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第3章 タランテラの微笑み
双子
しおりを挟む目の前に暈っと秋月の顔が浮かぶ。
ショパンの雨垂れの前奏曲が流れている。
少年だった秋月の顔に、妖艶な美女が重なった。
(ああ……美しい夢だ……)
「気がついた」
「うん……」
「苦しいの」
「うん……」
(何て良い夢なんだろう)
大影は両腕を伸ばして彼女の身体を抱き寄せた。
(良いなあ、ずっとこうしていたいなぁ……あれ、これって夢だよね……)
彼女が若干の抵抗を示す。
(あれ……)
対外的刺激によって無理矢理物事を理解させられたかのように大影は愕然とした。
「うわああっ、なっ、何だっ」
離した両手で万歳の格好になる。
「ああ、驚いた。いきなり寝ぼけないでっ」
左目の下に皺を寄せて笑っている。
「おっ、お前、秋月か……」
「そうだよ、お久しぶりっ。ヒーロー」
「お、お久しぶり……」
い、いつの間に女になったんだ……
しかも、親しげだ。
「暫く見ないうちに老けたね」
(ああ、僕の口はなんと言うコミュニケーション不全的な言い方をするんだ。秋月が怒るじゃないか)
案の定、美少女はムッとした表情になって、大影の胸を押して離れた。
「そりゃあもう子供じゃないもの」
「せ、整形したの、胸……」
「失礼な奴。これは自前っ」
目が吊り上がる。
「そんなわけないだろう。男の胸じゃないぜ、それ……」
「私は女っ。勝連大影っ。いつまで誤解するつもり」
「げっ、嘘だろおおお」
「女だってばっ。目がおかしいんだ。ヒーロー、あんた、弟と間違えているんじゃないの」
「弟ぉ、弟がいるのか」
「あんたたち、ライバルだったじゃない」
大影は急に辺りが明るくなった気がした。
「もしかして双子とか」
「ご明察。いつ、気づいてくれるかと思っていたけど、あんたって本当に鈍感な奴」
「あぁ、そーだったんだぁ。双子かぁ。あははは」
「そう。ヒーローって鈍感だったんだぁ」
「でも、僕は何故此処に。此処は何処」
「ああ、あんたは倒れたんだってさ。ちょっと待ってて。今、オヤジを呼んでくるから」
大影は自分が病院のベッドに寝かされていることに気づいた。
(土砂降りで記憶が途切れている……)
秋月医院の院長ははるばる北海道から移住してきたナイチャーだ。
秋月が一人で戻って来た。
「ヒーロー、入院しな。あんたの婆やさんがうちのオヤジと話しているんだけど、入院した方が良いってさ」
さっきとは人が違ったようなぞんざいな口をきく。
「に、入院……」
「熱が78度もあったんだからな」
「嘘だろお」
当たり前だ。
「どこも悪い処はないぜえ」
「雨の中でバイクごとひっくり返ったんだよ。通りがかった人が119番して、救急車で運ばれたんだ」
「ああ……二日続けて腹ペコタイムに土砂降りにやられたせいだ」
「若い身空で情けない奴」
胸の前で腕を組んで毒づく秋月は、仁王立ちのせいかさっきの秋月よりも大きく見える。
秋月と入れ替わってカメが病室にやって来た。
「もう、心配させてからにカゲ坊はっ。いけましぇんねぁ。はあ、もう、カメは寿命が縮んださぁ。でも、電話で知らせてくれた方が、友達ですって言ってましたよ。カメはもう嬉しくて嬉しくて。最近になってお友達が増えて、嬉しいでしゅよ」
(あれ、僕は友達のいない孤独な奴だったのかな。別に友達いなくても平気だったけど)
闇の帝王だの学生高利貸しだのと罵られながらもこれまでやってこれたのは、この鈍感さがあったからだ。
(でも、秋月がねぇ。ふううん。友達かぁぁ。帰省してきたのかぁ。ふううん……ふううん)
毒蜘蛛に友達と言われた嬉しさの余りに重大な案件を綺麗に忘れている。
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