神様見習いだけど、子供のうちから隠居しています -異世界転生神がかりチート無双-

イサデ isadeatu

文字の大きさ
6 / 28
ー働いたら神かなとおもっているー就職拒否編

しおりを挟む

 そういうわけで、実験台1号、一角獅子のモスとの奇妙な生活がはじまった。

「さて、薬の時間だぞ」

 俺は紫色のスープをモスに差し出す。

「これはなに?」

「魔力を増幅させる薬草、だ。……たぶん」

「たぶんってなに!? 怖いよ!」

 無理やりスプーンですくった分をモスの口につっこむ。かなりまずそうにしていた。ふむ味は改良の余地あり、か。

 今日も畑にいき、土をまく。モスはすでに元気ももどり、土を混ぜ合わせてくれる。

 自由にしろと言ったのに、つきまとってくる次第である。困ったものだ。

「お昼過ぎからは山をおりて、街へ行こうと思う」

 俺はモスに言う。

「街!? なんで」

 モスはあまり行きたくなさそうだった。

「新しい魔導書とか、薬の材料がほしいんだ。モスは別にこなくてもいいぞ」

「い、行くよ。ここに一人いても怖いし……」

 なんだそりゃ。かなり怖がりだな。

 家に魔物除けを焚いてから長い距離を歩く。

 なんという街なのかは知らないが、なかなか大きいところだった。店がにぎわい、そして人間だけではなく耳の長いエルフや獣人っぽい特徴の者もいる。

 モスはあきらかにびくついていた。このあいだの冒険者によほど会いたくないのだろう。

「まだ本調子じゃないのか? 肩に乗れ」

 あまりにモスがあたりを気にして歩くのが遅いので、肩に乗せてやる。

 今日は今までに作った薬を売る目的もある。そういうわけで薬局をまわってみたのだが、あまりどこも反応はよくなかった。

「あはは。ボウズ、お前さんが作ったってのか? がっはっは。とりあえず父ちゃんか母ちゃん連れてきてからまたきてくれよ」

 店主が笑いながら言う。
 ほとんどまともに相手にされていないような感じだった。

 ようやく話をきいてくれたのは、裏路地のさびれたところにある白髪の老婆の経営する商店だった。
 俺の薬をまともに見てくれたのは、彼女だけだった。粉末のタイプのものと、小瓶に入れた液状のもの両方を見せる。

「これをあんたがかい。ふうむ、たしかに出来はよさそうだ。でもあんた、街の人間じゃないね? 素性のわからない人間がつくった薬なんか、どこも買ってやくれないだろう。薬ってのは毒にもなりうるんだ。そうおいそれと仕入れられるもんじゃない」

「……そのとおりですね」

 商売と言うのは信頼が大切だ。それはわかってはいたが、俺はたぶんどこかで作った薬に自信があったんだと思う。

 しかしここの店主は優しく、譲歩してくれた。

「ま、とりあえずお試し用ってことで、格安で置いてみたらどうだい? 儲けは少ないだろうが、いいものなら客にうけるかもしれないよ」

「いいんですか? それじゃあ、お願いします」

「それから、冒険者に売り込みをかけてみるのもいいんじゃないかね。あいつらは生傷がしょっちゅうで絶えないからね」

「ぼ、冒険者……」

 俺の頭のうえまでのぼって、ぶるぶるとモスが震える。

「いろいろありがとうございます」

「いいってことさ。でももし売れたら、仕入れはここをひいきにしとくれよ」

「はい」

「あのー……」

 だれかが店の戸をあける。

 あれ? と俺は思った。

 さっきの店でもこの男の子を見た。その時は俺の前になにか交渉をしているようだったが、ほとんど門前払いされていた。
 薬が必要なのだろうか。

「カゼの薬、置いてますか?」

 彼は店主にたずねる。

「どうしたんだい」

「お母さんがカゼをひいてしまって……なかなかよくならないんです。でもうちはお父さんが死んじゃってるから、お金もなくて……安いお薬を探してるんです」

「あのねえ、医者を嫌うやつはだいたい痛い目を見るんだよ。それにタダであげるわけにも……ん? ああ、ちょうどいいじゃないか、今お試しの薬を仕入れたところだよ。これなら50ゴルで売ってるよ」

