つまずいたら異世界へ

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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第十章 二日目の夕方

(3)水呑場の戦い&女囚ソマル

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空に赤みが差し始めている。やっとダンジョンを出て泉の広場に来た。其の昔ドラゴルーンの水呑場として守られていた場所だ。修道女十数人と子供たちが水浴びの為に衣服を脱ぎ始めた。

百名余りの修道女たちも隊列を崩して広場の奥の木陰に休み場を見つけて各各食事の為に祈り始めた。ダンジョン修道院では院長が祈りを捧げたが、修道院を出てからは其々が行う。

泉の近くで修道女の悲鳴が上がった。子供たちが泣き叫ぶ。何事かと食事中の修道女たちが立ち上がる。水浴中の者や裸の者たちにリンジャンゲルハルトの男たちが絡んでいた。一人の女の両腕を二人の男が引っ張り、或いは担ぎ上げ、中には草むらに押し倒され口を塞がれた裸の女もいた。母親を助けようとして藪に投げられた子供。殴られた子供の悲鳴。

其の男たちの耳に凛とした声が届く。


「お止めください。私たちは此の先のダンジョン修道院の者です。あなた方にも神のご加護を求めます。どうか私たちを放してサザンダーレ王国に帰してくださいますように。どうか……どうか……」


院長以下ずらりと並んだ百名余りの修道女たちが、傅くように身を屈めて両手を組み合わせ祈る。


「バカな……神のご加護だと。笑わせる。リンジャンゲルハルトはドラゴルーン擁護の国。神を見た者は一人もいないわ。何処から湧いて出たか知らぬが全員剥いでやれ」


頭領らしい体躯のがっしりした男が怒鳴った。男たちが修道女たちに襲いかかる。


「仕方がありません。皆さん、狼藉者をやっつけておしまい」


院長の声に男たちが驚く。修道女が衣服を空中に脱ぎ捨てた。其の下にモヒカンの女戦士の姿が現れ、全員が背中や腰や太もものホルダーから刀を引き抜いた。一人が空中をくるくる回転して男に飛びかかった。二人、三人と飛びかかる。刹那、血飛沫が飛ぶ。男たちは腕を切られ足の腱を切られ悲鳴を上げ転がり回る。


「殺さぬように。もう良いでしょう」


驚いて見ていたみかんが思わず、水戸黄門か……と書き手の年齢がバレる情報を声に出してしまった戦いは、秒殺で終わった。モヒカンたちは男たちの急所を足蹴にした。


「この次は切り取ってやる」
一人のモヒカンが呟いた。

倒れた男は二十人はいた。全員呻きながら這いずり、来た方向へ向かう。二度と女を手込めにできなくなったのは確かだ。

モヒカン戦士たちは修道服を着込んで何事もなかったように各各の休み場に戻る。みかんが見たのはまるで『マボロシぃ……』のような信じ難い現実。修道女は全員、二度と悲しい事件の被害者になることのないように、ダンジョン修道院で戦闘訓練を受けていたのだ。


「あたしの従姉も合気道やっててぇ……夜道で危ない処だったけど、合気道で相手をやっつけたのよね。逃げられてしまったけどぉ。だって従姉は走るのは遅いんだもの。でもぉ、命も貞操も守れたのは確かよ」


みかんはベロニカを捕まえて嬉しそうに話す。


「みかんさんも其の合気道ってのをやるのですか……」

「ううん。みかんが襲われるなんてあり得ないものぉ……こんなデカイおデブを狙うなんてアホはいないと思う」

「合気道を教えてほしかったです」

「ぁ、合気道ね。従姉を呼ぶことができればねぇ」

「呼ぶと言えばみかんさん、あのアイデンの泉の時、婢呼眼軍師長とガーネット将軍を呼ぶことができたんじゃ……」

「ええぇ……あれってやっぱりみかんが呼んだのぉ。そうかなぁ……って思っていたけどぉ……やってみようか」

「いいえ、今は止めておきましょう。軍師長はもう何度も怪我人や弱っている者たちを運んでいるので……」

「あと何人くらい連れていくのかな。私も飛べたら手伝うのに……」

「飛ぶのはドラゴルーンの血が関係しているのです。鱗なら瞬間移動。あら、みかんさん、もしかしてみかんさんが軍師長に呼ばれたら……みかんさんは誰かを連れていくことが可能かも……」





ノアルは幼い子供のように抱っこされて御輿で移動していた。磨かれた大理石の輝きを持つ脚を組んで、女王のように宝飾品で飾られたシンミョリーゼが微笑む。

「ノアル様、牢獄に着きましてございます」

ずらりと並んだ牢獄の部屋は、鉄柵で仕切られて廊下から内部が丸見えになっている。

「お前のいた処か」 

「左様でございます」

「きゃははは……面白い」

シンミョリーゼはノアルを抱っこしたまま、小器用に御輿から降りた。ノアルを激怒させた女囚が振り向く。女囚の顔にはファンビーナと同じ鞭傷があり、赤く腫れて痛々しい。

「シンミー……」

女囚は眼を疑った。一緒に投獄されていた女囚の一人シンミョリーゼが美しく化粧を施し髪を豊かに結い上げて宝飾品で飾られ、金色のビキニと民族衣装の豪華なレースのマントを纏い、毒豚ノアルを抱っこして踵の尖った金のミュールを履いて仁王立ちになっているのだ。

「ソマル、ノアル様が其の方に直々に下賜すると仰せであられる。近う寄れ」

お付きの代理侍従の手に毒の杯がある。

ソマルと呼ばれのろのろと動く女囚の訝る顔を笑って、ノアルがシンミョリーゼの耳に何か囁く。シンミョリーゼの唇がひきつった。


「ソマル、其の方、毒を飲むかとそれとも此処から生きて出たいか……」

ソマルの顔が輝いた。
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