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120 エピローグ
しおりを挟む半年前に売り出された新製品の在庫が切れがちで、Twitterで謝りまくっていたが、出荷の目処が立ってほっと胸を撫で下ろしている。
『強制的に顔筋弛みを引き上げる化粧水』
使っているうちにお肌が二十歳前のピーク時に戻るというものだ。二十歳を過ぎて失われがちな成分が筋肉まで浸透するので、若返り化粧品としてテレビでも取り上げられて生産が間に合わなくなった。
「ふふふ、こうなるとは思わなかったね」
チョコちゃんはテレビやWebで活躍するメイクアップアーティストだ。十代にしか見えないのも人気の理由だ。
「チョコのおかげ。あの日、僕に声をかけてくれた」
ブロック塀の蒲鉾模様の穴から女の子の声がした。
「波流君……こんにちわ」
「だ、誰。そんな処から覗いてないでちゃんと顔を見せて」
制服姿の女子中学生が庭に入って来た。草むしりしていた僕の斜め横に並ぶようにウンチ座りする。表情が暗い。
「名前を教えて」
「名前、何がいい」
僕はムッとした。
「教えてくれなければコマルナって呼ぶぞ」
「嫌だ。コマルナは嫌」
「じゃあ、何が嫌いなの」
「ダイヤモンド」
「嘘をつけ」
「チョ、チョコレート」
「じゃあ、チョコちゃんだ」
「良かった。音里って名前が嫌いだったんだ。オクラって言われるから」
宮古島のお婆ちゃんたちはオクラのことをネリと言ってた。
「音里ちゃんか、可愛い名前じゃないか」
「嫌だ。チョコの方が可愛い。音里よりもチョコが可愛いって言って。可愛いって言って……」
見せられたスマホのメイク画像に釘付けで、僕が二股してると誤解したお父さんが強張った顔で聞いていたことに気づかなかった。
「波流君にもメイクしたい」
「僕も興味あるよ」
それがチョコちゃんとの馴れ初めだ。メイク後の鏡を見て、鬱屈していた気分が吹き払われるのを感じた。人生が変わった。良い出会いだったと感謝している。
「チョコ……れずびあんしよう」
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