中学生溺愛王子はお化粧男子 777文字小説

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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72 僕は狡い

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信号は直ぐに青になった。渡りながら後悔する。やっぱり今話すことではないよな。もっとゆっくり時間を取らなきゃ……

チョコちゃんの手をぎゅつと握る。

向こうからカリナが歩いてきた。カリナは明るく手を振って、チョコちゃんの繋いだ指は離れようとして抵抗する。

「波流君、音理、見なかったことにする」

カリナはにっこり笑ってすれ違った。

「有り難う……」

チョコちゃんの声は小さい。

「有り難う」

僕は振り向いてはっきり言った。

暫く無言で歩き、何も言わなくてもチョコちゃんといるだけで時間は違うものに感じると意識したら、顔を見ていた。

可愛い。造りならカリナが可愛い造りをしているけれど、チョコちゃんのこの角度からの瞼や睫毛、後はマスクで隠れている小さいきゅっとした鼻と健康的な頬、ピンクの唇。痘痕も笑窪という失礼な魔法の諺は恋に陥った心理だ。全部可愛い。

恋……

僕はチョコちゃんに恋している。

初恋だ。

だからキュンキュンするんだ。

僕は十五才になった。決して早くはない。

「チョコちゃん、僕は」

頬が弛む。

「ダイバンハンバーグよりチョコレートが好きだよ」

「ふふ、私もチョコレート好きだ」

「違うよ、チョコちゃんのことだよ」

初恋って言いにくい。

「メロメロだ。でも、もうアパート」

「どっか行こうか」

「ハンバーグ貰ったから、これを家に置いてからじゃないと。でも、今日はいろいろ聞かれると思うから、帰ったら家を出られないよ」

「僕はもっと溺愛したい」

「へへ、充分溺愛されたよ」

繋いだ手を振る。

「勉強も、自信がついてきた。後はサンスー」

「もしかして算数から苦手とか」

「うん、もう、五六年生の時には全く」

「じゃあ、わかるところからやろうか。四年生の教科書を持って来て」

「捨てた。お母さんは家にごちゃごちゃ置くのは嫌いだから。狭いし」

「僕が持ってる」

アパートの入口だ。

「チョコちゃん、野球部の……」

僕は狡い。


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