 店主は俺の置いた小瓶の入った箱を指さす。

「50ゴル……あと10ゴル足りない……」

「そんなに金ないんかい。弱ったねえ」

「いろんなところでお薬を買ったから……でもどれもダメで……」

「重い病気なんだね。どうしたもんか」

「タダでいいぞ、それ」

 頭を悩ませる二人に、俺はそう言った。

「え?」

「母親も診てあげようか」

「えっと、君は?」

「この薬を作った人。いくつか薬を持ってきてるから、どれかは効くと思うよ」

「でも、お金は……」

「ああ、いい、いい。ひさびさに別の実験……いや、薬の効果もためしてみたいから」

 男の子についていき、古びたおせじにも綺麗とは言えない家へとまねかれる。

 二階で、彼の母親はベッドの上で寝ていた。
 見たところ、かなり苦しそうにしている。熱は高いが顔色は白い。ひどくせきこんでいる。

 俺は口元に布を巻き、カバンから薬剤を取り出す。
 あれがいいかな。

 ちょうどよさそうなのを取り出す。黄色い液体の入った小瓶を、母親に飲ませてやる。

 するとみるみる顔色に赤みがもどり、汗もひいていった。
 俺もおどろいたが、彼女は突然身体を起こし、自分の額に手をあてる。薬を飲んだだけで回復してしまったらしい。

「うそ……体が軽いわ。熱もない……。ノドも治ってる……」

「お母さん!」

 男の子が叫んで彼女に抱き着いた。

「あなたが薬を?」

 と、彼の母が聞いてくる。

「ええ、まあ」

「すごいわ……なんだか一瞬で治ってしまったみたい。本当にあなたが作ったの?」

 一瞬で治った、というわけではにように思う。たぶんこの人はほかにも体に良い薬は飲んでいたはずだ。それで治癒能力はちゃんと機能したということだ。ウィルスだけがしつこく身体に残っていたんだろうな。

「ええ、優秀な実験体がいるので」

 俺はモスを見て答える。

「優秀だって……褒められちゃった」

 モスは照れくさそうにする。

「本当にありがとう。感謝してもしきれないわ」

「趣味でつくってる薬なので、別に代金はいりませんよ」

「そ、そういうわけにはいかないよ! 絶対いつか返すから!」

 男の子は俺の服のそでをつかんで、泣きべそをかきながら言った。

「お礼とかはいいよ。……あ、じゃあ、もしまた薬を必要にしてる人がいたら、さっきのお店の薬を勧めてくれないかな。ぜんぶの病気とか怪我にきくわけじゃないけど、ちゃんと処方すればある程度の効果はあるはずだから」

「わかった! 絶対約束する!」

「いや、ほどほどにやってくれればいいから。気が向いたらで、ね」

 俺は二人にそう言い聞かせ、その場をあとにした。

「すごいよタクヤ! 魔法みたいに治っちゃったよ!」

 モスが興奮ぎみに、町中で声を大きくして言う。

「あれは魔力性のウィルスというものの仕業だろう。魔力をもったウィルスが身体で暴れてるから、それを殺菌する。いわゆる、魔法抗菌薬……ってとこだな」

「うぃる……こき……?」

「副作用が少ないのはお前で証明できてたから、モスも役に立ったぞ」

「ほんと? 嬉しいなー」

 本当にうれしそうにモスははしゃぐ。

「喜ぶとこじゃないけどな」

 俺は冷静に言った。

「しかし、あのお店の人の言う通り、薬を売るのにももうすこし色々考えたほうがいいな……別にたくさん売れてほしいてことはないんだけど本を買うくらいのお金は必要だしな」

 商店街を出たところ、武器などを持った集団とすれ違った。おそらく冒険者だろう。
 あのペイルとかいうしょうもないやつはいないが、ああいうのを見てモスはひどくおびえてしまい俺の頭の上で頭を隠して震えだし、ずるずると俺の背中の方へと落ちて行く。

「まだあいつらのこと気にしてるのか」

「うん……気まずいよ。よわっちい僕を世話してくれたのはほんとだし……」

 あんなことされて、気まずいですむのかよ。

「……なあ。もっと自分の道をいってみたらどうなんだ。職場で嫌なことがあっても、転職すればあんがい忘れるもんだぞ。手間も時間もかかるけどさ」

「え? 転職? したことあるの、タクヤ?」

「先輩の受け売りだ」

「でもなにに転職したらいいんだろう」

「それは自分で考えろ」

 俺は空を見上げて言う。

「……まあ、俺ももしかしたら、変わろうとしてる最中なのかもなぁ……」

 そんなことを思った。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

処理中です...