14 / 28
ー働いたら神かなとおもっているー就職拒否編
14
しおりを挟む外に出て宿に戻る途中、いろんな人に声をかけられた。
もちろんロビーはすごい人気だったが、俺のほうに声をかけてくる人もいた。
「君、すごいな! 杖なしで魔法が使えるの?」
「はい。……普通じゃないんですか」
「普通なわけないでしょ!?」
口々に人々が言う。
……え? そうなの?
はからずも目立ってしまったようだ。
宿に戻ると、ふうとロビーが胸をなでおろした。ようやく緊張がとれたらしい。
「はは、足がすくんじゃったよ……」
「でも、よかったな。これで機械科のある学校にいける。しかも王都でだ。がんばれよ」
「うん……それなんだけど、タクヤももらってたよね?」
「え? ああ、でも俺は行く気ないよ。学校なんて。性に合ってないし」
「でも、ここまでこれたのも、機械が完成したのも、タクヤのおかげだ」
「俺はなにもしてないさ。ロビーがすごいんだよ」
「違う!」
ロビーが急に声を荒げたので、昼寝していたモスが飛び起きる。俺もおどろいた。彼がこんな大声を出せるなんて。
ロビーは真剣な目で、はっきりと言う。
「……けっきょく僕は、会場じゃなにもできなかった。……あのときだけじゃない。村でだってそうだ。僕みたいに変な奴と仲良くしてくれるのは君くらいだ。ただでさえ、こんな臆病なのに、機械以外の勉強は人よりずっと遅れている……とても王都学園でやっていけないよ」
「……心配しすぎだよ。なんなら、モスをおともにつけようか? ……王都で犯罪に巻き込まれてもモスがいれば安心だろ」
「タクヤ、真剣にきいてほしい。……。タクヤも一緒に学園にきてほしいんだ」
……やはりそうなってしまうのか。うすうすロビーがそうしてほしがっているのはわかっていた。
だが俺はそんなつもりはまったくない。勉強を強いられる場所、自由と無縁の場所に、なぜわざわざいかなきゃいけない?
とはいえ、代行計画を完遂させるには、ロビーの成熟は必要不可欠だ。そのロビーは、たしかに俺意外とはコミュニケーションがあまり得意ではない。そこは心配なところだ。
「読み書きも満足にできない。魔法もからっきし。そんな僕がどうやってひとりで王都でやっていけばいい? ……タクヤ」
ロビーの眼は、助けを懇願しているようにうるんでいる。
返答に詰まった。俺は頭を抱える。
学校なんていやだ。だが――たしかにロビーをこのまま学園に送り込んだところで、成功する見込みはかなり低い。
会社と学校には共通する点はいくつかあるが、そのなかのひとつは決してそこで求められる能力は知能や専門的な能力だけではないということだ。
すなわちコミュニケーション能力。これがある人間は専門的な能力にとぼしくても、多くの場所で成果を出すことができる。
会社でもそうだ。たしかにおべっかや口のうまいペテン師みたいのが昇進し組織が腐っていくこともあるが、多くの場合リーダーになるやつには対話力がそなわっている。
機械をつくりだす才能には長けていても、そのコミュニケーション能力がロビーには圧倒的に不足している。
そのロビーが、果たして学園でやっていけるんだろうか。しかも、王都にひとりで移り住んで……。
神格になりたくない俺の代わりに、ロビーには神格になってもらわなきゃならない。
俺は考え抜いた末に、ロビーにひとつの結論を伝えた。
学期のはじまりはあと数か月あるが、推薦組は途中で学校に編入できるらしい。
そうして、大会から一週間後にロビーは王都学園機械科へと入った。
俺はと言うと、もちろん学校には入っていない。
優勝賞金をつかって、王都に家を借りた。そこでモスと、ロビーとで住んでいる。
学校には進まないが、やはり一人でロビーを残していくのはリスクが大きすぎる。村の家族にも話して、了解は得ている。
俺が来ないことを悲しみ、そして登校初日はガチガチに緊張していたロビーだが、だんだんと馴染み始めたようだった。まわりの生徒も機械が好きなため、わりと話が通じるのだとか。
俺の心配は杞憂だったらしい。
