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30 溺愛メール

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洗面所のドアは開けっぱなしにしておくことになっている。忘れて時々閉めてしまうけど、気をつけよう。

「チョコちゃんはどうだった」

お母さんは何の気なしを装って聞く。

「多分、元気だよ」

「あれ、会ってないの」

意外という顔つきをしている。

「うん、ドアノブに掛けてラインした」

「何だ。お母さん心配してたんだからね。折角、波流が出かけるって言うのにコマルナが心配で喜べなくて」

その割には笑顔か。

「大丈夫だよ。僕も自分大事だから」

洗った手でおやつを食べる。特製のホットプレートのワッフルにブルーベリージャム。僕は蜂蜜も好きだ。

「お土産を買ってくれば良かったね」

「何を言っているのよ。不要不急じゃない」

「それ、もう聞きあきたよ。早く自由に……」

「何、自由に……ははん。チョコちゃんと会いたいんだ」

「うん。何でかな」

「何でかなって、波流、あんたたちおかしな付き合いしてるじゃない。お化粧男子でレズビアンごっこって。お母さん頭真っ白になって、わかったら爆笑だったけど」

はははと笑う。僕もつられて笑った。チョコちゃんのことで離婚が防げて凄いパワーだ。家庭が明るくなった。

「今はね、溺愛ごっこだって。僕はチョコちゃんを溺愛している王子様らしい」

お母さんが笑い転げる。

「あんたが溺愛王子ぃ。ははは、どこを見て」

「優しくすると直ぐに溺愛されてるって」

「へえ……どんなメール。お母さんに見せて」

「嫌だよ。恥ずかしいよ」

「エッチなメール」

「違うよ」

僕はチョコちゃんとのメールを最初から見せた。

「ええっ、波流、あんた……ああ、何だ。何っ、これ……ああ、良かった。あれっ、どういうこと……ああ、そっか……」

いちいち反応しながら最後にお母さんが言った言葉は「ホストか」だった。

「波流、これは『ごっこ遊び』だよね。チョコちゃんが本気になったらどうするの」

「は、考えていない。僕がリードされているし」
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