つまずいたら異世界へ

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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第二十二章

(5)ツィフィーネ登場

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雲が闇色に染まるとは言え、雲上では月明かりに影も浮かび上がる。ガーネットは雲に落ちる影の形でラーポの尾行に気づいた。

ふむ、あのガキゃあ
このガーネット様を舐めくさっておるな
どうしてくれようか

「ガーネット、ガーネットおおお。私は恐くて言っているのではない。決してそうかもしれないのだが恐くて言っているのではないから、今すぐに戻れ。リンジャンゲルハルトではお前を厚遇するぞ。すぐに正一位大将軍に任命するぞ。殺さないから、お前次第だが、多分、ではない、決して殺さないから、お前が後悔しないように言っているのだぞ、ガーネット。早く下ろせ。いや、違う。下ろすな、今は。恐いではないか……もしれないが、恐くて言っているのではない。早くどうにかしろ。ガーネッ、シンミョリーゼーええええ」


真下を飛ぶラーポの耳には、風の音交じりで何かを煩く喚く人形にしか思えない。その人形を、リンジャンゲルハルト帝国のノアル女帝だとは知る由もない訳だから、煩い人形を抱いて空を飛ぶガーネットの目論見に興味が沸いた。

「私はリンジャンゲルハルト帝国のノアルなるぞおおお。誰かこの誘拐犯を捕らえてくれえええ。誰かああああ。シンミョリーゼええええ……」


ノアルが叫んでもラーポの耳には「誰ヒューヒューハルトヒューノアヒューこのヒュー捕らヒューヒューしんみょう」と、煩わしいばかりだった。


ガーネット将軍は
何処に向かっているのかな


ガーネットも、ノアルを拉致してみたものの行き先に困った。スメタナ教国にお連れすれば人間はクズでも国賓扱いの大物人質として丁重にもてなさなければならない。


家に連れていこう
母とリーゼとサディが
ノアルの面倒を見てくれるだろう
せいぜい可愛がってもらえ


ノアルは叫び疲れて喉が枯れた。ゲコゲコと蛙のような声になってやっと口をつぐむ。


ラーポは尾行に気づかれていないと鷹を括って近づき過ぎた。ガーネットの箒がふっと消えた。ガーネットは急旋回してラーポの背中に箒の柄先で激突した。


「あっっ」


焼けるような痛みで気を失う。失速して斜めに落ちていくラーポを箒のガーネットが追いかけた。


「ゲコゲコっ。何事っ。ガーゲコットおおお、やめてえええ。お前、ゲコろすぞおおお。ゲコゲコったらゲコゲコおあお」


最早何を喚いているのかわからないカエルモドキの叫び声が微かに風に消える。




懐中電灯に照らされたおぞましい光景に、みかんは気を失いかけた。スライムがムニュウッと身体で受け止める。


「おわわっ……」


気を取り直したのは良いが、スライムは慌てたのか、みかんを抱き締めたまま婢呼眼の肩を叩いた。


ムニムニ……婢呼眼は肩を片手で払う。ムニムニ……みかんがスライムを止めようとするも遅すぎた。


「なんだ、みかん。言いたいことがあるなら口を使え。無闇に触るな」

「ううう……私じゃない。スライムが」


スライムはみかんに、後ろを見るように促す。

白い影が見える。ブルー・タニアンのダンジョンで会ったツィフィーネだ。


「スライムが何の用だ」


婢呼眼が懐中電灯をみかんに向けた。みかんがあり得ない格好で斜めに立っている姿が明かりに浮かぶ。


「お前、何をしている。その様子だとスライムは本当にいるようだな」


手を伸ばすと、ムニュウッと柔らかな感触に行き当たりめり込む。


「成る程、見えないが感触はある。不思議な生き物らしい」

「その他にも、ツフィーネさんが……」


ツフィーネが頭を下げた。


「これはこれは、さん付けですか。私はあなたの友達ではありませんよ、みかんちゃんさん。私は婢呼眼軍師長を擁立し、あなたはブルー・タニアン殿に擁立されて、それぞれが世界統一を目指しているのですからライバルですよ。こんな処で仲良くしていて良いのですか。私はあなたを殺させることもでき……」


婢呼眼が遮った。


「みかん、何だ、そのツフィーネとは」

「軍師長おおお。語尾が足りませんよおおお。人にモノを頼むときは、教えてくださいって頭を下げるのですよおおお」

「つまらんことに拘るな。だからお前はケツの穴が小さいんだ」

「きゃああああ。軍師長おおお。オカマ最大の誉め言葉よっ。締まりが良いってことよねっ。嬉しいいい」


馬鹿は相手にできない、と婢呼眼とツフィーネは同時に思った。



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