悪魔の仮想空間プルガトリオ病院船(完結)

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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第六章 僕は意思に反してアーチャと男色に耽りプルガトリオソドミーのクラブで

六章一話 男色に耽る

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  パコは、そっと振り返った。ベランダの階段を降りて林に向かう影が見える。白い横顔。


  アーチャ……何故そこに……


  パコは手摺を飛び越えて花壇の石垣を蹴り、走った。入院していた頃の病に蝕まれ痩せ衰えていたパコはどこにもいない。精悍な若いエネルギーは、パコをウサギ追いの猟犬に仕立て躍動させた。先回りする。


「アーチャ、アーチャだろ」


  パコはアーチャの腕を掴んだ。


「パコ……」


  驚いたアーチャは勢い余って樹木にぶつかった。


「「どうしてここに……」」


  二人がハモる。樹木を背に、月明かりに青く照らされたアーチャの肌に柔らかな色味が加わった。


「アーチャ、やっぱり君は僕を知っていたんだね」


  アーチャを逃がさないように、パコはアーチャの両手を掴んで樹木に押し付けた。顔が近い。アーチャの唇が動く。


「パコ……燃えるような赤い髪……」 


  パコはその唇を噛んだ。


  アーチャは痛みに声をあげ抵抗したが、パコは柔らかな唇に血の味が染みてくるまで噛んだ。噛んで吸った。舌を入れる。アーチャの震えが伝わる。パコはいきなり沸き上がった挿入願望に逆らえない。


  アーチャのシャツの胸元を引き裂く。アーチャの吐息のような小さな悲鳴に更に欲情して、腰を押し付けた。アーチャの一物もパコと同じように膨らんでいるのがわかる。パコは高揚し、アーチャの声を耳元で聞きながらリズミカルに激しく動かし続けた。


  ああ、もうダメだ……とアーチャが苦し気な息で囁く。


  僕もだ、アーチャ……


  アーチャの腕がパコの首を抱く。


「パコ……僕を殺した後、苦しんだかい」


  パコの唇がアーチャの首を這う。


「アーチャ……殺すつもりはなかったんだ。ただ、見てみたかった。どんなやつなのか……それだけだったんだ」


月明かりが水に沈み、人工的な複数の光源がきらびやかに辺りを照らす。目の縁にピンクのベッドが見えた。何も考えずにパコはアーチャを押し倒すと、馬乗りのままアーチャの衣服を剥ぎ取り、ベッドの周りを回転木馬みたいに回り続けるネオンの催眠術に陥った。


アーチャは官能的な声をあげ、パコはその場で童貞を捨て何度も果てた。アーチャの首を父親のネクタイで絞めてみたり、ベルトでアーチャの背中を何度も打ち据えたりして、パコはアーチャを堪能した。恋愛感情と言うよりも支配願望。パコと言う名前によるマウンティング。パコはアーチャを性の奴隷のように扱った。


「アーチャ。僕は自分の赤毛がコンプレックスだった。何故、美しい母親に似ていないのか、何故、父親と同じ金髪じゃないのか……アーチャ、僕は自分を止められない。僕は君を殺すまで、きっと止められそうもない」


「もう既に殺したくせに……」


  ドアらしき四角いピンクに人影が映った。


「アーチャ、お客だよ。ぐずぐずするんじゃないよ」


  女性的な言い回しの野太い声がアーチャを呼ぶ。


「アーチャ、行くな」


アーチャの首に手をかけた。まだマウンティングは完全ではない。支配関係を崩された気分になる。


「行かなきゃ。ここはソドミークラブなんだ。ここを辞めたらお金が入らない。大金が必要なんだ。母さんが病気で……」


アーチャの横顔が歪む。


「病気……」


赤毛のボブの顔が思い出せない。神とまで思った産みの親の顔が。


くしゃくしゃになったプラチナブロンドの巻き毛に囲まれたアーチャの顔が、ヘナ・ノアルになって、パコの手を逃れた。


ママン……ママンにそっくりだ……僕の育ての親……ヘナ・ノアルに……メディウサに……僕はママンの顔を持つアーチャと

 
鏡の前で口紅をひくアーチャの背中に、パコは抱きつく。


ああ……僕は、僕は何故アーチャとこうなったのか、僕の意思だったのか、僕はいきなり欲望に飲み込まれた、ソドミークラブだって……ソドミー……それが僕の隠れた願望だったのか、ああ僕は何故、こんなにもアーチャを壊してしまいたいと思うのか、兄弟なのに……異母兄弟だからか、アーチャを支配したい


アーチャは赤い花柄の日紙人の民族衣装に腕を通した。振り袖に豪華な桜が咲いている。


「パコ、母さんは僕の為に車に飛び込んで慰謝料稼いだり、売春婦みたいに男を取っ替えひっかえ、終いには病気になってさ……告知されたよ、不治の病だって。お金が必要なんだ。だから僕は客を取らなきゃ」


アーチャは唇を噛んだ。パコに噛まれた唇の傷が開き、口紅をも凌ぐ赤い血が滲む。絶句するパコの耳に、アーチャにそっくりなヘナ・ノアルが叫ぶ。


『あの女はぁぁお前を寄越せと言ったのよぉぉ。稼ぎ手が必要だからとぉぉ。アーチャも渡さないとぉぉ。こっちは大金を払うと言ったのにぃぃ』


大金を払うと言ったのに、赤毛のボブはアーチャも渡さなければ僕のことも寄越せと言った、何故……


お金に困っていたはずなのに、それでもアーチャを離さないと……


死ぬのがわかって……僕を寄越せと言った……


一緒に暮らしたいと思ってくれたんだ、最後に一緒に暮らしたいと……僕と一緒に暮らしたいと……


僕とアーチャと三人で……


アーチャを捨てて僕を選んでほしかった、僕だけを……実の子の僕だけを……


母さん、僕を生んでくれた母さん、どうしてこんなに目が熱くなるのだろう


「早く手術しなければ、後三ヶ月で死ぬんだって」


アーチャの声が掠れて、嗚咽になった。


ああ、神様……僕は罪深い人間です、人を裁くなんてできない、ましてやアーチャを……


神様……助けてください……神様……ああ……僕は祈りを聞いていただくこともできないほど罪深い人間です


「パコ……」


  立ち上がったアーチャはいつの間にか黒いストレートの髪になって、パコを振り向いた。胸は長い髪に隠れているが、裸の半身が白く目を引く。桜の振り袖に見覚えがあった。


「パコ、後でいいからお金をちょうだい。僕を楽しんだ分のお金を……」


血で濡れた唇が上弦に湾曲した。









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