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29 筋力
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陛下はやめたのか。
(うん、音読頑張ってね)
(聞かれちゃった)
(少しだけ。夜、楽しみにしているよ)
(ふふ、チョコも。電話するね)
(待ってる)
互いにバイバイのスタンプを送った。
もう家だ。門扉を開ける。車もほとんどないような道のりだった。七台くらいしか見ていない。
この用心が生き延びる知恵だ。
僕は不要不急ではない用事で出掛けてしまったけど、一年ぶりに歩く街に疲れたのか、歩く筋力が衰えているのか、足が疲れた。これは由々しき問題だ。チョコちゃんじゃないけれど、自分の足がこんなに弱っているなんて思わなかった。
一年間の運動不足を思い知ったからには、どうにかしなきゃあ登校してからが大変だ。身体を鍛えよう。お父さんの部屋にある運動器具を使わせてもらおう。手っ取り早く筋力をつけよう。
僕はやる気になった。
「ただいま」
久しぶりに使う言葉。
お母さんが「お帰り」と言って飛んで来た。アルコール消毒液のスプレーをシュッシュッと掛ける。
「お母さん、神経質すぎない」
「このくらい用心しないとみんな倒れるかもしれないじゃない」
「手を洗うよ」
「お母さんはドアノブ消毒するけど、あちこち触らないで」
「うん、わかった」
僕が一年ぶりに外出できるようになったと言うのに、お母さんは喜ぶ処かコマルナ対策に余念がない。これも生き延びる秘訣か。
僕の部屋もアルコール除菌してくれてるし、家の中は安心だ。取り敢えず着ていた衣服を脱ぐ。着衣にも菌は付くかもしれないと家族の会話で話し合ったことがあった。飛沫は付くだろうけれど、飛沫は浴びなかったはずだ。
もしも無風なら飛沫は三時間滞空するという番組もあった。うん、そんなに強い風ではなかったけれど、完全な無風でもないし、三時間滞在は室内での話だから、僕には菌はないはずだ。
まあ、取り敢えずそういうことにしておこう。
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