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第3章 タランテラの微笑み
夢のような気分
しおりを挟む白薔薇のカクトのダンスクラブも含めてZ会系列の店舗は全て、今夜辺り手入れが入ってもおかしくはない。
W会の事務所も、未成年者を相手にした金の話が表に出ればいずれ摘発されるだろう。
それを知っていながら傘下に入るほど大影も抜けてはいない。
……はずなのだが
当の大影は問題の二百万が入ったポーチを片手に持ってスキップしたい気分のまま、表に出た。
(ああ、返さなきゃあ犯罪だよなぁ……わかっているよ)
悩む姿勢ではない。
まるで大影を諌めるように雨は本降りになって(ツイているんだかいないんだか……預かりもののバイクがずぶ濡れだ。やっぱり百五十万はかえさなきゃあ……ええい、こうなりゃあ破れかぶれだ)
大影は再び六階の事務所を訪ねた。
カズシゲ坊っちゃん社長が破顔する。
「おっ、どうした。やっぱりうちで働く気になったか」
「はい」
「本当か」
「はい。乗り気です。でも、実は僕はW会のちょっと偉いのの息子なんです。あの、トップの……」
「なにぃ、やーがかぁ」
「ですから、ですから僕が組長になったら仲良くしましょうね」
「はぁあ、そんなことを言われても」
白薔薇カクトは
「ああら、いい話じゃないのぉ。そうよ、二千二十年からは何かが起きると言うじゃないの。ああ、マスク問題が起きたわね。だったら、良いことも起きなきゃ。これからは無益な争いは止めて、互いに築き上げる時代なのよ、ねぇ」
とウインクした。
顔と言葉がミスマッチな白薔薇カクトだが、言うことはなかなかの人物らしい。
大影はここぞとばかりに
「ですからさっき頂いた二百万ですけど、手打ちの証しに百五十万はお返しします」
「お、返してくれるだと。じゃあ、百万でいいや」
カズシゲは太っ腹だ。金の計算は苦手らしい。
「いやっ、でもっ」
「あのさぁ、お宅の気持ちはわかったから、うちとしてもケチ臭いことを言ってられないでしょ」
「そうよ。じゃあ、こうしたら。うちは百万でいいから、五十万はあんたの駄賃にしときなさい」
「本当ですか。本当ですね。わあい、やったぁ。夢みたいだ。有り難うございます」
飛び上がって無邪気に喜ぶ大影。カズシゲ坊っちゃん社長の横でクマモンみたいな大男も謎の動きで喜んでいるようだ。拍手をしている。
カズシゲ&カクトの二人は、いずれこいつがW会の組長になったらチョロいと踏んで、腹の底から明るく笑う。
スキップしながら表に出ると、雨は豪雨になっていた。
(何でかぁ。返したのにぃ……)
あまりの豪雨に天を睨むこともできない。
当たり前だ。お前はどこの組長の息子だ。このぺてん師が……
何処をどう走ったのか鼻水を垂らしながら自宅へ戻る。
(昨日の親父の服はカメがクリーニングに出してくれたから良いようなものの、誰が僕をクリーニングしてくれるちゅうんだよぉぉ。腹ペコでヨレヨレやしがぁ……)
弁当代五百円で買った四百五十円の整腸剤でゲットした領収書が百万円に化けたのだから、ヨシとしろ。
(今日の稼ぎは百万円……ぐふふふ。純利益は九十九万九千五百五十円……ふわはははは。百年生きる薬が二百年分買えてお釣りもくる……本当に現実だよな。夢みたいやっさぁ)
本当にそんな薬があると思っているのか。百万円を自室の古い冷蔵庫金庫に納めて、大急ぎでシャワーを浴びる。ついでに濡れたスニーカーも洗った。
一日で大金を手にした嬉しさで、目眩を感じるほどだ。
(社長の餌を買って行かなくちゃあ)
メスライオンは、すっかりペット扱いだ。
カメはタクシーの利用を勧めたが、大影はビニールのレインコートを着て大きな穴の空いたラバーソールに履き替えてバイクを出した。
しかし、雨は表通りの信号に出るまでの僅かな間に、タンクごとひっくり返したような土砂降りとなり、ヘルメットに叩きつける雨で一寸先も見えず、首元から胸にかけて入り込む雨に、レインコートからはみ出た下半身はずぶ濡れで冷える。
目の前に暈けた秋月の顔が浮かぶ。
その少年の顔が、楽譜の美少女と重なって揺れた。
(ああ、美しい夢だ……)
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