小説ネタ集(1話完結モノ)

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

文字の大きさ
12 / 12

老いた英雄と生け贄の少年

しおりを挟む

  英雄マルベノの子孫の傍流の子孫の傍流の子孫の傍流の末裔に、エシュアという当代随一の英雄がいたが、その話はまた別の話。

  今回は幾星霜を経て、年には勝てず隠居の末に痴ほう症になったエシュアの最後の話。

「空が呼んでいる」

  エシュア卿は甲冑を着込んで武具を持ち、いくらかの金子と夢を抱いて家を後にした。白い愛馬シメオンに股がって森を抜け山を越え川を渡り、ある日はっと目覚めたら、若い日はとうに過ぎ去って老いた身体に鞭打つのが苦痛になっていた。

  それでは家に帰ろうかと腰を上げて再びシメオンの手綱を握ると、そこに村人らしき少年が姿を現した。

「お願いです。助けてください」

「お前は何から逃げてきたのか」

「奴隷として売られるところでした」

「売られる身で逃げると家族はどうなる」

「家族はいません。毎年、ダンジョンの生け贄を捧げる習わしなので、今年は俺が選ばれて半殺しにされてダンジョンに放り込まれるのです。俺は農民です。幼い頃から畑仕事を手伝って、他には何も知りません。剣の振り方も知らないのです。ダンジョンには恐ろしいモンスターがいると言うのに」

「だが、お前を助ける方法を私は知らない。共にダンジョンに行けば良いのか」

「一緒にこの森を越えさせてください。お願いです。逃がしてください」

  そこにこの地の領主の騎兵隊がやってきた。エシュアの目の前で少年は捕縛されて藤籠の中に押し込められ連れ去られた。

  騒動の収まった森の中でひとり、エシュアは何事が起きたのかと考えた。

  ダンジョンにはモンスターが住んでいる。そのモンスターには生け贄が必要で、だからあの少年を生け贄としてダンジョンに放り込む。何故そのようなことが起きているのか。私は英雄としてモンスター退治に人生を捧げたではないか。どうしたと言うのだ。モンスターを退治する者がいないのか。だから、生け贄などと……ああ、私があの頃のように若ければ……

  エシュアは激しい頭痛に倒れた。鼓動が激しくなり息もできない。

「ここで死ぬのか。心残りはあの少年だ。何とか助けてやれなかったものか」

  シメオンはその名前の通り『聞く者』として、主の死の間際の言葉を耳にした。

 ふと、苦痛が和らいで辺りをみると暗い岩穴の中だ。いつ甲冑を脱いだのか、衣服が軽装になっている。立ち上がろうとして、誰かの腕が触れていたことに気づいた。見ると甲冑の老人が倒れている。

「こんな暗い穴の中で自分の姿を目にしようとは。そうか。私は死んだのか。いや、まだ死んではおらぬようだな。虫の息と言うところか」

  傍らに白い馬が主の死を悼むように項垂れていた。

「シメオン、お前、どうした」

  ブルルんと小首を振ってシメオンは嬉しげに鼻面を擦り付ける。

「シメオン、お前が連れてきてくれたのか。ここは何処だ。おや」

  靴が木と布を張り合わせた靴なのは驚いた。髪の毛もボサボサで背中に鞭打たれたような痛みがある。

「ううっ、この痛みはあの少年の受けた虐待の痛みなのか」

  エシュアは自分の死体から甲冑や装備を脱がせて身に付けると、シメオンに股がった。

「いざ行かん。再び生け贄を捧げることなきようモンスターを始末せねば」

  この物語はここで終わる。だって当然、若返ったエシュアが無双バリバリでモンスターを退治して、満足して死ぬストーリーだから。

  えっ、生け贄の少年はどうなったのかって。エシュアの支配的な記憶が消えても戦闘スキルは少年の脳ミソのシナプスを繋げて肉体に残ったので、少年はダンジョンを出た後、ご都合主義の作者の好みで無双英雄として人生を全うしたとさ。ご都合主義万歳。めでたしめでたし。


  
  


  
  
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

アノマロカリス

お気に入りに登録しました。
全話読んでみましたが、この話は最後には全部が繋がる…という事は無いですか?
僕は読んでいる時に、1つの星でそれぞれの国での話かと思って読んでいましたが…
ちがったら、ごめんなさい。

僕も小説書いておりますので、良かったら読んで見て下さい。

2021.10.18 藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

アノマロカリスさん、登録有り難うございます🎵

この『小説ネタ』ストーリーは、ふと思いついた粗筋を保管する倉庫です。

ちゃんと小説にすれば長くなりそうなストーリーを、簡単に纏めてみました。

ほとんどが一話完結なのですが、アノマロカリスさんのご提案通り、最終的に繋がる話しにすれば面白そうですね。

もっと良いものが書けるように精進努力します。

アノマロカリスさんの小説も、是非、拝読させていただきますね。

コメントありがとうございます🎵

解除

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。