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21話 彼女の過去に問題発生
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「大丈夫か?花蓮」
「う、うん。ありがとう」
電車も行ってしまい、花蓮も少し気持ちが落ち着くまで時間がかかりそうだったので、1度駅を出て近くのファミレスに入ることにした。
「ごめんね、急に」
「いや、いいよ」
花蓮が少し落ち着いたので、俺はドリンクを入れてきた。
何を入れればいいのかいまいち分からなかったので、とりあえず烏龍茶にした。
「……花蓮」
「どうしたの?」
俺は真剣なトーンで、花蓮の目を見て話した。
「俺、実は今日花蓮の過去を博さんから聞かせてもらったんだ」
「え……」
「正直……驚いた」
「……」
「掘り返す必要もないと思ってたから何も言わなかったけど、やっぱり何か感じるものがあったのかもと思ってさ」
「……うん」
━━2時間程前。岡田家にて。
「それとだな、匠君。実は、花蓮は過去にあまり良くない思い出があるんだ」
「…え?」
「簡単に言うと、虐めみたいなものだ。まぁ、そこまでひどくはなかったし、本当に僅かな間だったんだがな。俺はどうしても花蓮がまだそのことで苦しんでいないかどうかが心配だったんだ」
「そうだったんですね……知りませんでした」
花蓮にそんなことがあったなんて知らなかった。と言うか、そんな雰囲気が一切出ていなかった。気づけなかったのか、俺。彼氏なのに…。長い間片思いして、ずっと見てきていたのに分からなかったのか。
「そう思い詰めないでくれ、匠君。花蓮は気づかれないように隠していたのかもしれない。もしかするとそこまでのことでもなかったのかもしれないしな」
「ですが……」
「花蓮も、匠君に心配かけたくなかったのかもね」
和子さんも、優しくそうフォローしてくれた。
「あの……」
「どうしたんだい?」
「よろしければ、何があったのか教えていただけませんか?」
俺は断られてもいいと言う覚悟でそう尋ねた。
「そうだね。匠君なら、教えても大丈夫かもな……」
「……ほんとですか?」
「あぁ…。ただ、それを聞いて、優しい匠君が今まで通りに花蓮に接することができるかどうかは分からないぞ?」
「……」
どういう意味だろう。もしかすると、俺が見ている花蓮とは全く別人なのかもしれない。そう言うことなのか……な?それでも、俺はこれからも彼女と共に歩んでいくのなら、知らなくてはならないだろう。それなら、考える必要もない…か。答えは決まった。
「それでも、僕は聞きたいです」
「……分かった。匠君がそう言うなら大丈夫だな」
そう言って、博さんは目を瞑り、思い出すように話し出した。
「あれは花蓮が10歳。つまり小学校5年生の時の運動会の日だった。あの日から、花蓮の人生が変わった。いや、人生だけじゃない。花蓮の生活、性格、ほとんどすべてっが変わった」
「と言うことは、その運動会で何かあったってことですよね…?」
「あぁ。そう言うことだ」
運動会……か。何だろう。どこか覚えているような……。
「続けよう。匠君の言う通り、運動会でことは起きた。内容はたいしたことではなかった。クラス対抗リレーでのことなんだがな。簡単な話だが、ようは花蓮のミスによって負けたんだ」
「……なるほど…」
納得したわけではないが、何となくそれくらいだろうとは思っていた。ただ、どうしてそんなことで虐めれる羽目になったのかが分からない。
「ミスって言うのは簡単な話でバトンを落としただけだ」
「それだけで?虐められるんですか?どうして……」
「ミスもミスだったんだが、それ以前に花蓮は足が遅かったんだ。だから花蓮のところで前との差が開いたり、後ろとの差が縮んだりすることは仕方なかった。それだけでも、一部の男子や女子からは嫌な目で見られていた。そこにミスが加わった……」
「だから溜まりに溜まった不満が爆発した…」
「そう言うことだよ。匠君」
足が遅い、運動神経が悪い人間は、クラス対抗であるリレーにおいて、邪魔でしかない。そんなただでさえ足枷でしかない人間が、バトンを落とした。
なるほどな。確かに本気で勝ちにいってる奴らからしたら邪魔でしかないな。
