走れ守銭奴!!(完結)

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

文字の大きさ
20 / 27
第3章 タランテラの微笑み

やだよ、変態

しおりを挟む

それから少し眠って夢を見た。

オルゴールのローレライが流れている。

(秋月……古着屋の社長……剃刀親父とジョージ&ケーメージェーン……風営法違反とか未成年者保護法かな、金融法とか違反の坊っちゃんカズシゲと白薔薇のカクト……鈴レーザー……)

そのメンバーがその他大勢と共に大影を人生の大きな渦に巻き込んで、大影は懸命に足掻いていた。

秋月と一緒に逃げようとするも、秋月は二人いて、どっちが姉でどっちが玲二かわからない。

片手に金を掴んで空いている手は一つだけだ。二人のうち一人しか選べない。


(うわあああ。悪魔かああああ。毒蜘蛛が二人かぁあああ。どっちを選べばいいんだぁぁ)


どっちをって、手は玲二の方に延びているじゃないか。


(何で男の方なんだよおおお。秋月玲二。いつもグラドルの邪魔をしてイク時はお前だったんだけどさぁ、なんだばぁ)


出演料を払え。




夕飯を運んで来たのは玲二だった。黒の麻のジャケットがカッコいい。食事のワゴンを押している。

「具合はどう」

「ああ、大分良くなった」

「そりゃあ良かった」


雨は静かに窓の外で降り続いている。

ワゴンからベッド用テーブルの上に大影の膳を置き、秋月はパイプ椅子に腰かけてもうひとつの膳を膝に載せて手を合わせる。


「頂きます」


呆けて見ていると秋月は「どうしたんだよ」と不機嫌な顔つきになった。


(此方が聞きたい。やーやぬうやんばぁお前、何なんだ、一体……勃起させる気か……)


「いや、お前も此処で食うのかなと」


誤魔化した。


「何だ、そんなことか。人をじろじろ見やがって。あんたが独りで寂しいだろうと思っただけだからさ。病室ってなあんもないから。ヒーロー、うちの飯は冷めると不味いから、早く食えよ」

「うん、好物ばかりだ」


頬っぺたを綻ばせる大影に「良かった」と秋月玲二も素直な笑顔を見せる。


(美形だよなぁ。生のグラドルだ……エロッ。でも、もしかしてこいつっていつも独りで冷めた飯食ってるとか……まさかなぁぁ。お姉さんの名前、聞いてなかった……)

「秋月、お前のCD買ったよ、全部」

「全部ったって、二枚しか出してないよ」

秋月玲二の天才の名を博したデビューアルバムと十六才で出したセカンドアルバムを大影はこっそり大切にしている。


「二枚しかって簡単に言うなよ。凄いやしが、お前」


大影が珍しく手放しで誉めた。


「来月末頃、日本でも新しいアルバムがでるんだ。買ってくれる」


お約束の左目の下。ゾクッとする。


「勿論。ファンだもの。早速予約しとかなきゃあ」


顔から目を反らす。


「ヒーローはピアノ続けているの」

「いや、とっくに諦めたよ。このジーマミーピーナッツ豆腐、でぇじとても旨いな」

「スーパーで売っている」


秋月玲二が留学してから大影はピアノの前に座ることがなくなった。


「ピアノ勿体ない。あんなに弾けていたのに」

「イヤミか、それは」


冗談でチラリと睨んでも、秋月は真顔のまま頭を振った。


「まさかぁ、一生のライバルだと思っていたんだのに。今までカツレンヒロカゲみたいなタイプには出会ったことがないよ」


タイプと言うフレーズに反応して、こっそり咳をする。


「タイプって……どんなタイプなわけ」


何を言ってほしいのか、大影はニンジンシリシリ人参の卵炒めに付けた箸をそのままに秋月の口元を見つめた。


「んんん、ピアノを玩具みたいに乱暴に弾く奴」

「げ……それって誉めてないんでない」

「誉めてんだよ。大胆だなぁって。ピアノがよく壊れないなぁって」

「おいコラ、やっぱり誉めてないやし。けなしてんだろう」


壁ドンでもしたい気分。


「違うってば。誉めてるんだよ。とてもじゃないけど真似できないもんね」


けけけと笑う秋月の左目の下に軽く皺ができる。


(おおお……萌えエモっ)


「お前なぁぁ、ちょっとこっち来い」

「やだよ、変態」


恋人同士の痴話喧嘩みたいになって、大影と秋月は会話を楽しんでいる。


他のことは全部、夢物語みたいに。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

刺されて始まる恋もある

神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...