないですよ」
ハイロ、そしてローグまでもが呪いのカードを目前にしてひるむどころか立ち向かおうとしていた。
「私は言うまでもないわね。エイト、あなたもそうでしょう?」
「あ……ああ」
俺は彼女たちの勇気に圧倒されるばかりで、意気地のある声はだせなかった。俺がおかしいのだろうか。いや、彼女たちの見通しは甘い。
病がはやったときもそうだ。オドの加護があるからこの世界の人たちは妙に危機感がない。ローグたちも、死をまえにした顔ではない。
俺は何度も呪いのカードとかかわってきたからわかる。そしてゼルクフギアと向かい合ったときより強く感じた。死という感覚を。
人は……死ぬんだぞ。彼女たちは……わかって、いるのか。
0
あなたにおすすめの小説
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔石物語 - 魔石ガチャとモンスター娘のハーレムパーティーで成り上がり -
花京院 光
ファンタジー
十五歳で成人を迎え、冒険者登録をするために魔法都市ヘルゲンに来たギルベルトは、古ぼけたマジックアイテムの専門店で『魔石ガチャ』と出会った。
魔石はモンスターが体内に魔力の結晶。魔石ガチャは魔石を投入してレバーを回すと、強力なマジックアイテムを作り出す不思議な力を持っていた。
モンスターを討伐して魔石を集めながら、ガチャの力でマジックアイテムを入手し、冒険者として成り上がる物語です。
モンスター娘とのハーレムライフ、マジックアイテム無双要素を含みます。
自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜
来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。
自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。
「お前は俺の番だ」
番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。
一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。
執着と守護。すれ違いと絆。
――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。
甘さ控えめ、でも確かに溺愛。
異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~
鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。
そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。
母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。
双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた──
前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる