つまずいたら異世界へ

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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第五章 一日目の夕方 スメタナ仰け反る魔女

(6)命題

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ガーネットは振り下ろされた剣を軽くいなした。

「あなたは惜しいお方です、ガーネット様……でも、取り込めないのであれば殺せと言われているのです」

「やはり正体を現したか。舐められたものだ。リンジャンゲルハルトは男で私を取り込めるとたかを括っていたのか」

ガーネットの筋肉質の身体に力が漲る。

「ガーネット様……私と一緒にリンジャンゲルハルトにお仕えしていただけませんか」

言葉とは裏腹に剣が斬り込む。
長椅子からひらりと身をかわしたガーネットだったが、研究員の舞い躍りのように振り回す剣は鋭くガーネットを狙う。すんでの処で命拾いの場面が幾度も繰り返される。

「あなたをお迎えする準備は整っています」

魔法術研究員は長椅子から跳び跳ねて剣で空を斬り、回転して水平に鋭い切っ先を走らせた。髪の毛の差でガーネットは身体を捻る。

「猪口才な」

ガーネットは壁を蹴り天井から回転して背後に降り、細い頸を羽交い締めにした。剣を持つ手を強く握り、女らしい弾力のある胸に押し当てる。魔法術研究員の背中がガーネットの胸で擦れ、傷の痛みで声が漏れ、吐息は甘い。耳に舌を這わせて長椅子に倒れ込んだ。直ぐ様後ろから挿入して、背中の傷を叩きながら腰を動かすと、魔法術研究員は悲鳴をあげながら応じる。

「きゃああぁ……ガーネ……あぁ……」

「お前、声螺を殺れるか。どうなんだ。私もお前を取り込めなければ殺すしかない」

魔法術研究員は剣をきつく握り締め、その手首の動きをガーネットは目の端に捉えた。



金龍の鱗が深い森の中で木漏れ日に輝く夢を見る。在りし時は隠せない宝の様に宵闇にも紛れずに湖面を照らし、月よりも明るく夜空を翔て舞い踊り、暗雲に雷轟かせて豪雨を降らせた。

長老は美しい金の龍だった……
長老の様になりたいと幸せのうちに願っていた…

何故に独りの今日を迎えた……
今日と云う時は永く酷薄だ……

『俺TUEEEサザンダーレ王』の所為だ……
人間の、ドラゴルーン支配下からの解放。
天の軍勢を率いてやって来るミケーロ。
お前はいつの明日に来るのか……

今は人間の自治時代。
お前の来る理由はない。

だから、俺様がお前にまみえる其の時、地上は再び俺様の支配下に戻っていることだろう。

ミケーロ……
人間はドラゴルーン支配からの解放を願ったが、自治力がないために世界平和を実現できない儚い生き物だ。
そもそも平和と云うものを、人間は願ってなどいない様にも見える。

ミケーロ……
お前の支配下に於いても同じだろう。
人間は刃向かう……お前にさえも刃を向けるだろう……

人間は『自由』の為だと嘯くが……一部の支配階級の自由の為だ。
「『必ずの明日』まで、人間を知り尽くすのだ」

柔らかな若葉の香りが口を清め、清涼感に満ちて手足を伸ばす。

「ならぬ。ブルータニアン。お前は未だ百年も生きてはおらぬ。そして十年も寝てはおらぬ。人間に心を寄せるな」 

金龍はいつになく厳しい声で言った。

「長老は人間が嫌いなのか」
「ブルータニアン、我らは地上を支配しておるが、人間とは美しくまた醜い生き物だ。決して甘く見るな」

あの日からどれ程の時から過ぎたのか…

長老が、『俺TUEEEサザンダーレ王』の毒矢に殺められ、他のドラゴルーンも次々に死んだ。
しかし、未だ天の軍勢を率いたミケーロは来ない。

来たのは異世界からの者たちや倫解の者……

異世界からの伝道者は、天使も悪魔も結婚せず子を作らないと言った。
我らドラゴルーンは天使でもなければ悪魔でもない。子供を作る生き物だ。孵化した時からこの地上の支配者ドラゴルーン・コミュニティの一員だった。

白い鳳凰ミケーロは、いつか『必ず』来るのか。
独りになった俺様を滅ぼしに……

『必ず』が必ず来るものならばその前に、『俺TUEEEサザンダーレ王』の一族を殲滅せしめてやろうではないか……それがドラゴルーンたるもの……
滅んだ蟻塚を見て「蟻は短命だ」と言った人間がいた。お前たち王族もその様になる。人間は短命だ。王族殲滅。やがて叶う……

其れが生き残った独りぼっちのドラゴルーンの命題だ。
   

木陰の影は青ざめた。

……ガリラヤは私の弟だ。
侍従様は知っていながら……
もしもの場合は……
あるやも知れぬ『もしもの場合』……
弟も王女様に命をかけているのだ。
肉体は機能せずとも……
あの『男根装具の乳母』のように……

あの時、悲鳴が聞こえ……
湯上がりの衣替えの女官たちが下がった後のことで、
王女様は、乳母様の添い寝が慣例だったが……
まさかあの様な真似を……
まさか乳母様が行っていたとは……
王女様が悲鳴を上げたのは
装具を使われたくないとのことだ……
私が見たのは装具を手にして佇む乳母様の姿。
衣服に乱れはなかった。
関係を否定した乳母様だったが、拷問で自白した。
数年来の『床の手解き』なるものの仕上げに装具が必要だったと……

私は悲鳴を聞いただけだった。
悲鳴を聞いて駆けつけた。

一縷の疑惑で死せる者……
乳母様の処刑は……
いや、此れから先は口に出来ぬ。
考えることさえおぞましい。
リンジャンゲルハルト帝国のノアル様が、裁きに於いて間違いを犯すことがあってはならないのだ。
………

あれから、ガリラヤが侍従として王女様をお守りすることになった。
もしも、手解きの続きを王女様がガリラヤに求めたら……
ガリラヤは……
命をかけて王女様をお守りしているガリラヤは……
私は……

『もしもの場合』は……

……………

斬る……

……………

私でも、拷問には堪えられない。
斬らねばならない『もしもの場合』など……
そんなことなど……
上手く回避してくれると……
お前を信じるしかない。
ガリラヤ、私はお前を信じている。
お前には床を共にする男根がない。
しかし……
しかし……
ガリラヤ……
一縷の疑惑で死す者にだけはなってくれるな……
私はお前の姉だ……
お前を斬りたくない……

ガリラヤ……



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