「でも、どうしてそれだけで虐めなんて起こるんですか?」
「リーダー格だった子が、それをいいことに虐めを始めたんだ」
「……なる……ほど」
リーダー格。クラスカーストの頂点。女王。ボス。色々な呼ばれ方があると思う。花蓮の時は、女子の派閥の中で最も権力があったやつらしいのだが、その当時はなかなかに僅差だったらしく、クラス全員で見たいなのではなくて、単純な嫌がらせ程度だったらしい。
嫌がらせを程度という認識なのは、あまり良くないが…。
虐め改め嫌がらせの内容は、簡単に分けて2つ。1つはひたすらバトンを落としたことを繰り返し責め続けたり、大きな声で足が遅いことを馬鹿にしたりすると言ったもの。これが最初の1ヶ月は続いたらしい。ただ、これはまだ序の口だったらしい。後半の内容が尋常じゃなかった。
もう1つは派閥内の人間全員での完全な無視。空気として見るよりももっと酷いもの。見えないからぶつかったり、見えないから殴ったり、そんな子供みたいなものじゃない。完全な無視。視界に入っても全く反応もしない、完全なもの。正直、小学生のレベルの無視ではなかったらしい。もちろんそれは派閥内でのことなのだが、もしもクラス、いや学年、学校全体でのものなら、耐えるのも困難だったと思う。
この嫌がらせが終わったのは、それほど後のことではなかった。
理由は単純。リーダー格の人間が飽きたのだ。ただそれだけだ。
嫌がらせの爪痕は、小学生の間はずっと続いた。派閥に関係なかった人も、少しずつ距離をとり始めた。理由は単純で、自分も同じことをされないため。当たり前だ。
「花蓮が、なにかしたんですか?」
「いや、何もしていないだろう」
「なら…何で?」
「分かっているんだろう?匠君」
「……」
嫌がらせが起こるのには、大きく分けて2つのパターンがある。1つはただ単にそいつのことが気に食わなかったり、鬱陶しかったりするからだ。モテるから鬱陶しい。賢いから鼻にかかる。色々あるが、この辺が一般的だろう。
もう1つは嫌がらせをしたいだけ。嫌がらせをすることで地位を確立しているものもいるらしい。私はこいつよりも強い。私は誰かより上だ。私に逆らえばみんなこうするぞ。こんな感じで様々な可能性で嫌がらせが起こる。
そして、これがエスカレートすると、虐めになる。
花蓮の場合は後者だと思う。
「それは……男子もだったんですか?」
「そうみたいだね。あの学校は女子の方が強い学校でね。男子は従うほかなかったんだよ」
「なるほど…」
確かにそうだ。正義感に駆られて女の子を助けたとしても、結局嫌がらせが終わるわけではない、標的が変わるだけだ。そしてまた助ける。するとまた標的が変わる。要はいたちごっこと言うわけだ。それに加えて自分が標的になるリスクも負う。そんなことをする奴は、限りなくゼロに近いだろう。そんな状況を変えられるとすれば、イケメンで運動神経抜群のモテる転校生くらいだろう。
そしてこれが小学生だったのも不幸だ。
花蓮の美貌に気づくのは、恐らく中学生ごろからだろう。個人差はあると思うが、そのころには男子は気づくだろう。
こうして超絶美女の花蓮が男にも助けをもらえなかった理由が完璧に証明された。
「中学生になるころ、俺はいい機会だと言って転校させたんだ」
「なるほど。それで小学生の間だけだったんですね」
「そう言うことだ」
「しかし本当に酷い学校だったんですね」
「そうみたいだな」
「花蓮は…その、まだ気にしてたりするんですか……?」
「…分からん。ただ、まったく気にしていなになんてことは無いと思う」
「なるほど……」
「だからだ。匠君。俺からのお願いだ。花蓮を頼む」
「私からも、お願いします」
そう言って頭を下げる博さんと和子さん。
「そんな、とんでもないです。僕ができることは必ずやります。ですから、こちらこそ僕たちを見守っていてください。お願いします」
「ハハハ。やっぱり君なら安心できるよ」
「うふふ。そうね」
「そう言っていただけると幸いです」
『ドンドンドンドン』
「ちょうどいいタイミングだな」
「そうね。花蓮も1人でいるとまだ落ち着かないのかもね」
俺たちが話終えた瞬間に、花蓮が2階の自分の部屋から降りてきた。
「匠君、お父さんと何か話してたの?」
「あぁ、うん。学校での花蓮について、たくさん聞かれたよ」
「もう!お父さんっていっつもそうなんだから」
