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第七章 二日めの早朝 裏切りや嘘
(5)婢呼眼ハードスケジュール&じゃあ私は不倫相手なの……
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小さな子供を抱いた母親と大きな子供を抱いた母親、二人の腰に手を回して婢呼眼はダンジョンを通過しサザンダーレア王国の上空に浮かんだ。風がある。
子供たちはガタブル震えながらも母親の首にしっかりしがみついていたが、母親は二人とも青ざめている。速度をあげる。
「気を失うな。子供を落とすな」
「はいっ、軍師長様」
頬に強烈な風が当たる。町の見知った治療院に直行し、玄関前に静かに降り立った。
「軍師長様、あ、ありがとうございます。子供たちの命を助けて頂いて……」
一人は気を失いかけていたが、もう一人は震えながら傅いた。
「医術者には此れを。私はまだ怪我人を連れて参る故に、纏めて支払うように」
婢呼眼は皮袋を手渡した。普段はタコが管理している皮袋だが、今日は其の皮袋にいつもより多くの金貨が入っている。タコなりに考えがあったのだろうが、婢呼眼には此のような使い方でもしない限り貯まりに貯まって無用に等しいものだった。
ダンジョンに戻り、三度の往復で五人の母親と八人の子供を運び、王宮へ報告に飛んだ。
パーピー鱗のチートか、あれほど動いたのに此れは……不思議と力が漲る。私はドラゴルーンの血の染み込んだマントで飛べるが、ベロニカも飛べるのであれば良いが。
ブルー・タニアンと協定を結ぶ前に戦ったドラゴルーンの血を、婢呼眼は頭から被った。其れは本陣上空を低空飛行したドラゴルーンの腕を、当時まだ十六才だったガーネットの剣が切り落としたからだった。
其の腕はドラゴルーンに取り返されたが、血を被った将軍クラスは全員、婢呼眼と同じように空を飛ぶ。
*
ラーポは、ライザックから習った目立たずダンジョンに入れる滝の裏側へ飛んだ。
ブーちゃんが、ケイッツアーの檻の処の穴から出入りさせないのは、ケイッツアーが生きていることを隠しておきたいかららしいけど……何で隠しておきたいのかな。おかしいな。私ならケイッツアーが生きている間は交渉の材料に出来ると思うけどな。
長老宅からルモンダレナの入らないクッキーを大きな袋にもらい、滝の水に濡らさないように気を付けてサンタクロースになった気分だった。
ケイッツアーは気になりつつも黙って姿を消したことへの仕返しめいた気分で、取り敢えず頼まれたクッキーをドラゴルーンに届けることにした。
「ただいま、ブーちゃん。お土産もらって来たよ」
「お土産だと。ラーポ、お前、やはりライザックとダンジョンを抜け出したんだな。まあいい。長老宅に行ったことは大目に見よう。しかし……」
ブルー・タニアンは不機嫌な声で言った。
「ん」
「ケイッツアーは私のものだと言ったらしいな、ラーポ」
「……」
言った。言ったね、言った。確かに言ったし、抱きしめて一晩中過ごしたし、キスしたし、頬っぺたと額にだけだけどさ、いっぱいキスしたし、やっぱり好きだし……だから何だって言うのよ。
「ケイッツアーは俺様の為の人身御供だ」
う、じゃあケイッツアーにとって私は不倫相手なの。ちょっと待って。何で知っているの。ケイッツアーがブーちゃんにしゃべったのっ。なにそれ、私って手玉にとられているの。やっぱりケイッツアーに会いに行こう。
*
「婢呼眼、其方、スメタナには何時いくのじゃ」
「は……」
忙しくて忘れていたが、スメタナ教国のガーネットから招待状が届いている。将軍昇格の祝いに来いという。
「其方、三国束ねる大鳥居になるのであろう。さすればガーネットは将軍になっても其方の部下と云うわけじゃな。ほっほっほ。其れで、昨日のあの者たちは如何致した」
