中学生溺愛王子はお化粧男子 777文字小説

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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47 ハグ

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わざわざハグするためにチョコちゃんのアパートに行った。

濃厚接触だ。 

国が不急不要の外出の自粛を呼び掛けているのに、僕は出かけた。 

まだ九時半……

十時までは帰れる。

走れ、メロス……

何なんだ、この行動力は。

今までこんなに心がはしったことはない。

誰もいないゴーストタウンのような夜の町、数台の車を見ただけだ。人影は全くなくて、風がある。


チョコちゃんはパジャマだった。長袖だったけど夏物みたいなサッカー生地で赤いストライプ。マスクをして出てきた。

女の子のパジャマ姿を生で見るのって……

僕はものも言わず直ぐにハグした。

玄関口でチョコちゃんの肩を抱き寄せて、背中に回した腕に力をぎゅっと込める。

「ん……」

チョコちゃんはいきなりのことで言葉が出ない。ん……って言うだけでもチョコちゃんの声は甘い。チョコレートだ。脳が多幸感に痺れる。

背中でドアが閉まった。

「女の子は狡いな」

僕は何を言っているのだろう。

「何で」

「可愛いから」

「波流君も狡いよ」

「どうして」

「いきなり……マンガみたい。チョコはドキドキが止まらないよ」

「チョコちゃんドキドキして。僕もドキドキが止まらない。ずっとこうしていたい」

「ずっとはできないよ。波流君、チョコと一緒に暮らす」

「うん、いつか一緒に暮らす。二人で」

「ハリウッドに追いかけて来る」

「僕が連れていくよ」

「本当に……」

視線が絡む。
二人ともマスクしているけれど、あり得ない近さだ。

僕は子供で、背伸びしている。どんなに背伸びしても空は遠く理想には手が届かないと落胆していた僕が、背伸びして、チョコちゃんと会うために夜の町を走った。

まるでロミオとジュリエットみたいに敵対家に生まれた訳ではないけれど、親に隠れて言えないようなことをしている。

好きな子ができたら親に話すとか、チョコちゃんとはただのメイク友達だとか、そんなことが嘘になる。

「好き」
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