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26) 何度も過去をやり直した
しおりを挟む「占い師さん、わかりました。私一人では得られなかった十分な結果です。有り難うございました」
もう父も母も他界して
兄も身罷った今
後は私が自分を癒すだけ
弁当屋の女将さんのことも
許せるようになるはず
「ところで占い師さん。あの『月光の奇妙な境』は拾った本だから、元々私のではないの。そう、小学生の時に道端で拾ったのよ。だから、元あった処に戻すわ。もしも、これから小学生の私が訪ねてきたら、本を持っているはずだけど」
それを聞いて占い師の顔が輝く。
「良かったです。では、一緒に本を燃やしてしまいましょう。燃やしても奈利子さんは未来に戻れますか」
「どうかな、それは。ふふ。戻れなかったら困るので、小学生の私と一緒に燃やしてください。それなら私の記憶に……ああ、思い出した。そうです。あなたはそこの浜辺で私と二人で本を燃やそうとしたことがありますよ。拾った本です。過去に戻る話だった。私は途中まで読んだから続きを読みたいと言って、その時は燃やさずに持ち帰った。ああ、そうだったのですね……占い師さん、あなたは間違ってはいない。私たちは何度もやり直したんだ。何度も何度も……今の私たちは何度もやり直した結果です。占い師さん、今度こそ、あなたの思う通りに燃やしてください。もう二度とやり直さなくても良いのですから」
四阿野原奈利子の目から涙が一筋の光になった。波のように四阿野原奈利子の身体が揺れて風に消えてゆく。
人の心には、神の定めがインストールされた部分があるという。それを仮に神の規定と呼ぶなら、日々の暮らしのなかでいつの間にか人間がインスタッレを閉ざしてしまうのは、この世を裏から支配する悪意のせいだ。
人間の心は常に過去に戻ろうとする。
あの時ああすれば良かった、こうすれば良かったと、心に刻まれたインスタッレに引き寄せられて。
そして、インスタッレに照らし合わせて、良きにつけ悪しきにつけ他人や自分や神をさえも裁こうとする。
何もしらない小学生の四阿野原奈利子を待って、占い師は浜辺の見える場所に立つ。空はまだ青い。遠くから、小学生の四阿野原奈利子が本を抱えてやって来るのが見えた。
人の心に
インストールされている
神の規定
歴然として悪に立ち塞がるその神の規定を明確に捉えた時、あなたはそれを踏み越えず、その意味する愛に応えることができるだろうか。
それは、いつか必ずやって来る。それは、今、かもしれない。
※※※※※※※ 藤森馨髏
過去に行けたら何をしますか?
あなたの中に、この世の情報を何もかも無闇に詰め込まないでね。
あなた自身の心のストレージが一杯になって、本当に必要なものが記録もれすることのないように。
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