王都は人が多くて窮屈だが、とりあえずは一年の辛抱だ、と自分に言い聞かせて日々をのんびり暮らしている。とりあえず一年あれば、ロビーもすこしは学校に慣れてくれるだろう。
そうゆるみきっていた矢先のことだった。
ある日の夕方、学校の制服姿で、ロビーが家に帰ってきた。俺はモスと一緒に夕飯をつくっているところだった。
ふとロビーの顔をみると、いつものおだやかな表情だが、目がどこか泳いでいた。
ああなにかあったんだなと、感覚でわかった。
「話があるんだ」
やはり、というべきか。上着のローブを脱ぎ、カバンを床に置いて、ロビーが言った。
「学校をやめたい」
突然の宣告に、俺は持っていたしゃもじを落とす。
「ど、どうして? まわりも機械が好きだからけっこううまくいってるって、こないだ言ってたろ」
「……」
「あんなに苦労して入ったところじゃないか。王都学園は国立だから、学費もタダなんだろ。それに、毎日書き取りや、歴史の勉強だってしてる……」
「…………」
ロビーの返事がなかった。
彼はただ、うつむいて、泣き始めた。
「みんな、あの世界大会のことを知ってて、ものすごく期待の眼を向けてくるんだ。なのに僕は……タクヤがいなきゃなにもできない。勉強だって得意なわけじゃない。……機械にも集中できなくて……みんなの期待をうらぎってしまっていて、とてもイヤなんだ」
「そんなの気にするな。機械のことを学ぶために入ったんだろ。だったらほかのやつなんてどうでもいいじゃないか」
たしかに期待にこたえられないというのはつらいものがあるだろう。だけどこいつの真の実力を知ったらまわりだって認めるはずなんだ。
俺は必死になって、彼をはげまそうとする。
「あきらめるのには早いだろ。俺が王都に住んでるのは、しばらくのあいだお前を支えてやるためなんだぞ。とりあえず一年がんばってみよう」
「タクヤには申し訳ないけど……」
「もしかして、ホームシックか? 次の休日一度村に帰ろうか」
俺の問いに、ロビーは首を振る。そのたびに涙が床に散らばって落ちた。
「ねえタクヤ、僕おもうんだけど、いやがってることをやらせてもしょうがないよ。おもしろおかしく一生分の休暇をとる、っていつもタクヤが言ってることだよ」
モスが言った。
俺はその言葉に、はっと気づかされる。
「……そうだったな」
つぶやくように言って、しゃもじを拾い上げた。
「悪い。……俺は自分の都合で無理やり期待をお前に押しつけてた」
俺は自分のおろかさを責めた。そして謝罪のために、ロビーの肩に手を置いた。
「ロビー。俺も王都学園に行く。来月、一般生の入学試験がある。俺はそこで受けるよ」
「……タクヤが? あんなに行きたくないっていってたのに?」
「……ああ。……嫌がることをやらせるなんて、友達じゃない」
あぶないところだった。俺は自分がいちばん嫌いな、ブラック企業とおんなじことを友人に押しつけそうになってた。
「俺はお前に機械を楽しんでほしいんだ。……お前が嫌がることはやらせない。だからロビー。俺がお前を支えてやる。学校に入って、俺がちかくでお前を見ててやる。それなら、機械に集中できるだろ」
「で、でも。そんなことを言ったら、今度は僕がタクヤに嫌なことをさせることになっちゃう……」
「気にするな。まじめにやるつもりはない。別に学校にいってたって、自由気ままに暮らすことができないわけじゃない。俺は俺の道をいくだけだから、安心しろ」
「……うん」
ようやく、ロビーは涙をぬぐってくれた。
そして、いきなり抱き着いてくる。
「……タクヤが友達で本当によかった」
彼の頬をつたう涙がこちらにも伝わってきた。生暖かい感じだ。
おいおい。やっぱりホームシックになってるんじゃないのかロビー? 感傷的すぎるぞ。
まあいい。これからは俺がそばにいてやれるんだからな。変な意味はなく。
「俺もお前が友達でよかったって、本当にそう思ってるよ。……なれよ、機械の神様に」
念のため、念を押しておいた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』
宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる