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第5章 婚前交渉ヤバ過ぎる
(20) 皇帝の勅
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「ラナンタータ……」
「わかっている。ラルポアは、危険なことをさせないようにアントローサ警部に言われているんだよね」
切れた受話器がラナンタータの手からラルポアに渡る。
「そうだけど、ラナンタータはどうしたいの。其の顔は……」
受話器を電話機に戻して、ラルポアは俯いたラナンタータの顔を覗き込む。
「契約って、何だと思う。イサドラが私の言うことを聞くと約束してまでやろうとしていることって……私がどう思ったか当ててみて……」
言いながらラナンタータは考え込んでいる。
「旅に出る気だ」
思ったことを言ってみた。
「ね、それしかないよね、やっぱり、ね」
ラナンタータが我が意を得たりとばかりに笑う。片方の頬が痙攣っている。
「駄目だよ、ラナンタータ」
ラルポアはラナンタータを抱き締めようとして腕を回したが、ラナンタータはするりと抜けた。
「私はまだ何も言っていない。ラルポアはこの頃私に駄目駄目って言うようになった。どうして直ぐに駄目って決めつけるの」
「君が心配だから」
ラルポアが掴まえた腕をラナンタータは振り払う。
「私はもう子供じゃない。ちゃんと結婚できる年齢だよ。一人前の大人として見て。心配より協力してよ。ラルポアと一緒なら私は大丈夫だから」
真剣な目で訴える。
「駄目だ。協力出来ない。君は世間知らずのお嬢様だ」
ラルポアも真剣な顔で言った。
「で、お前らはいつ結婚するんだって……」
ラナンタータとラルポアは驚いてドアを振り返った。カナンデラが入り口に凭れて、人差し指で中折れ帽の縁を上げる。
「「げ……」」
「げ、はないだろう。げ、は。お前らは俺様がいない時はラブラブだな、いつも。んで、ラナンタータはラルポアと駆け落ちしたくて、ラルポアは道ならぬ恋には協力しかねると」
「「ち、違ああう……」」
「違うって……何も二人でハモらなくても……」
カナンデラは指定席の一人用ソファーを陣取った。
「アントローサ伯父さんに呼び出し食らってな。おいら、シャンタンとの熱いデートを中断してさあ、ラルポアのことをいろいろ聞かれたぜ。誰か他に付き合っている女がいないかってさ」
「え……何故……」
ラナンタータとラルポアが顔を見合わせる。
「アントローサ皇帝は、おいらに、ラルポアの女関係をぶっ潰せと宣っておりましたが……」
「ぶっ……潰……せって……何故……」
ラルポアの脳裏に薄ら笑いを浮かべるジュエリア・ロイチャスの顔が浮かぶ。
「ヤバい……」
バレたか
マフィアの娘に
手を出した過去が……
夕べ
其のジュエリアとキスして
シャンタン会長に目撃された
ヤバい
アントローサ家の
ショーファーとして
身綺麗でいなければ
ならないのに……
「ヤバいって、何かあるんだな、美形男子」
「いや、終わったことを今更ほじくり返されたくないなと……」
「ふうん……シャンタンの話とだいぶ違うな、殿下」
「お、お茶を淹れるよ。珈琲かな」
ラルポアはカナンデラのカップを出した。
「実は、気になることがあるんだ。聞いてくれるか」
「うん、話して」
「2年前、マフィア18人を焼き殺したジョスリン事件を覚えているか」
ラルポアの顔色が変わった。
ヤバい……
ショーファーとして
身綺麗でいなければ
ならない立場なのに
女ボスジョスリンとも……
ううっ、ヤバい
マフィアの娘どころの話じゃない……
ジョスリンは殺人で服役中だ
死刑囚だ
「5年前、グァルヴファイレスはジョスリンを拉致したが、それを俺が阻止して、その場にいた18人全員逮捕した」
「覚えているよ。私が誘拐されそうになった時、ジョスリンが助けてくれた。素敵な人だった。ね、ラルポア」
うん、と頷く。
何で僕に振るんだ……
女関係で首を絞められるなんて
ああ、甘い記憶がずだぼろだ
「其の直後、ジョスリンのビルが爆破された。現場でジョスリンの妹が泣き喚いていた。ゼノリアと言う、今はジョスリン組の女ボスだ。此処に来る前に見かけたんだが、結婚したんだな。小さな子供を連れていた。多分、2歳くらいだろう」
「2年前だよね、ジョスリン事件。其の子の出産直前だったのか、直後だったのか、どっちにしても妹の大事な時期に恐ろしい事件を起こしたことになる。信じられない」
其の頃
僕たちは既に別れていたけど
ジョスリンは義理堅く
ラナンタータの警護を続けてくれた
僕とも笑顔で接して
勘の鋭いラナンタータに
気づかれることがなかったのも
ジョスリンが余りにも
普通だったからだ
しかし……
府に落ちん
おかしい
何か引っ掛かる
何だ……
「新聞はジョスリンビル爆破の復讐だと書き立てたよな。爆破事件の犯人がわからないから拷問して焼き殺したと。おかしいだろう。18人が揃いも揃って誰を庇う。其れがずっと引っ掛かってててな、時々胸が痛む。焼き殺す前に何故相談してくれなかったのかと」
「あの……焼き殺した正確な日時が知りたい」
「ん……ラルポア、アリバイか。お前まさかジョスリンとも……俺はお前の女関係を潰せとアントローサ皇帝に言われているんだ。吐け」
「え、ジョスリンまで毒牙に。ラルポア信じられない。ジョスリンを私から奪うなんてっ」