アシュカ王妃の美しい翡翠色の瞳も、色弱の婢呼眼には灰色に見える。
「確かにあの者たちは、二人とも異世界からの訪問者にございます。ダンジョン破壊を命じましたが、魔法術望遠窓に映りませぬか」
縦横三メートルの魔法術望遠窓にはダンジョン内部のドラゴンダンジョン入り口が見えている。
「そうよのう。ケミヒス文明国の生き残りはほとんどリンジャンゲルハルト帝国に流れておるからの。魔法術研究員でなければ、設定のし直しもできぬと云うに。『魔法の小窓』は二ヵ所しか見えぬからの。ドラゴンダンジョンの入り口とゲヘナの谷じゃが」
『魔法の小窓』に映った娘……
王妃の脳裏を掠める美しい姫の祈りを捧げる姿。
あれは誰なのか……リンジヤンゲルハルトの娘に違いないが……あれは……心に残るあの姿は……王女か……貴族の娘か……
「其れでお願いしたき義が」
「何なりと申せ」
「ダンジョン修道院にございます」
アシュカ王妃の顔色が変わった。色弱の婢呼眼にも容易に読み取れるほど、明らかに王妃の表情は怖れに侵食されてゆく。
「ダンジョン……修道院がどうかしたか」
「あの者たちはポールを探しております。見つかれば今日明日にもダンジョンは崩壊するかと。我らは、ダンジョン修道院の者たちを一刻も早く救出せねばなりますまい」
「ならぬ。ダンジョン修道院は崩壊せぬ」
「王妃。何と……」
「ダンジョン修道院は捨て置け……彼処は……不可侵条約制定地域だ。我らの手出しできる場所ではない。地理的にも安全な場所のはず……」
「王妃……何時からあなたは王になった。此の件については大臣議会に……」
「ならぬ。婢呼眼、其れはならぬぞ。其ればかりは……」
アシュカ王妃は胸の辺りを強く抑えた。
私はパン屋の娘……
王妃の座を手にして何をすべきか……
ぁぁ……
ダンジョン修道院……
あの方は……二十六年前のあの方は……
マヒルナ様は……生きておられる……
あの方がご自身で出て来られるまでは……
子供たちはガタブル震えながらも母親の首にしっかりしがみついていたが、母親は二人とも青ざめている。速度をあげる。
「気を失うな。子供を落とすな」
「はいっ、軍師長様」
頬に強烈な風が当たる。町の見知った治療院に直行し、玄関前に静かに降り立った。
「軍師長様、あ、ありがとうございます。子供たちの命を助けて頂いて……」
一人は気を失いかけていたが、もう一人は震えながら傅いた。
「医術者には此れを。私はまだ怪我人を連れて参る故に、纏めて支払うように」
婢呼眼は皮袋を手渡した。普段はタコが管理している皮袋だが、今日は其の皮袋にいつもより多くの金貨が入っている。タコなりに考えがあったのだろうが、婢呼眼には此のような使い方でもしない限り貯まりに貯まって無用に等しいものだった。
ダンジョンに戻り、三度の往復で五人の母親と八人の子供を運び、王宮へ報告に飛んだ。
パーピー鱗のチートか、あれほど動いたのに此れは……不思議と力が漲る。私はドラゴルーンの血の染み込んだマントで飛べるが、ベロニカも飛べるのであれば良いが。
ブルー・タニアンと協定を結ぶ前に戦ったドラゴルーンの血を、婢呼眼は頭から被った。其れは本陣上空を低空飛行したドラゴルーンの腕を、当時まだ十六才だったガーネットの剣が切り落としたからだった。
其の腕はドラゴルーンに取り返されたが、血を被った将軍クラスは全員、婢呼眼と同じように空を飛ぶ。
*
ラーポは、ライザックから習った目立たずダンジョンに入れる滝の裏側へ飛んだ。
ブーちゃんが、ケイッツアーの檻の処の穴から出入りさせないのは、ケイッツアーが生きていることを隠しておきたいかららしいけど……何で隠しておきたいのかな。おかしいな。私ならケイッツアーが生きている間は交渉の材料に出来ると思うけどな。
