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第十四章 三日目の夕方
(2)ブーちゃんは婢呼眼を恨んでいる
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ライザックがラーポの分まで夕食のルモンダレナの入ったクッキーを持って来た。必須アミノ酸の全てとの他の栄養素を含む滋養強壮の薬膳クッキー。
食べながら、ラーポは檻の中のケイツアーに沖縄の話をした。生まれる遥か以前に戦争があったこと。今は復興して観光地になったこと。海と空が美しいこと。しかし軍事基地があること。それらのことをいろいろ話した。
火口からの明るみが狭まり岩に少しの赤みが残る時、薄暗くなった檻の中のケイツアーにお休みを言った。
今夜、ダンジョンを潰す。ポールは探せていない。でも、今から眠らずに迷路の中を探せば見つかるんじゃない。今夜……朝になる前に……
迷路の中を、前に置いた宝石の僅かな光を見つけながら拾って歩く。ポケットに宝石の重みを感じる頃に、ブルー・タニアンの岩戸の洞に来た。
「ブーちゃん、起きている……」
目を凝らす。岩の色とブルー・タニアンの鱗の色が見分けられた。
「どうした、ラーポ。ケイツアーはもう寝たのか」
ブルー・タニアンがラーポを向いた。傷のあった処に青い蛍光色の血痕が美しく光る。
「うん。今夜は冷えるね。ねぇ、ブーちゃん。傷口、痛くない」「心配いらない。すっかり塞がった」
「ねぇ、お願いがあるんだけど……私も宝石をもらっていい」
「みかんにあげたものだ。みかんと話せ。そう言えばあいつは草刈りに行って何をしているのだ」
あぁ、ヤバい。私たちはブーちゃんのことを、人間を食べるドラゴンだと本気誤解して裏切ろうとしていたんだ。
「あぁ、多分、迷子になったか……靴擦れしてるって言ってたからサボっているか……お腹すいて死んだか……ははは……」
「其処にあるだけをやろう。みかんが戻って来たらまた出してやれば良いのだから……」
「ふふ……凄い。一体どのくらい持っているの」
「此の山二つ分さ。ゴミ同然だがな」
ゴミ同然だなんて……でも必要だからもらっておく。
「ありがとう、ブーちゃん」
ブーちゃんがとぐろに頭乗せて目を瞑ったら、少し暗くなった気がする。
「ねぇ、ブーちゃん。此のダンジョンを出たい」
「出られるものならな」
「預言者は何と言ったの」
「異世界からの女が二人……お前ら、みかんは生まれながらの女ではないし、お前もまだ女と云うには未熟だ。お前が此の俺様をダンジョンから出せるとでも言うのか」
「もしかしたら……」
「もしかしたらだと……もしかしたら出来るのか」
「多分……ポールさえ見つかれば……」
「ポールか……お前には無理だ」
「何処にあるかわかるの……教えて……無理でも知りたい。教えて」
ブーちゃん、黙り込まないで教えて……
「ポールは……ダンジョン修道院の屋根にある。何処かの世界のメシアの購いを記念する印なのだそうだ」
「十字架ではないの」
「いや……ただの長いポールだ」
「それよ。多分……絶対」
「どっちなんだ、多分か絶対か」
「多分、絶対それよ」
「お前……」
「ブーちゃん有り難う。私行くね」
「無理だ。ダンジョン修道院が倒壊する。彼処には多くの母子がいるのだ」
「黙っていてごめん、ブーちゃん。皆、修道院を出た頃だと思う」
「お前、何故其れを早く言わないのだ。お前には尚更無理だ」
「怒った。でも何故無理なの」
「修道院が空き家になればスライム邪鬼が入り込む。もう既に化け物館になってしまっただろう。お前のようないたいけな少女一人でポールまで辿り着ける訳はない」
「スライムジャッキ……」
「邪鬼だ。お前、婢呼眼に会ったのか」
「……」
「そうか……婢呼眼は元気にしていたか」
「知り合いなの、ブーちゃん」
「あいつが人身御供休戦を申し出たのだ。王族殲滅の戦いに人間の勝ち目はなかったからな。おかげで可愛いケイツアーを檻に閉じ込めることになったが」
「婢呼眼軍師長を恨んでいるの」
「ああ、恨んでいるとも。あいつは俺様を裏切って此のダンジョンに閉じ込めた。俺様は一年に一度、2ヶ月ぐっすり寝るのだ。目が覚めたら何処もかしこも刃刃刃……そんなことをやるのはあの女しかいない。しかし……」
「しかし……なぁに」
「此の三ヶ月、あの野蛮人はいつでも俺様を殺せた筈なのだが……」
「殺す気はなかったのかも……」
「いや、あいつがお前にダンジョンを壊せと命じたに違いない。そうだろう。残忍な女だ。俺様はケイツアーを守る。火口を囲む槍刃がケイツアーを傷つけないように守る。俺様は終わりだ」
ケイツアーを守る……
あの火口の刃が全部落ちたら……
ブーちゃんが傷つく……
ブーちゃん、死を覚悟してるの……
命がけで守るの……
「ブーちゃんは怪我してもすぐに治ったじゃない」
鱗に僅かな傷が残るだけ……
「あれは小さな傷だったからだ。俺様はケイツアーを守るが、其の後はお前がケイツアーを救い出せ。お前は飛べる。俺様の血がお前の髪の毛を青く染めているのだからな」
「血のチート……わかった。ケイツアーを……待って、待って、待って、あのね……婢呼眼軍師長はケイツアーが生きていることを知らないの」
「何……ふむ。そうだ。俺様も知らせてはいない。ソゴドモ村も秘密裏にやってくれている。婢呼眼は何を考えているのだ。此の三ヶ月、何を考えていたのだ」
「あの……ソゴドモ村ってリンシャンゲルハルトよね」
「いや、隠れ里だ。リンシャンゲルハルトから逃げた人々が形成している秘密の村だ」
あ、そんなことを言ってた……
「そう、婢呼眼軍師長はリンシャンゲルハルト帝国と戦争するって知ってる」
エスメラルダ将軍は既に攻撃してるし……
「戦争……とうとうやるのか。ははは、わかった。読めたぞ。婢呼眼のやつ……ははは……俺様がリンシャンゲルハルトの肩を持つとでも思ったか」
「ケイツアーはリンシャンゲルハルト人でしょ」
「そうだ。しかし俺様は人間同士の戦いには加担しない。ラーポ、婢呼眼にケイツアーが生きていることを知らせてはくれまいか。お宝倍増出そう」
「お宝は……必要な時にもらうね。婢呼眼軍師長が何処にいるかわからないから探せるかどうか自信ないけど」
「宮殿に軍師館がある。図書館とも言う。其処の軍師会議室に詰めているか……タコの館だ。ふむ、タコの館は……旧王朝時代の避暑地だった場所にある。ボロ屋だ」
「ケイツアーが生きていることを知らせてポールの件を反故にするのね」
「そうだ。お前もケイツアーを守るのだろう」
うん、守る……
其の前に……行かなきゃならない処があるけど……開戦前にどうしても謝らなければ……リンジョネルラ王女に……
「行ってくる。ブーちゃん、お宝、有り難う」
食べながら、ラーポは檻の中のケイツアーに沖縄の話をした。生まれる遥か以前に戦争があったこと。今は復興して観光地になったこと。海と空が美しいこと。しかし軍事基地があること。それらのことをいろいろ話した。
火口からの明るみが狭まり岩に少しの赤みが残る時、薄暗くなった檻の中のケイツアーにお休みを言った。
今夜、ダンジョンを潰す。ポールは探せていない。でも、今から眠らずに迷路の中を探せば見つかるんじゃない。今夜……朝になる前に……
迷路の中を、前に置いた宝石の僅かな光を見つけながら拾って歩く。ポケットに宝石の重みを感じる頃に、ブルー・タニアンの岩戸の洞に来た。
「ブーちゃん、起きている……」
目を凝らす。岩の色とブルー・タニアンの鱗の色が見分けられた。
「どうした、ラーポ。ケイツアーはもう寝たのか」
ブルー・タニアンがラーポを向いた。傷のあった処に青い蛍光色の血痕が美しく光る。
「うん。今夜は冷えるね。ねぇ、ブーちゃん。傷口、痛くない」「心配いらない。すっかり塞がった」
「ねぇ、お願いがあるんだけど……私も宝石をもらっていい」
「みかんにあげたものだ。みかんと話せ。そう言えばあいつは草刈りに行って何をしているのだ」
あぁ、ヤバい。私たちはブーちゃんのことを、人間を食べるドラゴンだと本気誤解して裏切ろうとしていたんだ。
「あぁ、多分、迷子になったか……靴擦れしてるって言ってたからサボっているか……お腹すいて死んだか……ははは……」
「其処にあるだけをやろう。みかんが戻って来たらまた出してやれば良いのだから……」
「ふふ……凄い。一体どのくらい持っているの」
「此の山二つ分さ。ゴミ同然だがな」
ゴミ同然だなんて……でも必要だからもらっておく。
「ありがとう、ブーちゃん」
ブーちゃんがとぐろに頭乗せて目を瞑ったら、少し暗くなった気がする。
「ねぇ、ブーちゃん。此のダンジョンを出たい」
