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王総御前試合編
82 狂瀾怒涛
しおりを挟む「召喚……『闇の騎兵団』」
騎馬に乗った前衛、歩兵部隊、弓兵部隊、ぜんぶで50はいるだろうか、黒装束の軍勢がセンのまえにあらわれる。
「まさかあんたとまた共闘することになるとはな」
こんな状況でも、冷静を保(たも)っている味方もいた。
「護衛部隊ならここで倒れているわけにはいかないわ」
「当然」
チェイスとローグが先頭に立ち、アポロンと狼で闇の騎兵団を迎え撃つ。
俺もなにかウォリアーを出そうとカードを持った。だが、手が止まってしまう。
「セン……どうしちまったんだよお前……」
あのセンが。正々堂々とした勝負にこだわっていた彼が。カードゲーマーとして尊敬に値した彼が。
病に感染しただけじゃなく、こんなことになるなんて。あまりに……ひどすぎる。
「無駄だ。彼の精神は崩壊している」
キゼーノに言われるまでもなく、いつもの彼じゃないことはわかっている。センは勝負にこだわるあまり自我を失い勝利だけを求める抜け殻になっている。
助けないと。呪いのカードからみんなを、そしてセン自身を。
「三手に別れることを提案する。おいスオウザカきいているか?」
「ああ」
「我方と現役兵士で街のほうはどうにかする。あとひとり、だれか元凶である災厄を呼び寄せるカード、それを見つける役割を任せられないか」
「私がやります」
「ハイロ……だいじょうぶなのか?」とつい心配してしまう。俺たちのチームは決勝を終えたばかりで、万全な状態じゃない。
「私だってこれでも、特訓を乗り越えてきてますから。まだ動けますよ」
そうだな。たしかにハイロが適任かもしれない。ノコウはショックで茫然自失状態だし、チェイスもローグも疲労している。
ハイロのカードに通信がはいる。かけてきたのはミジルだった。
「ちょっとお姉ちゃん、なにがどうなってんの!? どこにいるの!?」
「ミジル……落ち着いて聞いてください。ようするにその……大変な事態です」
「そりゃわかるけど……。じゃあ、思いっきり暴れちゃってもいいんだよね?」
「存分にやってください」
そうか。ミジルもいたんだったな。彼女がいればすくなくともその周辺は安全だろう。
「ミジル、ラトリーを守ってやってくれ」と、声をかける。ラトリーもミジルと一緒に会場にきていたはずだ。
「ラトリーちゃんだけじゃなく、まるごとあたしが助けてやるわ。そっちもがんばんなさいよね」
問題は擬態カードのありかだ。俺とフォッシャでいろいろ調べてもみつからなかったこの根本の原因。
「けどどこにある!? わかるならとっくに見つけてる。ずっと見つけ出せないままだったんだ」
「いや。まだひとつ試していない手がある。重制限カードだが、エンシェント状態にあるいまなら使うことができるだろう」
キゼーノに言われて、俺は気づく。
「……[あれ]か!」
「【探索者をみちびく光の標(しるべ)】もう貴様たちのものだ。使ってもだれも文句は言えまい。こやつに乗っていけ」
「うわわ!?」
ハイロは召喚された水龍に無理やりはこばれていった。水龍はものすごい勢いでスタジアムのほうに飛んでいき、空中のウォリアーを魔法で蹴散らしながら進む。
テーブル会場に探索のカードはある。それを使えば不幸の連鎖もどうにかなるはずだ。ハイロに任せよう。
闇の騎兵団は手ごわかったが、キゼーノとそのカードらのおかげでどうにかこちらが押し返している。
「巫女の護衛兵もここにきている」
「あの獣人のひとたちか」
「冷静を失うなよ、スオウザカ。こちらも召喚できるのだから、この混乱の解決も不可能ではない。こちらは任せろ。貴様はワードハープを助けてやれ」
彼女の言葉に、ゆっくりとうなずく。
水に溶けていくチェイスとセン。王都の街のほうはまかせて、俺たちはセンを止めなければ。
しかしチェイスとセンで削ったはずの闇騎兵団が次々と立ち上がってくる。確実にダメージを与えて数を減らしたはずだが、ほとんど元通りになって隊列にもどっていく。
「再生のスキルを使ってるわね」
そうか。今はエンシェントスポットがひろがって俺たちはそのなかにいるから、センも再使用スキルが使えるのか。
オドはあきらかに異常な発光と暴走を見せており、おさまるどころかだんだん悪化していっているようだ。
「これ以上エンシェントの領域を広げるわけにはいかない……。リバーストリガー【トワイライト・エンバース<夕昏(ゆうぐれ)の残り火>】」
ローグは騎兵団から距離をとってフローする。
賢明な判断だ。ウォリアーの被害がさらに外に広がればもう王都どころの話ではない。世界が危機に陥(おちい)る。
「魔法抑制の効果でも、一定時間しか押しとどめることはできない。この勝負にかけるしかないわね」
一発勝負ってことか。
猶予を気にしてもしかたがないが、できる限り早くやらなきゃいけないのはたしかだ。
まずやらなきゃいけないのは暴発のカードを取り戻すことだ。あれがある限り街にさらにウォリアーが増える。
そこでハイロから通信がはいってくる。
「エイトさん、やりました! あのライトニングスピアのカードに擬態していました」
探索のカードをつかってやってくれたか。これで少なくとももう呪いのカードが増えることはなくなったわけだ。
「そうか……盲点だったな。街はどうなってる」
「ひどいありさまです。ウォリアーだらけで……私も何体かたたかいました。建物のそこらじゅうを飛び回っていて……まるで……。……そちらは?」
「よくないな。ノコウの再生スキルを使われて、どうにもならない。とにかく先に暴発のカードを取り返したいところだけど……」
「街の方はなんとかなりそうです。ウォリアーもある程度ダメージを与えれば、勝手にカードに戻っていくようなので。私もそっちにもどります」
「わかった」
ハイロがもどってきてくれれば戦力が厚くなる。復活する闇の騎兵団に対してもある程度の戦いが見込めるだろう。
優先的に暴発をどうにかする手立てを考えなくては。
「ノコウ、あんたいいカードたくさん持ってるんだろ!? 使えそうなのはないのかよ」
魂の抜けた銅像のように固まっていたノコウが、俺の喝にようやく気がついたようで何度かまばたきをする。
「なくはないですが……。発動条件が。天使を場に出してから1ターン経過していなければなりません。つまり時間をかせいで、その間無防備な天使を守らないとですの」
「やるしかない」
ノコウがエリュシオンとシャンバラを出し、俺は氷の魔女を召喚する。
一気に戦場と化した。激しい剣の刺突に、魔法と弓矢の嵐。さっきまでやっていた王総御前試合と変わらない正真正銘のヴァーサスだった。
とにかく天使を守るように隊形を組んだ。エリュシオンは手を合わせて祈る姿勢のまま一歩もそこを動けない。ほかのカードでうまくカバーしつつ闇の騎兵団を蹴散らしていく。
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