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王総御前試合編
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しおりを挟む「なるほど。呪いのカードを引き寄せるカード、ね」
窓際までいって、ふうと息をはくローグ。
準決勝を終えローグだけには連絡を取り宿まできてもらった。結局俺もフォッシャも単独でうごいているわけではなく、勝手な行動はできないため彼女にいち早く報告する必要がある。
俺は手帳をもって、その情報をよみあげる。
「このカードはほかのカードに擬態(ぎたい)して、各地を転々と移動する。……それでこの王都にまぎれこんだってことか」
擬態。それに引き寄せ。凶悪にもほどがあるだろうと、気が滅入る。
こんなとんでもないカードをとめられるんだろうか。
「ぎたい……ほかのカードとみせかけだけ同じになるってことワヌね」
「ああ。だからそのへんの道におちていていても、だれも呪いのカードだと気づかない」
「ま、フォッシャとエイトのコンビならなにがきてもだいじょーぶワヌ! たぶん!」
「その意気よ」
意気込むフォッシャを、ローグはやさしく励(はげ)ます。
「本当にたぶんな」
ローグは外に目をやり、
「ミラジオンは破壊者をよみがえらせようとしていたがなぜか失敗した。やつらは次にこのカードを必ず狙ってくる。ハイエナのように。それを阻止しなくてはならない。わかるわね?」
最後に俺をみて言った。
巫女だかミラジオンだか呪いのカードだか知らないが、いい加減にしてほしいもんだよ。本当に。しずかにカードゲームをやってほのぼのと暮らしていたいよ。
俺はやれやれと小さくため息をつき、
「まったく……。巫女からたんまり報酬もらわないと割りにあわないぞ、なあ?」
「そのとおりワヌ」
「たいへんな仕事だし……レアカード30枚くらい請求しても……いいよな?」
「必要経費ワヌ」
まあやり遂げたらの話か。呪いのカード対策には巫女の支援が必要だが、決勝に勝たなきゃいけないのはこっちの事情だ。そちらのほうはできるだけ自力でやらないとな。
「呪いを引き寄せるカード、か……。なあ、そのカードがあれば、実体化のカードもそのうち向こうからきてくれたりしてな。それに、俺が探してるカードも」
「エイト、さがしてるカードなんてあったワヌ?」
「……前に言わなかったっけ。俺はここじゃない遠いところから来たって」
「フォッシャもそうワヌ。フォッシャの故郷は、ふつうの人は入れんワヌ」
俺は自分の冒険士カードをとりだして、おもむろに見つめる。
「なんていうか俺のはそういう感じじゃなくてさ……
俺はここじゃない、フォッシャの故郷よりも遠いところから飛ばされてきた。普通じゃ来られない、呪いのカードの力で転移したんだ。
俺の元いた場所にはそもそも魔法のカードなんて存在してない
なにか偶然のアクシデントでこうなっただけだ。だから…
多分帰ったら…もうここには戻って来られない。……二度と」
この話をするのはたぶん初めてだ。だがフォッシャには伝えなきゃいけないと思うし、冗談のような話でもいまなら信じてもらえると思った。
「そういう風にいろんなことがあったけど、フォッシャやみんなのおかげでカードの楽しさを思い出せた。苦しい思い出もあるけど、また……この事件が終わったら、やってみようと思うんだ。投げ出したこと、あきらめた夢、ぜんぶ、もういちど」
「な、なにを言ってるワヌ? ぜんぜん、わからんワヌ。二度ともどってこられない?」
「うん……」
俺の予想にはんして、フォッシャはあわてていた。顔をあおざめさせて、目はおよいでいる。ここまで彼女が動揺しているのは見たことがないかもしれない。
フォッシャは声をふるわせて、
「エイト、最初からそのためにフォッシャについてきてたの…?」
「い、いや…そうじゃない。そうじゃない……」
「や…いやだよそんなの! エイトがいなくなるなんて…!」
「お、おちつけって。俺はただ」