「出られるものならな」
「預言者は何と言ったの」
「異世界からの女が二人……お前ら、みかんは生まれながらの女ではないし、お前もまだ女と云うには未熟だ。お前が此の俺様をダンジョンから出せるとでも言うのか」
「もしかしたら……」
「もしかしたらだと……もしかしたら出来るのか」
「多分……ポールさえ見つかれば……」
「ポールか……お前には無理だ」
「何処にあるかわかるの……教えて……無理でも知りたい。教えて」
ブーちゃん、黙り込まないで教えて……
「ポールは……ダンジョン修道院の屋根にある。何処かの世界のメシアの購いを記念する印なのだそうだ」
「十字架ではないの」
「いや……ただの長いポールだ」
「それよ。多分……絶対」
「どっちなんだ、多分か絶対か」
「多分、絶対それよ」
「お前……」
「ブーちゃん有り難う。私行くね」
「無理だ。ダンジョン修道院が倒壊する。彼処には多くの母子がいるのだ」
「黙っていてごめん、ブーちゃん。皆、修道院を出た頃だと思う」
「お前、何故其れを早く言わないのだ。お前には尚更無理だ」
「怒った。でも何故無理なの」
「修道院が空き家になればスライム邪鬼が入り込む。もう既に化け物館になってしまっただろう。お前のようないたいけな少女一人でポールまで辿り着ける訳はない」
「スライムジャッキ……」
「邪鬼だ。お前、婢呼眼に会ったのか」
「……」
「そうか……婢呼眼は元気にしていたか」
「知り合いなの、ブーちゃん」
「あいつが人身御供休戦を申し出たのだ。王族殲滅の戦いに人間の勝ち目はなかったからな。おかげで可愛いケイツアーを檻に閉じ込めることになったが」
「婢呼眼軍師長を恨んでいるの」
「ああ、恨んでいるとも。あいつは俺様を裏切って此のダンジョンに閉じ込めた。俺様は一年に一度、2ヶ月ぐっすり寝るのだ。目が覚めたら何処もかしこも刃刃刃……そんなことをやるのはあの女しかいない。しかし……」
「しかし……なぁに」
「此の三ヶ月、あの野蛮人はいつでも俺様を殺せた筈なのだが……」
「殺す気はなかったのかも……」
「いや、あいつがお前にダンジョンを壊せと命じたに違いない。そうだろう。残忍な女だ。俺様はケイツアーを守る。火口を囲む槍刃がケイツアーを傷つけないように守る。俺様は終わりだ」
ケイツアーを守る……
あの火口の刃が全部落ちたら……
ブーちゃんが傷つく……
ブーちゃん、死を覚悟してるの……
命がけで守るの……
「ブーちゃんは怪我してもすぐに治ったじゃない」
鱗に僅かな傷が残るだけ……
「あれは小さな傷だったからだ。俺様はケイツアーを守るが、其の後はお前がケイツアーを救い出せ。お前は飛べる。俺様の血がお前の髪の毛を青く染めているのだからな」
「血のチート……わかった。ケイツアーを……待って、待って、待って、あのね……婢呼眼軍師長はケイツアーが生きていることを知らないの」
「何……ふむ。そうだ。俺様も知らせてはいない。ソゴドモ村も秘密裏にやってくれている。婢呼眼は何を考えているのだ。此の三ヶ月、何を考えていたのだ」
「あの……ソゴドモ村ってリンシャンゲルハルトよね」
「いや、隠れ里だ。リンシャンゲルハルトから逃げた人々が形成している秘密の村だ」
あ、そんなことを言ってた……
「そう、婢呼眼軍師長はリンシャンゲルハルト帝国と戦争するって知ってる」
エスメラルダ将軍は既に攻撃してるし……
「戦争……とうとうやるのか。ははは、わかった。読めたぞ。婢呼眼のやつ……ははは……俺様がリンシャンゲルハルトの肩を持つとでも思ったか」
「ケイツアーはリンシャンゲルハルト人でしょ」
「そうだ。しかし俺様は人間同士の戦いには加担しない。ラーポ、婢呼眼にケイツアーが生きていることを知らせてはくれまいか。お宝倍増出そう」
「お宝は……必要な時にもらうね。婢呼眼軍師長が何処にいるかわからないから探せるかどうか自信ないけど」
「宮殿に軍師館がある。図書館とも言う。其処の軍師会議室に詰めているか……タコの館だ。ふむ、タコの館は……旧王朝時代の避暑地だった場所にある。ボロ屋だ」
「ケイツアーが生きていることを知らせてポールの件を反故にするのね」
「そうだ。お前もケイツアーを守るのだろう」
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