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第七章 二日めの早朝 裏切りや嘘
(2)ルモンダレナの夢と嘘
しおりを挟むリンジョネルラが宮殿に戻ったとの知らせに、小さな女帝は小躍りした。
「嫁入り前の若い娘が昼帰りとは……まあ、良い。無事であれば構わぬ」
女帝が宮殿内を移動するのに使う御輿から転がるように降りた時、ガリラヤとシノビはリンジョネルラの寝室前で傅いたまま、女帝を待っていた。
二人は王女の身体に腕を回して飛ぶように急いで宮殿に戻ったが、其れでもソゴドモ村から小一時間はかかっている。
女帝は黒ずんだリンジョネルラの寝顔を見て驚き、人払いをした。灰色侍従の代理侍従さえもリンジョネルラの寝室に入ることは許されなかった。
「王女様はゲヘナの谷で、お亡くなりになった斎姫様を蘇らせようとなさいましてございます」
シノビが報告する。
「なんと……あぁ……我が娘は何と心優しい……」
女帝はリンジョネルラに頬擦りをした。
「しかして暗雲垂れ込め雷雨となりてございます」
「では、夕べの雷雨は……」
シノビは殊更声を低めて言った。
「此方でも降りましたか。左様にございます、ノアル様。王女様はドラゴルーンの鱗の欠片をお持ちでしたが、損傷激しく、さすれば王女様のお力でございます」
「我が娘は其のようなことが出来るのか。雷雲呼び寄せるとは。して、其の欠片は何処に……」
「王女様の胸元辺りかと……」
女帝は王女の衣服の胸に手を入れて、鱗を取り出した。其れは今にもパリパリと音をたてて崩れそうなほどに傷んでいる。
「こんなもので……」
「王女様がお倒れになりましたので、近くの廃屋でお休みになりましてございます」
「何故直ぐにでも知らせない」
「誠に……私どもも、倒れてしまいました……」
「何故に……」
「ゲヘナの呪いかと……」
「ゲヘナの呪い……とな……はて」
「此のような損傷激しい鱗の欠片では、ゲヘナに行くべきではありませぬ」
「では、我が娘が間違いを犯したと言うのか」
「いえ。ノアル様。王女様は、あのような辺鄙な場所まで歩かれてお疲れでした。王女様は疲労困憊のままに祈祷を行われたのでございます。王女様は果敢にもゲヘナを守る雷神と戦いましてございます。其れで雷に打たれ其の後、お吐きになりまして、お倒れに……」
「おお……愛しの我が娘よ……何という無謀なことを……雷に打たれたとな……雷神め。おお、リンジョネルラよ、其れでも生きていてくれた……此れは我がリンジャンゲルハルトがドラゴルーン擁護の国だからだ。ドラゴルーンが我が娘を……」
其の後は言葉にならなかった。雷神とはドラゴルーンの別名だというのに、女帝は無理矢理対立するものに分けた。
「しかして其の方ら、雷に打たれたのは王女だけではないか。何故にゲヘナの呪いなどと」
「雷に打たれた王女様は、毒の気をお吐きになられましてございます。私どもは其れで倒れたのでございます」
「きゃははは……何と。王女の吐いた毒で倒れたとな。其の方らのような使い手が。きゃははは、あぁ、笑わせるでない。しかし其の方ら、倒れたままでは助かるまい」
「仰せの通りにございます。誠に不思議なことではありますが、異世界の者が現れまして、ラーポと申す若いおなごでしたが、一晩、王女様を抱きしめておられました」
「何っ。我が娘を抱きしめたとな」
「其れで王女様の毒気が次第に抜き取られて」
「ほう、奇異なる者。ラーポか。その者はどこじゃ。何故連れて参らぬ」
「ラーポはこの世の者ではございませぬ。我らには……」
「ほう、それなら仕方あるまい。覚えておこう。一晩中見ておったのなら其の方らも寝てはおらぬのだろう。ならば休むが良い。苦労をかけた」
「はっ、ノアルのお心、痛み入りまする」
シノビはゴキホイについては隠し通した。
庭園に出て、迷路造りの花園を抜けて広場に立つ。誰にも聞かれる心配のない処とは、案外、開かれた場所だったりする。口を開かずに訊いてみた。
「ゴキホイ」
「殺されるぞ」
ガリラヤは黙した。女帝とのやり取りについて、リンジョネルラに話しておく必要が出た。それはガリラヤにとって頭痛の種。
王女様に嘘をつくようにと言うのか。
口裏を合わせるようにと……
***
どうしたガリラヤ。其の様な些細なことで動揺するのか。此のサライラン様が助けようぞ、ガリラヤ。お前は私の手持ちの駒になるのだ。
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