聖書サスペンス・領主殺害

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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第三章 純愛と天使と悪霊

(86)崖崩れ

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  モーナスの妻アデルは妊娠中だ。モーナスは最初は飛び上がって喜んだが、だんだん不安に駆られて暗い顔つきになった。

  メンデの妻は「私がモーナスと寝たのよ。だからネイトはモーナスの息子よ」と怒った。


「ははは。ネイトは俺に似ている。モーナスとは違う。誰もお前の貞操を疑ったりなどしないよ。問題は、モーナスの息子も俺に似ているってことだ。どっちがどっちか全くわからない」


  メンデは勿論、浮気はしていない。モーナスにも身に覚えのない浮気騒動だ。

  モーナスは妻アデルに「もしも、今度もガレと似たような子が生まれたら、俺はどう思えば良いんだ。それに、俺に似た子が生まれたとしても、それならガレのことをどう思えば良いんだ」と呟いた。

  呟いてから驚いて妻を抱き締めて謝ったが、一度口に出した言葉は妻の腹の奥に深く落ちてとどまった。

  アデルは妊娠中にも関わらず隠れて泣いた。モーナスが喜んでくれたのは最初だけで、ずっと悩んでいことがわかったからだ。


  アデルは、崖にむかった。


飛び降りて子どもを流そうか、どんな子どもが生まれても夫が苦しむのなら妻として産まないことを選択できるのではないか。でも、それは……


  崖から下を覗いて怖じ気震っているときに、メンデの妻が通り掛かった。


「アデル、あなたがメンデと関係したのなら、今すぐ飛び降りて。浮気女のことなんか誰も止めないわ。でも、メンデと関係してないのなら堂々と生むべきよ」


  メンデの妻は大きな声で言った。


「堂々と生むって……」

「そうよ。あら、怖いの。またメンデに似た子どもが生まれるのが」 


  そろそろとアデルに近づく。


「怖い。怖いの。メンデとは何もしていないのに……」


  アデルは崖に一歩下がった。メンデの妻は持っていた籠を置いてアデルに手を差し出す。


「アデル、私のお父さんはね、金髪なのに、私はこの通り、茶色の真っ直ぐな髪の毛よ。お母さんも金髪に近い色の巻き毛だから、私はおじいちゃん似だと言われて育ったの。おじいちゃんは茶色の髪の毛で、短かったから真っ直ぐなのかどうかわからなかったけれど」


  もう少しで手がアデルに届く。

  アデルは涙を流して頭を振った。


「私の家でもそれぞれ違っていたりするけど、でも、ネイトとガレはそっくりだわ。ネイトとガレを見たら誰だって双子かと疑うくらいよ。そんなに似るなんて兄弟でも滅多にない」

「あなたはまさかメンデと……」


  メンデの妻の顔色が変わった。


「違う。信じて。誓ってそれは無いのよ。本当に本当よ。疑うのなら今此処で私を突き落として」


 メンデの妻の手がアデルを掴まえた。


「できるわけないでしょ。アデル、あなたはお腹の子に罪を犯す気なの。神の祝福を受けて生まれてくる子どもなのに、どうして喜べないの」


  草影から双子のようなネイトとガレが飛び出して来た。


「お母さん、死なないで」

「ガレ……ごめんなさい、ガレ」


  メンデの妻は力一杯引っ張って、アデルを崖から引き離した。その途端、崖が崩れた。


「「「「あっ……」」」」


  驚いて振り向く。アデルの立っていた崖の先端が無くなっていた。


「ああ、危なかった。お母さん、もう少しで大変なことになっていたよ」

「あああ、有り難う。あなたは恩人だわ」


  泣き濡れるアデルを抱き締めて三人が慰める。


「助かって良かった。神様はいらっしゃるのよ」

「ネイトと僕は二人ともサレおじいちゃんに似ているから、お腹の赤ちゃんはマリーおばあちゃんに似ているかもしれないよ」


  生まれるのはモーナスに似た緩いウェーブの金髪の女の子だ。双子のような兄と従兄に溺愛される。

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