そんな
毒牙にかけられたのは
僕の方なのに
運命は僕に何か
恨みでもあるのか
「私、イサドラと会ってやるっ」
「わかっている。ラルポアは、危険なことをさせないようにアントローサ警部に言われているんだよね」
切れた受話器がラナンタータの手からラルポアに渡る。
「そうだけど、ラナンタータはどうしたいの。其の顔は……」
受話器を電話機に戻して、ラルポアは俯いたラナンタータの顔を覗き込む。
「契約って、何だと思う。イサドラが私の言うことを聞くと約束してまでやろうとしていることって……私がどう思ったか当ててみて……」
言いながらラナンタータは考え込んでいる。
「旅に出る気だ」
思ったことを言ってみた。
「ね、それしかないよね、やっぱり、ね」
ラナンタータが我が意を得たりとばかりに笑う。片方の頬が痙攣っている。
「駄目だよ、ラナンタータ」
ラルポアはラナンタータを抱き締めようとして腕を回したが、ラナンタータはするりと抜けた。
「私はまだ何も言っていない。ラルポアはこの頃私に駄目駄目って言うようになった。どうして直ぐに駄目って決めつけるの」
「君が心配だから」
ラルポアが掴まえた腕をラナンタータは振り払う。
「私はもう子供じゃない。ちゃんと結婚できる年齢だよ。一人前の大人として見て。心配より協力してよ。ラルポアと一緒なら私は大丈夫だから」
真剣な目で訴える。
「駄目だ。協力出来ない。君は世間知らずのお嬢様だ」
ラルポアも真剣な顔で言った。
「で、お前らはいつ結婚するんだって……」
ラナンタータとラルポアは驚いてドアを振り返った。カナンデラが入り口に凭れて、人差し指で中折れ帽の縁を上げる。
「「げ……」」
「げ、はないだろう。げ、は。お前らは俺様がいない時はラブラブだな、いつも。んで、ラナンタータはラルポアと駆け落ちしたくて、ラルポアは道ならぬ恋には協力しかねると」
「「ち、違ああう……」」
「違うって……何も二人でハモらなくても……」
カナンデラは指定席の一人用ソファーを陣取った。
「アントローサ伯父さんに呼び出し食らってな。おいら、シャンタンとの熱いデートを中断してさあ、ラルポアのことをいろいろ聞かれたぜ。誰か他に付き合っている女がいないかってさ」
「え……何故……」
ラナンタータとラルポアが顔を見合わせる。
「アントローサ皇帝は、おいらに、ラルポアの女関係をぶっ潰せと宣っておりましたが……」
「ぶっ……潰……せって……何故……」
ラルポアの脳裏に薄ら笑いを浮かべるジュエリア・ロイチャスの顔が浮かぶ。
「ヤバい……」
バレたか
マフィアの娘に
手を出した過去が……
夕べ
其のジュエリアとキスして
シャンタン会長に目撃された
ヤバい
アントローサ家の
ショーファーとして
身綺麗でいなければ
ならないのに……
「ヤバいって、何かあるんだな、美形男子」
「いや、終わったことを今更ほじくり返されたくないなと……」
「ふうん……シャンタンの話とだいぶ違うな、殿下」
「お、お茶を淹れるよ。珈琲かな」
ラルポアはカナンデラのカップを出した。
「実は、気になることがあるんだ。聞いてくれるか」
「うん、話して」
「2年前、マフィア18人を焼き殺したジョスリン事件を覚えているか」
ラルポアの顔色が変わった。
ヤバい……
ショーファーとして
身綺麗でいなければ
ならない立場なのに
女ボスジョスリンとも……
ううっ、ヤバい
マフィアの娘どころの話じゃない……
ジョスリンは殺人で服役中だ
死刑囚だ
「5年前、グァルヴファイレスはジョスリンを拉致したが、それを俺が阻止して、その場にいた18人全員逮捕した」
「覚えているよ。私が誘拐されそうになった時、ジョスリンが助けてくれた。素敵な人だった。ね、ラルポア」
うん、と頷く。
何で僕に振るんだ……
女関係で首を絞められるなんて
ああ、甘い記憶がずだぼろだ
「其の直後、ジョスリンのビルが爆破された。現場でジョスリンの妹が泣き喚いていた。ゼノリアと言う、今はジョスリン組の女ボスだ。此処に来る前に見かけたんだが、結婚したんだな。小さな子供を連れていた。多分、2歳くらいだろう」
「2年前だよね、ジョスリン事件。其の子の出産直前だったのか、直後だったのか、どっちにしても妹の大事な時期に恐ろしい事件を起こしたことになる。信じられない」
其の頃
僕たちは既に別れていたけど
ジョスリンは義理堅く
ラナンタータの警護を続けてくれた
僕とも笑顔で接して
勘の鋭いラナンタータに
気づかれることがなかったのも
ジョスリンが余りにも
普通だったからだ
しかし……
府に落ちん
おかしい
何か引っ掛かる
何だ……
「新聞はジョスリンビル爆破の復讐だと書き立てたよな。爆破事件の犯人がわからないから拷問して焼き殺したと。おかしいだろう。18人が揃いも揃って誰を庇う。其れがずっと引っ掛かってててな、時々胸が痛む。焼き殺す前に何故相談してくれなかったのかと」
「あの……焼き殺した正確な日時が知りたい」
「ん……ラルポア、アリバイか。お前まさかジョスリンとも……俺はお前の女関係を潰せとアントローサ皇帝に言われているんだ。吐け」
「え、ジョスリンまで毒牙に。ラルポア信じられない。ジョスリンを私から奪うなんてっ」
そんな
毒牙にかけられたのは
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