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第七章 二日めの早朝 裏切りや嘘
(1)裏切りの紋章
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崖から飛び降りたサディが運ばれたのは、医療院の奥の特別治療室だった。神事部の宮司が困り果てた顔で言う。
「此のような真似をする者なら、最早、神楽舞には使えぬ。教皇様の安全を第一に、この者はお払い箱になりましょう。一般の市民に戻るだけです」
「拷問するわけではない。庇わずとも良い。この者に自殺の理由を聞きたいのだ」
将軍服を着込んだガーネットが部下を連れて顔だけでも見てやろうとやって来たのは、自殺未遂の女が巫女だと聞いたからだ。
妙な勘が働く。前日の魔法術研究員に関わりがあるのではないか……
「其でしたら此方は構いませぬ。まだ薬で寝ておりますが、此の者は神事部から排斥にしますので、どうぞ、お連れください」
「排斥者を引き取れと申されるか」
司はにっと笑って寝台の近くにガーネットを
招く。
燃えるような赤毛。まだ十六、七のうら若い乙女のぼおっと輝く頬に視線が留まる。宮司はシーツを開き、下半身の衣服を指先で引っ張った。布で巻かれた白い太ももが現れる。宮司は布端をほどいて太ももを指差す。
「ご確認くだされ。此れがあなた様にお見せしたかったものです」
ガーネットが手袋を脱ぎ、白い太ももに手を掛ける。焼き印だろうという予感はあった。
「こっ此は……」
「どうご覧になりますか。私にはリンジャンゲルハルトの焼き印を消したものかと……」
太ももの内側に、既に薬を塗布されてはいるがやけ火箸だろう痛々しい火傷がくっきりと赤い。
「何故、焼き印の付いた者を取り調べもせずに……」
「神事部の仕事ではありませぬ。ですから、あなた様にお知らせしたのです。リンジャンゲルハルトを裏切っての自殺ならば、昨日の巫女の逮捕と関係があるやも知れませぬ。此方ではこの者を排斥致しますので、後はこの者がどうなろうが……」
魔法術研究員との駆け引きは、命のやり取りになった。
宮司が知るはずもないことだが、ガーネットは先ほどまで屍と横たわっていた。
「此方で引き取ろう。其れから、巫女を全員、調べ直してほしい。夕べも神楽舞が行われたであろう。朝まで灯りがついておった」
教皇寝所に……と口にするのは憚られた。
「此れから戻ると思いますれば、直ぐにでも」
宮司は頭を下げてから、はっと気づいた。
「此れは此れは、ガーネット殿。真新しい将軍服ではありませぬか。では、此れから教皇執務室へ詣られるのですね。私も授与式を楽しみにしておりましたのに、此のようなことで煩わせてしまい大変申し訳御座りませぬ」
「みなまで言わずともよい。よく知らせてくれた。巫女の検査を頼んだぞ」
ガーネットは部下に見張らせて医療院を出た。
執務室への挨拶と昼前に執り行われる授与式を済ませば、後は飲み会のようなものだ。非番の兵士が浮かれてスメタナ教国の恥を晒さなければ良しと思う一日。『拷問死』として届けなければならない屍のこともある。偶さか舞い込んだ間者崩れらしき乙女の、自殺未遂の処遇は後回しになった。
***
耳元で王女の呻く声がする度に、ラーポは王女を抱きしめて
「大丈夫、大丈夫、私がついている。ケイツァー絶対に死なせない。大丈夫だよ」
と言い続けた。
ことんと寝落ちして、目覚めると、小さな寝台に大の字を書いて寝ていたらしい。ラーポは跳ね起きたが、誰もいなかった。
あれ……確かに夕べ、ケイッツアーをハグして寝たよ。何処に行ったの。きゃあ、朝だぁ。まず、顔を洗ったら長老の家に行ってみなきゃ。
「此のような真似をする者なら、最早、神楽舞には使えぬ。教皇様の安全を第一に、この者はお払い箱になりましょう。一般の市民に戻るだけです」
「拷問するわけではない。庇わずとも良い。この者に自殺の理由を聞きたいのだ」
将軍服を着込んだガーネットが部下を連れて顔だけでも見てやろうとやって来たのは、自殺未遂の女が巫女だと聞いたからだ。
妙な勘が働く。前日の魔法術研究員に関わりがあるのではないか……
「其でしたら此方は構いませぬ。まだ薬で寝ておりますが、此の者は神事部から排斥にしますので、どうぞ、お連れください」
「排斥者を引き取れと申されるか」
司はにっと笑って寝台の近くにガーネットを
招く。
燃えるような赤毛。まだ十六、七のうら若い乙女のぼおっと輝く頬に視線が留まる。宮司はシーツを開き、下半身の衣服を指先で引っ張った。布で巻かれた白い太ももが現れる。宮司は布端をほどいて太ももを指差す。
「ご確認くだされ。此れがあなた様にお見せしたかったものです」
ガーネットが手袋を脱ぎ、白い太ももに手を掛ける。焼き印だろうという予感はあった。
「こっ此は……」
「どうご覧になりますか。私にはリンジャンゲルハルトの焼き印を消したものかと……」
太ももの内側に、既に薬を塗布されてはいるがやけ火箸だろう痛々しい火傷がくっきりと赤い。
「何故、焼き印の付いた者を取り調べもせずに……」
「神事部の仕事ではありませぬ。ですから、あなた様にお知らせしたのです。リンジャンゲルハルトを裏切っての自殺ならば、昨日の巫女の逮捕と関係があるやも知れませぬ。此方ではこの者を排斥致しますので、後はこの者がどうなろうが……」
魔法術研究員との駆け引きは、命のやり取りになった。
宮司が知るはずもないことだが、ガーネットは先ほどまで屍と横たわっていた。
「此方で引き取ろう。其れから、巫女を全員、調べ直してほしい。夕べも神楽舞が行われたであろう。朝まで灯りがついておった」
教皇寝所に……と口にするのは憚られた。
「此れから戻ると思いますれば、直ぐにでも」
宮司は頭を下げてから、はっと気づいた。
「此れは此れは、ガーネット殿。真新しい将軍服ではありませぬか。では、此れから教皇執務室へ詣られるのですね。私も授与式を楽しみにしておりましたのに、此のようなことで煩わせてしまい大変申し訳御座りませぬ」
「みなまで言わずともよい。よく知らせてくれた。巫女の検査を頼んだぞ」
ガーネットは部下に見張らせて医療院を出た。
執務室への挨拶と昼前に執り行われる授与式を済ませば、後は飲み会のようなものだ。非番の兵士が浮かれてスメタナ教国の恥を晒さなければ良しと思う一日。『拷問死』として届けなければならない屍のこともある。偶さか舞い込んだ間者崩れらしき乙女の、自殺未遂の処遇は後回しになった。
***
耳元で王女の呻く声がする度に、ラーポは王女を抱きしめて
「大丈夫、大丈夫、私がついている。ケイツァー絶対に死なせない。大丈夫だよ」
と言い続けた。
ことんと寝落ちして、目覚めると、小さな寝台に大の字を書いて寝ていたらしい。ラーポは跳ね起きたが、誰もいなかった。
あれ……確かに夕べ、ケイッツアーをハグして寝たよ。何処に行ったの。きゃあ、朝だぁ。まず、顔を洗ったら長老の家に行ってみなきゃ。
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