「今度は花蓮に匠君について聞こうかな?」
「博さん。そんなことをしても意味はないわ。だって花蓮。毎日のように話しているんですもの」
「そうだったな」
「そうですよ」
「でも、どんな子なのか分かった後に聞くのは、また違った良さがあるもんだよ」
「確かにそうかもしれないですね」
「よし花蓮。今すぐ聞かせてくれ」
「嫌に決まってるじゃん!」
ふと、自分の心がスッとつぶされるような感覚になった。
あ。俺今「いいなぁ~」って嫉妬してるのかな。
おそらく、最近1人暮らしを始めてから家族と言うものに触れない生活が続いていたからだろう。どこか懐かしくなってきた。
明日会うの、楽しみだな。明日は久々に泊まって帰るか。
と言う感じで、花蓮の過去はざっくりとこんな感じだ。本人にしか分からないことも多くあるかもしれないので、これがすべてではなく、これが完璧でないことは分かる。
「花蓮はさ。これからもこの過去は振り切れないのか?やっぱり…」
「……それは…無理ではないと思う……」
「それは、俺が何かしてあげられることか?」
「……うん」
「なんだ?何をすればいいんだ?」
俺は、少し必死だったのかもしれない。博さんから聞いた時から、今までの花蓮のふるまいが作り物だったのかもしれない。偽物だったのかもしれないと思うと、どうしても怖くなっている自分がいたからだ。
「何って言うっ訳でもないんだけどね?匠君は一緒に居てくれるだけでいいの。匠君と初めて会ったとき、どうしてか分からないんだけど、この人といると安心するって思ったの。それからたくさんの時間を過ごすうちに、直感から確信に変わっていって、そして気付いた時にはもう好きになってたの」
あー。そう言うことか。それもそうだな。さっきから難しく考えすぎていたのかな。花蓮の傍に居たいという気持ちが強すぎて、花蓮に拒絶されるのが怖くて、だから素直に聞くことができなかった。
俺にとって最も言ってほしかった言葉を花蓮が言ってくれた。なら、今度は俺が言わなくちゃいけないよな。
「さっきも言ったけどさ。俺は花蓮から離れたりしないから」
「…うん」
「花蓮と初めて話して、それから何度も話すようになって、いつの間にか一緒に居ることが心地よくなっていった。でも、相手は花蓮。容姿は完璧なくらいに整ってるし、性格も文句のつけようがない。そんな花蓮と話せているだけでも俺は幸せだ。そう思うようにしていた。決してこの気持ちに気づいてはいけないって」
「……うん」
「でも、そんな簡単な話じゃなかったよ。少し我慢した分、余計にその気持ちは大きくなってた。自分で抑え込むことなんて不可能なんだってことに改めて気づかされたよ」
「うん…」
花蓮もだんだん落ち着いてきた。あと一押しだ。ここは俺の気持ちをぶつけるだけでいい。それだけのことだ。難しく考えなければいい。
「花蓮!」
「はい」
「俺は花蓮のことがすごく好きだ。何があっても俺が守る。何があっても俺だけは絶対に裏切らない。一緒に居るし、味方でいる」
俺の精一杯の愛の言葉を花蓮に送った。花蓮が1人にならないように、心から本当の安心を感じてもらうために…。
「ありがとう、匠君。私も好き、大好き。匠君と一緒なら、きっとこれからどんなことがあっても乗り越えられる気がする。うんうん。絶対に乗り越えらる」
「それなら良かったよ。花蓮には、笑顔が1番似合うから。その笑顔が永遠に続くように、俺は花蓮を支えるよ」
「うん。ありがとう」
そう言って、花蓮は目じりに雫をためながら、とびっきりの笑顔を作った。それを見て、絶対に悲しませないと心から誓った。
「ごめんね、匠君。こんな時間まで付き合わせちゃって」
スマホを取り出して時間を見ると、時刻は11時を回っていた。
「いいよいいよ。花蓮と一緒に居る時間が増えたから、それだけで俺は幸せだったよ」
「やっぱり匠君と一緒に居ると、心が楽になるよ」
「それは良かった。俺も幸せだし、一石二鳥だな」
「そうだね」
俺たちはお互い笑い合った。
「それじゃ、俺はそろそろ帰るよ」
「うん。家まで送ってくれてありがとう。ほんとは私が匠君を駅まで送って帰るつもりだったのに」
「いいって、気にすんな」
「うん」
「それじゃ、またな」
「うん。またね」
そう言って、俺は今度こそ花蓮の家を後にした。
