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ヤマショウが来た
しおりを挟む高年収の客が利用する小さなスナックでしたので、見た目ヒエラルキー底辺の作業着姿で来られるのは困りました。
何も作業着が悪いのではなく、
しかも作業着ではない人も一緒でしたが、
ヤマショウたちが数名で一番広いボックス席を占有したときの、悪霊でも連れてきたかと思うようなあの空気、ドン引きでしたよ。
じっとり暗い雰囲気もシートに片足乗せる行儀悪さも、お店にとっては芳しくないものでした。一緒に来た人たちはイヤイヤ付き合っているように見えました。
その時、私はカウンターで二人の男性客を接客していたのですが、歩けば億単位のお金が動く商売人たちの話は興味深く、多少セクハラめいた会話にも乗り気の笑顔で楽しんでいました。
それが、翌日辺りから店からそういった億単位のお金を動かす上客の姿が忽然と消えたのです。
問題の男の名前はヤマショウです。
ヤマショウはカウンターに座って「鴨肉のスライス」を取り寄せて、その鴨肉のスライスは数人分の分量でしたけど、独りで平らげてみせました。
大概の客は、そのようなお取り寄せはキャストにも分けてくださるので、私たちもご相伴に預かることを当たり前のように思っていました。
しかし、ヤマショウはとてもお腹を空かせていたのかペロリと平らげて、ご相伴に預かることを当たり前だとする私たちの思い込みは壊されました。その場を苦笑いでやり過ごしものの、その時の違和感はとても印象に残りました。
鴨肉スライスのご相伴にはそんなに期待していなかったのに、頂けないと知ると『ミーハンジャー』『ミドゥリル』という状態に陥るという不可思議な精神状態を呼び起こしました。
ヤマショウはこれ見よがしに思えましたし、他に客もなかったので、私たちはヤマショウの相手をしなければならなかったのです。
ヤマショウは、背は高くないのにデップリ太っている理由はこれか、と納得する私たちの目の前でビール腹をさすっていました。
後から店のチーママが「妙な客だよね」と言ったのが印象に残っています。
そしてこうも言いました。
「あんたは気に入られているから悪くは言いたくないのだろうけれど、あの男は普通じゃない。気を付けた方がいい」
長年ヒトを見てきた「 目」だったのでしょうね。その勘は当たったいたのに、その時、そのアドバイスを苦笑いで返してしまったのが残念です。
ヤマショウがスナックに来はじめて直ぐに、店から客の姿が忽然と消え、毎晩、暇な日が二三日続きました。
私は働き始めたばかりでしたので、突然お店に収益がなくなった状態が恐ろしく、リストラされるのではないかと危惧していたのでよく覚えています。
夜の八時出勤です。出勤して誰もいない店内を見て、今夜は元の常連さんが来てくれるか、明日はどうか、電話営業する時間帯ではないけど、と悩みました。
そこに、ヤマショウがやってくるのです。客はヤマショウだけですから、取り敢えずヤマショウを大事にしました。
客が来ないのはヤマショウのせいだとも気づかずに。
処で、ペットの話ですが、他の犬は食べているのに自分だけ「待て」と言われているような状態だと、どんな賢い犬でも垂涎しますよね。
人間も、美味しそうに食べる姿をただ見ているだけで、小腹が空いてきます。垂涎とまではいかなくても、ちょっとはほしかったな、と思ったりします。食事に限らず、何度も似たようなお預けを喰らうと、垂涎に至るかもしれません。
ちょっと待ってください。私はそんなことで殺人事件を起こしたりしませんから。本当は鴨肉スライスなんてどうでも良いものなんです。食べたかったら取り寄せれば良いのですから。
問題は違和感です。
★★★
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