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第二十章 開戦二日目の朝 第三の勢力
(4) 三者の選択
しおりを挟むシュタイナーが連れて来たシャンタンの小隊が、ドラゴンダンジョンの入り口迄続くパーピー剣山を撤去に取り掛かった。
それを横目にみかんは通りすぎる。
「ブルー・タニアン様がお出になられる。その通り道を作り、ダンジョンから出てもらうのだ。光栄な役割だぞ」
ブルー・タニアンはみかんを擁立して第三の勢力になると言ったが、シュタイナーはそれでもサザンダーレとスメタナ連合軍を押さえ込めると踏む。
パーピー剣山は根腐れして抜き取ると異臭がする。山積みした剣山から煙に似た異様な靄が立ち上った。
「ううっ、臭い……」
「ど、どうした」
シヤンタンの目の前で兵士が倒れた。その横の兵士が膝を付く。シヤンタンも鼻を押さえた。
ブルー・タニアンはケイツアーの檻に向かい、ラーポも従って行く。みかんは修道院を目指した。
「私のお宝袋は多分修道院に忘れたのよね。多分、そうだと思う。二日酔いしてたから記憶が曖昧で……」
シュタイナーは、初恋の相手ケイツアーが檻の中で生きているとは知らなかったが、ケイツアーを人身御供として受け入れたブルー・タニアンに対しても神を崇める感情しか抱いていない。
ドラゴルーンは人間を食わない。
人身御供はどうなったのだろう。
ケイツアー様は……
知るのが怖い。
シュタイナーの選択肢の中には、人身御供のその後を詮索する道はない。ブルー・タニアンの機嫌を損ねてはならない。戦争を止めるのだ。現実に、一日で多くの家屋が倒壊し人的被害も大きく、国境付近の町や村は跡形すらない。特に海岸線は爆風激しく人だけでなく鳥の姿も絶えた。
剣の柄に両手を添えて風に吹かれながら空を眺め、シュタイナーは物思いに耽る。その背後で、最後の兵士が倒れた。
「ううっ、神宮大臣……」
「うん、あ、俺……」
呼ばれ慣れない役職名に呑気に振り返った。
みかんの行く手には、薄暗いながらも何処からか明かりのようなものの影響で視界が通る。足元に気を付けながら急いだ。
「これでお宝がなかったら……ああ、まだ若いのに私って……」
みかんはまだ何も情報を得ていない。無人の修道院はスライム邪鬼に占拠されてしかも増殖中だということはひとつも知らなかった。
みかんのチートは虹色鱗の空間移動だけだ。スライム邪鬼を連れてダンジョンから出てこないとも限らない。
視界が広がり、聳え立つ修道院の黒いシルエットが、岩天井の天空の明るみに禍々しく浮かぶ。
シュタイナーは初め、何事が起きたのかわからずに戸惑った。
「どうしたのだ、一体これは……ううっ」
不用意に足を踏み入れたパーピー剣山の通り道で、異様な臭いを嗅いだ。鼻を押さえる。
「これにやられたのか。一体、誰がこんなものを植えたんだ。いや、わかっている。私の姉だと言うのであろう。クソッ、婢呼眼のやつ」
ぶつくさ言いながら兵士を担いでパーピー陣地から運び出す。後に此処は『吐きそー・立地』と呼ばれる。シュタイナーは、第二次世界大戦の激戦地だった沖縄の『ハクソー・リッジ』で、傷ついた多くの兵士を独りで運ぶアメリカ衛生兵の根性を見せて、独りで五十人の兵士と親友シャンタンを救った。が、しかし、映画にはならない。運んだのはパーピー陣地周辺のほんの五メートル先の草地だったからだ。
ブルー・タニアンの背中に乗ってラーポは檻の前に来た。懐かしく思えるケイツアーの汚れなき姿に胸が痛む。
「ケイツアー……」
やっぱり好きだなぁ。
私って浮気者だ。
ああ、どっちも好き。
ケイツアーを見たらケイツアーが好き。
リンジョネルラを見たらリンジョネルラが好き。
駄目だ、人間として駄目な部類だ。
でも、一夫多妻でいいんじゃない。
私は女の子だから一風多彩で……
駄目か、リンジョネルラに殺されるな。
ああ、浮気心がモヤモヤと……
「ラーポ、来てくれたのね」
ああ、可愛い。
抱き締めてキスしたい。
ブルー・タニアンが話し出した。
「ケイツアー。実はな、外の世界は戦争が始まった。リンジャンゲルハルト帝国対サザンダーレとスメタナの連合軍の戦いだ」
「お母様が戦争をしているのですか」
「ああ、そうだ。ノアルはケミヒス文明国の武器を出してくるだろう。サザンダーレやスメタナで大勢の死人が出る。ケミヒスが滅んだ武器だ」
俺様は見た。
丁度空から眺めることができたが
キノコ雲が珍しくて覚えている。
あのキノコ雲の下の国は消えた。
「ああ……お母様……」
「ケイツアーのお母様ってどんな人」
「我が儘で可愛い人。子供のまま大人になって、身体が小さいから無理しているみたい。とても愛してくれたけど、私の背丈がお母様を越したくらいの頃から、滅多に会えなくなったの。そのお母様が戦争なんて……」
「ケイツアー。みかんを知っているか。知らないだろうな。みかんは面白いやつだ。お前に会わせてやりたいが、今日は急ぎの用事があると言ってダンジョンを出た」
そいつを俺は擁護して皇帝にする。
ツィフィーネは婢呼眼を擁護して、サライランはリンジョネルラをノアルに押しての戦争だ。三者三様と言うことだ。
みかんはブルー・タニアンを担ぎ出して戦争を止めさせたいが、まずはお宝の為に修道院へ。
シュタイナーは、ブルー・タニアンの通り道開拓の為にパーピー剣山にやられた兵士を助け出し、ラーポは恋心奮わせてケイツアー詣でて不届きな浮気心を溢れさせている。
こちらも三者三様で、お後はどうなりますことやら……
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