俺が曲がり角を曲がるまで、優しい眼差しが背中に送られ続けているように感じた。
「う、うん。ありがとう」
電車も行ってしまい、花蓮も少し気持ちが落ち着くまで時間がかかりそうだったので、1度駅を出て近くのファミレスに入ることにした。
「ごめんね、急に」
「いや、いいよ」
花蓮が少し落ち着いたので、俺はドリンクを入れてきた。
何を入れればいいのかいまいち分からなかったので、とりあえず烏龍茶にした。
「……花蓮」
「どうしたの?」
俺は真剣なトーンで、花蓮の目を見て話した。
「俺、実は今日花蓮の過去を博さんから聞かせてもらったんだ」
「え……」
「正直……驚いた」
「……」
「掘り返す必要もないと思ってたから何も言わなかったけど、やっぱり何か感じるものがあったのかもと思ってさ」
「……うん」
━━2時間程前。岡田家にて。
「それとだな、匠君。実は、花蓮は過去にあまり良くない思い出があるんだ」
「…え?」
「簡単に言うと、虐めみたいなものだ。まぁ、そこまでひどくはなかったし、本当に僅かな間だったんだがな。俺はどうしても花蓮がまだそのことで苦しんでいないかどうかが心配だったんだ」
「そうだったんですね……知りませんでした」
花蓮にそんなことがあったなんて知らなかった。と言うか、そんな雰囲気が一切出ていなかった。気づけなかったのか、俺。彼氏なのに…。長い間片思いして、ずっと見てきていたのに分からなかったのか。
「そう思い詰めないでくれ、匠君。花蓮は気づかれないように隠していたのかもしれない。もしかするとそこまでのことでもなかったのかもしれないしな」
「ですが……」
「花蓮も、匠君に心配かけたくなかったのかもね」
和子さんも、優しくそうフォローしてくれた。
「あの……」
「どうしたんだい?」
「よろしければ、何があったのか教えていただけませんか?」
俺は断られてもいいと言う覚悟でそう尋ねた。
「そうだね。匠君なら、教えても大丈夫かもな……」
「……ほんとですか?」
「あぁ…。ただ、それを聞いて、優しい匠君が今まで通りに花蓮に接することができるかどうかは分からないぞ?」
「……」
どういう意味だろう。もしかすると、俺が見ている花蓮とは全く別人なのかもしれない。そう言うことなのか……な?それでも、俺はこれからも彼女と共に歩んでいくのなら、知らなくてはならないだろう。それなら、考える必要もない…か。答えは決まった。
「それでも、僕は聞きたいです」
「……分かった。匠君がそう言うなら大丈夫だな」
そう言って、博さんは目を瞑り、思い出すように話し出した。
「あれは花蓮が10歳。つまり小学校5年生の時の運動会の日だった。あの日から、花蓮の人生が変わった。いや、人生だけじゃない。花蓮の生活、性格、ほとんどすべてっが変わった」
「と言うことは、その運動会で何かあったってことですよね…?」
「あぁ。そう言うことだ」
運動会……か。何だろう。どこか覚えているような……。
「続けよう。匠君の言う通り、運動会でことは起きた。内容はたいしたことではなかった。クラス対抗リレーでのことなんだがな。簡単な話だが、ようは花蓮のミスによって負けたんだ」
「……なるほど…」
納得したわけではないが、何となくそれくらいだろうとは思っていた。ただ、どうしてそんなことで虐めれる羽目になったのかが分からない。
「ミスって言うのは簡単な話でバトンを落としただけだ」
「それだけで?虐められるんですか?どうして……」
「ミスもミスだったんだが、それ以前に花蓮は足が遅かったんだ。だから花蓮のところで前との差が開いたり、後ろとの差が縮んだりすることは仕方なかった。それだけでも、一部の男子や女子からは嫌な目で見られていた。そこにミスが加わった……」
「だから溜まりに溜まった不満が爆発した…」
「そう言うことだよ。匠君」
足が遅い、運動神経が悪い人間は、クラス対抗であるリレーにおいて、邪魔でしかない。そんなただでさえ足枷でしかない人間が、バトンを落とした。
なるほどな。確かに本気で勝ちにいってる奴らからしたら邪魔でしかないな。
「でも、どうしてそれだけで虐めなんて起こるんですか?」
「リーダー格だった子が、それをいいことに虐めを始めたんだ」
「……なる……ほど」
リーダー格。クラスカーストの頂点。女王。ボス。色々な呼ばれ方があると思う。花蓮の時は、女子の派閥の中で最も権力があったやつらしいのだが、その当時はなかなかに僅差だったらしく、クラス全員で見たいなのではなくて、単純な嫌がらせ程度だったらしい。
嫌がらせを程度という認識なのは、あまり良くないが…。
虐め改め嫌がらせの内容は、簡単に分けて2つ。1つはひたすらバトンを落としたことを繰り返し責め続けたり、大きな声で足が遅いことを馬鹿にしたりすると言ったもの。これが最初の1ヶ月は続いたらしい。ただ、これはまだ序の口だったらしい。後半の内容が尋常じゃなかった。
もう1つは派閥内の人間全員での完全な無視。空気として見るよりももっと酷いもの。見えないからぶつかったり、見えないから殴ったり、そんな子供みたいなものじゃない。完全な無視。視界に入っても全く反応もしない、完全なもの。正直、小学生のレベルの無視ではなかったらしい。もちろんそれは派閥内でのことなのだが、もしもクラス、いや学年、学校全体でのものなら、耐えるのも困難だったと思う。
この嫌がらせが終わったのは、それほど後のことではなかった。
理由は単純。リーダー格の人間が飽きたのだ。ただそれだけだ。
嫌がらせの爪痕は、小学生の間はずっと続いた。派閥に関係なかった人も、少しずつ距離をとり始めた。理由は単純で、自分も同じことをされないため。当たり前だ。
「花蓮が、なにかしたんですか?」
「いや、何もしていないだろう」
「なら…何で?」
「分かっているんだろう?匠君」
「……」
嫌がらせが起こるのには、大きく分けて2つのパターンがある。1つはただ単にそいつのことが気に食わなかったり、鬱陶しかったりするからだ。モテるから鬱陶しい。賢いから鼻にかかる。色々あるが、この辺が一般的だろう。
もう1つは嫌がらせをしたいだけ。嫌がらせをすることで地位を確立しているものもいるらしい。私はこいつよりも強い。私は誰かより上だ。私に逆らえばみんなこうするぞ。こんな感じで様々な可能性で嫌がらせが起こる。
そして、これがエスカレートすると、虐めになる。
花蓮の場合は後者だと思う。
「それは……男子もだったんですか?」
「そうみたいだね。あの学校は女子の方が強い学校でね。男子は従うほかなかったんだよ」
「なるほど…」
確かにそうだ。正義感に駆られて女の子を助けたとしても、結局嫌がらせが終わるわけではない、標的が変わるだけだ。そしてまた助ける。するとまた標的が変わる。要はいたちごっこと言うわけだ。それに加えて自分が標的になるリスクも負う。そんなことをする奴は、限りなくゼロに近いだろう。そんな状況を変えられるとすれば、イケメンで運動神経抜群のモテる転校生くらいだろう。
そしてこれが小学生だったのも不幸だ。
花蓮の美貌に気づくのは、恐らく中学生ごろからだろう。個人差はあると思うが、そのころには男子は気づくだろう。
こうして超絶美女の花蓮が男にも助けをもらえなかった理由が完璧に証明された。
「中学生になるころ、俺はいい機会だと言って転校させたんだ」
「なるほど。それで小学生の間だけだったんですね」
「そう言うことだ」
「しかし本当に酷い学校だったんですね」
「そうみたいだな」
「花蓮は…その、まだ気にしてたりするんですか……?」
「…分からん。ただ、まったく気にしていなになんてことは無いと思う」
「なるほど……」
「だからだ。匠君。俺からのお願いだ。花蓮を頼む」
「私からも、お願いします」
そう言って頭を下げる博さんと和子さん。
「そんな、とんでもないです。僕ができることは必ずやります。ですから、こちらこそ僕たちを見守っていてください。お願いします」
「ハハハ。やっぱり君なら安心できるよ」
「うふふ。そうね」
「そう言っていただけると幸いです」
『ドンドンドンドン』
「ちょうどいいタイミングだな」
「そうね。花蓮も1人でいるとまだ落ち着かないのかもね」
俺たちが話終えた瞬間に、花蓮が2階の自分の部屋から降りてきた。
「匠君、お父さんと何か話してたの?」
「あぁ、うん。学校での花蓮について、たくさん聞かれたよ」
「もう!お父さんっていっつもそうなんだから」
「今度は花蓮に匠君について聞こうかな?」
「博さん。そんなことをしても意味はないわ。だって花蓮。毎日のように話しているんですもの」
「そうだったな」
「そうですよ」
