161 / 169
王総御前試合編
83 決戦
しおりを挟む「エイトさん!」
戦況が苦しくなってきたとき、ハイロが水龍と共にいいタイミングで戻ってきてくれた。水龍は何体かの敵兵を魔法と体当たりで吹き飛ばしたあと、街のほうへと戻っていった。
ハイロは『フンワリラプター<錦鳥>』と『フライツリー』を出して戦線に加わる。だがあの2体のカードでは防御戦は向かず、すぐに闇の騎兵団の圧倒的な数の力で両方とも押しつぶされていた。
悪魔が筋肉質で不気味な手をかざす。魔法の波動攻撃がシャンバラとノコウに直撃し、ふたりは倒れる。
俺はいそいで彼女のそばに駆け寄る。ノコウはシャンバラを手札に戻し、苦しそうに笑みをつくる。
「最低限しか……できませんでしたわ。まだ……戦えるというなら、あなたが信じた強さを……見せてほしいものですわ」
そう言って、目を閉じて休み始めた。彼女は気を失う前に、俺の手をにぎりセンを助けるための2枚のカードを託した。
「ハイロ! トリックを!」
それだけで彼女には伝わる。呪文封じ対策のための二重発動だ。
センがハイロに気をとられている隙に、俺は天使の専門魔法を呼び出す。
「【天使のおとしもの】。俺は暴発のカードをオドシーンに加える。これでもう使えないだろ」
1枚だけ敵のトリックによる手札の損失を元に戻すことができる。
暴発のカードを取り返し、オドシーンに入れる。これでなんとかウォリアがー増えるのは防(ふせ)いだ。
「ジャマが多い……」
センはそう言い、また新たなカードを切ってくる。
「トリックカード……【強制ルール】!」
俺たちのいる丘のあたりが黒い霧に囲まれる。
「強制……ルール……!?」
聞いたことのないカードだ。それも災厄のひとつなのか。
センはこちらを見据えて、
「このカードは発動したとき、公平なルールを強制する。宣言しよう。おたがいにフェイズを分け、ランダムドローと攻撃を交互におこなう。またプレイヤー同士以外の攻撃は受け付けない」
プレイヤー同士のカード以外の攻撃は受け付けない、だと。
ターンごとにカードを使う、ボードヴァーサスみたいなルールになるってことか……?
どうするか間をとって考えたかったが、ローグ、ハイロともに体力の限界をむかえており相談できそうにもない状態だった。
なんにしろトワライがエンシェント領域の拡大を抑えつづけるのにも限度がある。どういう勝負になってもここで決めないと。
「その炎がプレイヤーのオドライフを示す。つまり消えるときには……決着がつく」
俺の前に青色の炎が出現する。これがオドライフを示すのか。あまり考えたくはないが、もしこの炎が消えたらプレイヤーはどうなるのだろう。
どうであれ勝つしかない。
「ゲームをしようじゃないか。カードゲームをね」
センの顔には薄ら笑いが浮かんでいるように見える。
本当におかしくなっちまったんだな。でもカードの力があればセンも救えるはずだ。
そしてこの勝負に勝つことも。
俺はデッキホルダーに手をかざし、思い切り引き絞(しぼ)る。
「カードはこんなことのためにあるんじゃ無い……ッ。俺のターン、ドロー!! 『アクスティウスキッド』を召喚」
久々の鬼小僧の登場だ。場にはさっきまで出されていたウォリアーも引き継がれている。すでに狼とハイロの出した2体は下げてしまった。
こちらはキッド、エリュシオン、氷の魔女か。向こうには闇の騎兵団と悪魔。どうにか兵士たちの数は減らせてはいるが、まだまだ多い。
「トリックカード【背水の陣】を……」
「スキル【賢者たちの沈黙】。トリックは使わせないよ」
俺の使ったカードは無効化されてしまう。そういえばさっき【天使のおとしもの】を使ったときに、センはハイロに対し一度賢者たちの沈黙を使っていたか。
魔法が使えないだと……じゃあどうしろっていうんだ。
氷の魔女で闇の騎兵団に多少のダメージは与えたが、魔法による強化もなしにあの軍団を全滅できるわけがない。
どうにか火力を出して、一撃でしとめなければ。いよいよカードゲームらしくなってきたな。だが普通じゃないのは圧倒的に不利な条件ってことだ。
「なにが公平なルールだよ……俺のターンは、終了だ……」
「僕のターン。儀式魔法【冥界よりの来訪】。来い、『異形(いぎょう)の怪異(かいい)ヘハセート』」
出てきたのは、形容しがたい色と色、実体不明の物と物が混ざり合って抽象的な形しかしていないカード。その姿はただただ奇妙だが、不思議とまるでホラー風味の絵画や心霊写真を見たときのような印象を受ける。
「あれは……六幻魔札のカードですよ!」
とハイロが言う。
「ただ怖いだけじゃなくて、厄介なカードなのか」
「いえ、それが……どういう災害をもたらしたのかはよくわかっていないんです。ただ、よくないことがおきる不吉の兆候のように伝えられています。なのでどういう効果をもっているのかも……」
すでによくないことは起きてるけどな。
ボード準拠のランダムドロー。それに魔法も封じられてデッキからほしいカードを呼び出すこともできない。厳しい劣勢にあるといわざるを得ない。
くわえて出てきたのは効果不明のカードか。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる