中学生溺愛王子はお化粧男子 777文字小説

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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73 波流君も

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チョコちゃんの表情は読めない。

「野球部に好きな人がいたんじゃない」

きょとんとしている。考えるような目付きになった。
やられた……カリナのやつ、心理作戦に出たか……僕を嵌めようとしたな……

「何でもないなら良いんだ。ちょっと嫉妬した」

「きゃああ、もうダメだ。我慢していたのに奮える。鼻血が出る。チョコは初めて手を繋いで初めて一緒に歩いて嫉妬までされて……」

「勘違いだった」

「勘違い。全然、勘違い。だってチョコは野球部じゃないもん。ちょっと覗いただけで。波流君、最初は野球部だったでしょ。その時」

「え、何、じゃあ、僕が野球部にいた頃のこと」

「うん、みんなが騒ぐから、へへ、波流君見ていた」

僕だけをみていたのではないだろうけれど、あの中にチョコちゃんもいたのか。袖擦れ合うも多少の縁とかいう諺が何でもっと早く実現しなかったんだろう。僕は全く気づかなかった。

「覚えがない。騒がれた覚えが全くない。惜しい……」

「お、惜しくないよ。惜しくない」

チョコちゃんは笑わせる。握った手に力を込めてきた。
アパートの入口から中に入る。六時半くらいだから外は明るいが、中はまだ電気をつける時間でもないから薄暗い。

誰もいない廊下で、チャンスかな……

ドアが開いた。
チョコちゃんママだ。

「こんにちは」

「あら、波流君。送ってくれたの」

チョコちゃんママは室内からの逆光で表情が読めない。

「これ、波流君のお母さんから貰った。ダイバンハンバーグ」

ダイバン大きい、あはは、助かる。上がって、波流君」

「お邪魔します」

僕は狡いけど素直だから直ぐに応じた。洗ったばかりの白いスリッポンだったから安心して玄関に入った。

「上がって上がって」

チョコちゃんとはいつの間にか手を離していたけれど、チョコちゃんママは笑って指摘した。

「手を繋いでいたでしよ。台所で洗って」

キッチンの水道を指す。

「波流君も」




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