「でも、どんな子なのか分かった後に聞くのは、また違った良さがあるもんだよ」
「確かにそうかもしれないですね」
「よし花蓮。今すぐ聞かせてくれ」
「嫌に決まってるじゃん!」
ふと、自分の心がスッとつぶされるような感覚になった。
あ。俺今「いいなぁ~」って嫉妬してるのかな。
おそらく、最近1人暮らしを始めてから家族と言うものに触れない生活が続いていたからだろう。どこか懐かしくなってきた。
明日会うの、楽しみだな。明日は久々に泊まって帰るか。
と言う感じで、花蓮の過去はざっくりとこんな感じだ。本人にしか分からないことも多くあるかもしれないので、これがすべてではなく、これが完璧でないことは分かる。
「花蓮はさ。これからもこの過去は振り切れないのか?やっぱり…」
「……それは…無理ではないと思う……」
「それは、俺が何かしてあげられることか?」
「……うん」
「なんだ?何をすればいいんだ?」
俺は、少し必死だったのかもしれない。博さんから聞いた時から、今までの花蓮のふるまいが作り物だったのかもしれない。偽物だったのかもしれないと思うと、どうしても怖くなっている自分がいたからだ。
「何って言うっ訳でもないんだけどね?匠君は一緒に居てくれるだけでいいの。匠君と初めて会ったとき、どうしてか分からないんだけど、この人といると安心するって思ったの。それからたくさんの時間を過ごすうちに、直感から確信に変わっていって、そして気付いた時にはもう好きになってたの」
あー。そう言うことか。それもそうだな。さっきから難しく考えすぎていたのかな。花蓮の傍に居たいという気持ちが強すぎて、花蓮に拒絶されるのが怖くて、だから素直に聞くことができなかった。
俺にとって最も言ってほしかった言葉を花蓮が言ってくれた。なら、今度は俺が言わなくちゃいけないよな。
「さっきも言ったけどさ。俺は花蓮から離れたりしないから」
「…うん」
「花蓮と初めて話して、それから何度も話すようになって、いつの間にか一緒に居ることが心地よくなっていった。でも、相手は花蓮。容姿は完璧なくらいに整ってるし、性格も文句のつけようがない。そんな花蓮と話せているだけでも俺は幸せだ。そう思うようにしていた。決してこの気持ちに気づいてはいけないって」
「……うん」
「でも、そんな簡単な話じゃなかったよ。少し我慢した分、余計にその気持ちは大きくなってた。自分で抑え込むことなんて不可能なんだってことに改めて気づかされたよ」
「うん…」
花蓮もだんだん落ち着いてきた。あと一押しだ。ここは俺の気持ちをぶつけるだけでいい。それだけのことだ。難しく考えなければいい。
「花蓮!」
「はい」
「俺は花蓮のことがすごく好きだ。何があっても俺が守る。何があっても俺だけは絶対に裏切らない。一緒に居るし、味方でいる」
俺の精一杯の愛の言葉を花蓮に送った。花蓮が1人にならないように、心から本当の安心を感じてもらうために…。
「ありがとう、匠君。私も好き、大好き。匠君と一緒なら、きっとこれからどんなことがあっても乗り越えられる気がする。うんうん。絶対に乗り越えらる」
「それなら良かったよ。花蓮には、笑顔が1番似合うから。その笑顔が永遠に続くように、俺は花蓮を支えるよ」
「うん。ありがとう」
そう言って、花蓮は目じりに雫をためながら、とびっきりの笑顔を作った。それを見て、絶対に悲しませないと心から誓った。
「ごめんね、匠君。こんな時間まで付き合わせちゃって」
スマホを取り出して時間を見ると、時刻は11時を回っていた。
「いいよいいよ。花蓮と一緒に居る時間が増えたから、それだけで俺は幸せだったよ」
「やっぱり匠君と一緒に居ると、心が楽になるよ」
「それは良かった。俺も幸せだし、一石二鳥だな」
「そうだね」
俺たちはお互い笑い合った。
「それじゃ、俺はそろそろ帰るよ」
「うん。家まで送ってくれてありがとう。ほんとは私が匠君を駅まで送って帰るつもりだったのに」
「いいって、気にすんな」
「うん」
「それじゃ、またな」
「うん。またね」
そう言って、俺は今度こそ花蓮の家を後にした。
俺が曲がり角を曲がるまで、優しい眼差しが背中に送られ続けているように感じた。
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