声をあらげるフォッシャを落ち着かせようとするが、彼女はあきらかに様子がおかしかった。肩をふるわせて、苦しそうな表情を腕でおさえている。
泣いているようだった。フォッシャは飛び出すように研究室のドアをあけ、走って去っていった。
「おい!」
こんなときにもめごとを起こしている場合じゃない。それはフォッシャも俺もわかってはいたが、どうにもできなかった。
「追いかけなくていいの? 相棒なんでしょう」
ローグが気をきかせて声をかけてくれる。
だが俺には確信があった。フォッシャへの信頼が。彼女の強い熱意にうごかされて俺はひっぱられてきた。だから追いかける必要はない。
「……あいつは戻ってくる。……ぜったいに。いまさらになって呪いのカードのことを放り投げたりするようなやつじゃない」
起こってしまったことはしかたがない。言うべきタイミングがよくなかったのかもしれない。ただ自分がもっとうまくしゃべれていればしゃべれていれば、フォッシャを混乱させることもなかったんじゃないかと思った。
「すごく感謝してるって、言いたかったのにな」
宿を出て街をあるいていると、銀の鎧に身を包んだ兵士たちがどこからともなくあらわれて俺とローグのまわりを囲んだ。
ただならぬ雰囲気だったが、正直フォッシャとのことがあったあとなのでもう勘弁してくれよという感じだ。
そのうちのひとりが俺の前に出てきて、目があうなりにらみつけてきた。
「ゼルクフギアの復活。館の件、失踪事件。いつもお前がそこにいるな。なぜだ?」
ハイロと同じかすこし上ほどの女性だった。かなり鍛えているのか兵装(よそおい)はたくましく、軍人という感じの凛々しさがある。
「場合によってはお前を牢獄にいれることになる」
彼女は俺に指をさし、そう言った。
「見当はずれもいいところね、チェイス」
ストールを顔に巻いていたローグがそれを取って俺の前に歩み出る。面識があるのかローグの声は相手を威圧するようであり、事実ほかの兵士たちは身をこわばらせていた。
「私たちは独自に呪いのカードを追っている。巫女の承認も得ているわぁ」
俺のまえいた女性兵はせせら笑うような声をだし、
「これはこれは元・副隊長どの。護衛部隊を捨てて田舎にひっこんだと思ったら、のこのこと戻ってきて。カードに興じているときいたときは心底がっかりしましたよ」
「私には私の信条がある。あなたにどうこう言われる筋合(すじあ)いはないわ」
「信条ね。怪しい連中とつるむのがローグ・マールシュの信条ですか。堕(お)ちたものですね」
なんなんだこいつは。出あった頃のローグにウザさを付け足した感じだな。
「実はこの大会、私も出ることにしましてね。あなたのそのムカつくすまし面(づら)を叩き潰すために。勝ち馬にのらせてもらいました」
こいつ決勝の相手だったのか。たしかに向こうのブロックにこういう雰囲気の剣士がいたな。試合のときは兜(かぶと)のような防具をつけているからわからなかった。
「巫女の伝達によれば、この大会に呪いのカードが出てくる可能性が高いそうです。しかし試合がはじまる前に……ここで危険な芽をつんでおいても私はかまわないのですよ?」
チェイスは腰の剣にゆっくりと手を伸ばす。俺もカードをいつでも出せるようにし、ローグも身構えていた。
「やれるものならやってみなさい」
このチェイスというやつは俺、もしくは俺たちを一連の事件の犯人だと考え、ここで消そうとしているわけか。だが万が一俺たちが負傷して大会が成立しなければ、呪いのカードは野放しになり王都への危害が増すだけだ。
それでもつっかかってくるのだから、なにかローグとの間に私怨(しえん)があるのかもな。
チェイスはただの牽制のつもりだったのか剣の柄から手を離し、ふっとさげすむような目を俺にむけた。
「決勝がたのしみですね。護衛部隊の恥さらしはこのチェイスが粛清(しゅくせい)する」
チェイスはそういい残し、兵団とともに去っていった。
まるで俺たちが呪いのカードを隠し持っていると決め付けている口ぶりだった。どうやら決勝はやっかいなものになりそうだな。
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