長老宅からルモンダレナの入らないクッキーを大きな袋にもらい、滝の水に濡らさないように気を付けてサンタクロースになった気分だった。
ケイッツアーは気になりつつも黙って姿を消したことへの仕返しめいた気分で、取り敢えず頼まれたクッキーをドラゴルーンに届けることにした。
「ただいま、ブーちゃん。お土産もらって来たよ」
「お土産だと。ラーポ、お前、やはりライザックとダンジョンを抜け出したんだな。まあいい。長老宅に行ったことは大目に見よう。しかし……」
ブルー・タニアンは不機嫌な声で言った。
「ん」
「ケイッツアーは私のものだと言ったらしいな、ラーポ」
「……」
言った。言ったね、言った。確かに言ったし、抱きしめて一晩中過ごしたし、キスしたし、頬っぺたと額にだけだけどさ、いっぱいキスしたし、やっぱり好きだし……だから何だって言うのよ。
「ケイッツアーは俺様の為の人身御供だ」
う、じゃあケイッツアーにとって私は不倫相手なの。ちょっと待って。何で知っているの。ケイッツアーがブーちゃんにしゃべったのっ。なにそれ、私って手玉にとられているの。やっぱりケイッツアーに会いに行こう。
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「婢呼眼、其方、スメタナには何時いくのじゃ」
「は……」
忙しくて忘れていたが、スメタナ教国のガーネットから招待状が届いている。将軍昇格の祝いに来いという。
「其方、三国束ねる大鳥居になるのであろう。さすればガーネットは将軍になっても其方の部下と云うわけじゃな。ほっほっほ。其れで、昨日のあの者たちは如何致した」
アシュカ王妃の美しい翡翠色の瞳も、色弱の婢呼眼には灰色に見える。
「確かにあの者たちは、二人とも異世界からの訪問者にございます。ダンジョン破壊を命じましたが、魔法術望遠窓に映りませぬか」
縦横三メートルの魔法術望遠窓にはダンジョン内部のドラゴンダンジョン入り口が見えている。
「そうよのう。ケミヒス文明国の生き残りはほとんどリンジャンゲルハルト帝国に流れておるからの。魔法術研究員でなければ、設定のし直しもできぬと云うに。『魔法の小窓』は二ヵ所しか見えぬからの。ドラゴンダンジョンの入り口とゲヘナの谷じゃが」
『魔法の小窓』に映った娘……
王妃の脳裏を掠める美しい姫の祈りを捧げる姿。
あれは誰なのか……リンジヤンゲルハルトの娘に違いないが……あれは……心に残るあの姿は……王女か……貴族の娘か……
「其れでお願いしたき義が」
「何なりと申せ」
「ダンジョン修道院にございます」
アシュカ王妃の顔色が変わった。色弱の婢呼眼にも容易に読み取れるほど、明らかに王妃の表情は怖れに侵食されてゆく。
「ダンジョン……修道院がどうかしたか」
「あの者たちはポールを探しております。見つかれば今日明日にもダンジョンは崩壊するかと。我らは、ダンジョン修道院の者たちを一刻も早く救出せねばなりますまい」
「ならぬ。ダンジョン修道院は崩壊せぬ」
「王妃。何と……」
「ダンジョン修道院は捨て置け……彼処は……不可侵条約制定地域だ。我らの手出しできる場所ではない。地理的にも安全な場所のはず……」
「王妃……何時からあなたは王になった。此の件については大臣議会に……」
「ならぬ。婢呼眼、其れはならぬぞ。其ればかりは……」
アシュカ王妃は胸の辺りを強く抑えた。
私はパン屋の娘……
王妃の座を手にして何をすべきか……
ぁぁ……
ダンジョン修道院……
あの方は……二十六年前のあの方は……
マヒルナ様は……生きておられる……
あの方がご自身で出て来られるまでは……
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