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第二十章 開戦二日目の朝 第三の勢力
(3)カブスの祈りは
しおりを挟む婢呼眼は最前線からタコの館に戻っていた。
夜更けにサザンダーレとスメタナ連合軍は夜襲を決行して成果を上げている。サザンダーレ王国のエスメラルダ将軍は、沿岸の地形を変えるほどの砲弾をリンジャンゲルハルト帝国に撃ち込み、スメタナ教国のフクロウ部隊は空からのバズーカ砲で国境付近のこれもまた地形を変えるほどの砲撃を行った。
と、言っても世界の四分の一のさらに万分の一の線を変えたくらいの話だ。人の生き死にがあるせいで、痛くも痒くもないとは言えないだろうが、然りとて地図の上ではリンジャンゲルハルト帝国にとって蚊に刺された程度の傷失レベルだ。
ノアルは笑って立ち上がった。
「この戦いに我々は勝利する。我々の加護神ブルー・タニアンが目覚めた」
ノアルに耳打ちされた言葉をシンミョリーゼの真っ赤な唇が復唱する。『ロゴス・シンミョリーゼよ。お前は私のスポークスマンでメガホンだ。一言一句間違えてはならぬ』との命令に従って忠実さを示した。
シンミョリーゼは、ノアルの言葉を発する度に興奮して性器が湿る。牢獄で刑罰を待っていた身がノアルによって救われて玉座に座することになり、い並ぶ神官を他所に神のごとくに命令を発する。そして、シンミョリーゼの言葉を聞いた者たちは皆、シンミョリーゼにひれ伏すのだ。
ノアルに服してひれ伏していることは承知しているが、形としてはシンミョリーゼが王位に就いているように見える。ノアルは偶像崇拝の偶像で、自分はその偶像を抱く悪魔のような気分だ。
シンミョリーゼは心の中に奢り高ぶりを抱く。
服する大臣の中に、破壊された地域担当の大臣がいた。
「ノアル。さすれば我が軍にも勝利があると仰せで。我が軍はアガンフージャで壊滅状態でございます」
アガンフージャはリンジャンゲルハルト帝国の東側の門で七つが七十キロ置きにある。前日午後にそのひとつを碑呼眼が開門し、マウンテンバイクで雪崩れ込み破壊し尽くした。
大臣はサザンダーレ王国の攻撃の多様性に驚き、ノアルに援軍を頼む。
「このままでは我々アガンフージャは全滅させられます。ドラゴルーン神を一刻も早く我が軍に」
「僭越な」
シンミョリーゼの口から、ノアルの意思を越えた言葉が飛んだ。ノアルは驚いてシンミョリーゼの横顔を見る。小さな手がぷるぷる奮える。
「嬉しいぞ、シンミョリーゼ。そなたの敬意は愉快である。もっと何か言え」
「ドラゴルーン神が我がリンジャンゲルハルト帝国の加護神と言えどもまだ目覚めたばかりである。辺境の一地域だけの加護神ではない。そなたの処に優先する訳にはいかぬ。まず、我々がせねばならぬことは、ドラゴルーン神に貢ぎ物を捧げ、尊顔を拝して国を挙げて擁護の意を示すこと」
ノアルがシンミョリーゼの首に抱きつく。奮えが伝わる。その小さな身体を優しく抱いて、シンミョリーゼは強い声で言った。
「ノアルに対して不敬である。誰か、この者を下がらせろ。お前は頭を冷やして出直せ」
ノアルは涙ぐむほど歓喜に奮え『褒美を取らす、褒美を取らす』と口ずさんだ。
シンミョリーゼはノアルの背中を擦り、優しい声で応えた。
「ノアル。あなたは全ての者の上の上。ドラゴルーンにも等しい雲上の人、あなたに謁見できるだけでも臣下は喜びです」
「ほ、褒美じゃ。褒美は何がほしいか。そうだ、シンミョリーゼ。お前にもティアラを、豪華なティアラをやろう」
タコの館では、タコがカブス鳥を追いかけている。ピンクのリボンを首に絞めた鳥で糞生意気な奴だが、ファンビーナの友達らしい。
剥げた頭を撫でて殺意の無いことを示したいのだが、カブス鳥は羽をばたつかせて逃げる。
クエッ、クックエッ、グエァッ、グッ、グッ、クエッ……(ノアル、ノーアールー。お助けください。私は此処です、あなたの一番の腹心の灰色侍従をお助けくださいぃぃ)
勿論、神ではないノアルに灰色侍従の祈りは聞こえない。それよりも、一番の腹心の座は既に、元女囚シンミョリーゼに奪われている。観念してタコに頭を撫でられることしか生きる道はない。
そんなことには気づかずに、婢呼眼は呟いた。
「あのオカマは何処にとんずらしやがった。こんなに心配かけやがって。クソ。帰ってきたら、旨い飯をたらふく食わせて動けなくしてやれ。相当飢えているはずだ。放っておくと兵士の飯まで食うのだからな」
それから何処にも行かないように柱にでも結わえておけと言いたかったが、それは止めた。
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