宦官情話

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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2) 不公平といい気になって何が悪い

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「け、けいしつ……」

「そうだ。男の身でありながら妾姫として部屋持ちになるのだ。ちんとぎを命ずる」


清正のβエンドルフィンに満たされた身体が艶めく。

その肌を撫で天皇が笑った。


「何度もってしまう。後宮に数百名の女がいても、このようなことは久しくなかった」


それは女性に飽きただけなのではありませぬか、今は私のような者が珍しいだけで、いつかはやはり飽きてしまわれるのでしょう、と心の中で呟く。


(あぁ、旦那に聞かせてやりたい。でも、後宮とか、天皇とかって……私はどこに来たの。これって、まさかの異世界転移っ。しかも、憑依ってやつっ)


「宦官同士も器具を用いて関係すると聞き及んでいるのに、良く守れたものぞ」


清正も幾度か誘われたことがあったが、その度にどうにかして回避できていた。


天皇は清正せいせいに数名の女官を付け、後宮とは別にしつらえた離宮を閨室けいしつとして、その門前にも宦官兵を置くことにした。


離宮に案内された清正は、身に余る待遇に茫然自失して、ふと女の声を聞く。


(不公平よねぇ、世の中って。あっと、人間は生まれからして平等ではないもの、不公平で当たり前か)



★★★★★★★★★★



勿論、面白くないのは後宮四百余名の側室たちだ。


「宦官を寵愛するなどと、天皇は何をお考えなのでしょう」

「きっと媚薬でも盛られたに相違ない。でなければ左様なこと」


皇后亡き後の跡目を狙う側室たちは、まるで清正が媚薬を使って天皇を横取りしたかのように憎む。


「どうであれ此方こなたの顔に泥を塗られたも同じ」

「ならば相手の顔にも」

「其方」


そのような後宮でのやり取りなど、想像に難くない。



清正の住まいを離宮に移す際、先輩宦官たちは甘い溜め息と共に頬を染めて清正を送り出した。


「このようなこともあるのだな」

「堂々としているのだぞ。側室たちに負けるな」

「全てのものが手に入るとしても十年が勝負だ。お前では皇后にはなれないからな」

「清正、押しも押されもしない天皇の補佐役になるのだ」

「そうだ、我らが助ける」

「天皇はいずれ新たな皇后を迎えるにしても、必ず助ける」



★★★★★★★★★★



若さと美貌で尊き立場に引き上げられた清正は、部署の違う宦官たちの間でも胸のすくような話題となって、宦官同士立ち話をする姿が見受けられる。


ひとりの側室が団扇うちわ口許にくちもとに持っていく。


「いい気になりおって。清正とやら、いつかその尊顔を拝してやりたいものぞ」


傅く後宮侍女を気にも止めず、悔しきことなりと着飾ったうら若い美姫は鏡を眺める。


妾の何処が劣っていると言うのか。


悪意は後宮の闇に密かに根付く。


天皇の耳に入れば何らかの沙汰があるかもしれない明確な悪意として、誰が言ったともしれず渦巻く。


それは大昔からあったもので、微笑みの下に隠され、時流に応じて変化へんげする。


普段は蛇のようにとぐろを巻き時期を待って眠っているが、一度ひとたびめば死をも意味する毒を持つ。



★★★★★★★★★★



清正の耳には届かない中傷が尾ひれを付け始め、転移した女にはそれがわかった。


女の勘とでもいう何百里も走る思考の紐は、妾姫たちの悪意に抵触しただけで危険信号を点滅させる。


(ふん。いい気になって何処が悪いのよっ。あんたたちだって今までいい気になって暮らしていたんでしょ。何かしてきたら遣り返すからね)


その思いは脳裏に響く声となって清正を驚かせた。


「どなた‥……」


清正は誰もいない部屋を見渡して声の主に呼び掛けた。


「応えてください」

(誰を探しているのだろう)

「あなた様です」

(え、私。私の声が聞こえるの)

「はい。時折、小さく」

(なら、教えて。ここは何処なの)

「宮廷でございます」

(それくらいはわかるけど、日本ではないみたいね。どこの国)

「日紙州の比螺羅ひららの国でございます。あなた様は」





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