宦官情話

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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4) ジグソーパズル

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清正への攻撃は既に始まっていた。


奈利子は思念の紐を飛ばして細切れの言葉をジグソーパズルのように絵にする。



不揃いなパーツが
いくつも残っているけれど
きっと天皇には通じる



奈利子が組み合わせた絵に足りないパーツは、清正の脳裏で補充されて、完成に近づく。



「わかるでしょ、清正。皇后の後釜になるには彼女たちを全員倒さなければならないのよ」

「そのようなこと、望んでは」

「おらぬと」



★★★★★★★★★★



妾姫たちは天皇に挨拶をするために御所を訪ねることはできるが、清正の離宮にはその敷地にさえ立ち入り禁止となっていた。



「折角に良さげな毒のあるというに」



奈利子はテレパスではない。イメージの湖に思念を飛ばす。釣り堀に釣り糸を投げるようなものだ。すると、探していたフレーズが引っ掛かる。


本人自体が身体を持たない堕天使の如くの思念の存在だからか、アナログ時代の電話の混線のように、他人の言葉を釣り上げる。



毒……
そこまで清正を……

探さなきゃ
毒を持ってる奴を

名前を知りたい
名前は重要なピースだもの



奈利子は生理痛に苦しむように、腹部に痛みを感じた。


清正の腸に天皇の精液が残って、腹痛を起こす。


天皇も理解していることで、清正は気だるく半日を寝て過ごす。


天皇のとぎの為だけに生きている。


その清正から上訴があった。


正確には清正からではなく、お付きの侍女からだ。



「後宮に毒物があります。お探しくだされ」



侍女は天皇に直接口をきくことはできない。


門前を警護する兵士に伝えた。


兵士は兵士の長に伝え、その言葉はまるで登り竜の如くに次から次へと上に登って顔色を変え勢いを増し広がり、後宮に毒物ありと大臣たちの知るところとなった。


朝議の座で後宮を調べるよう訴えが出た。


出席する前に侍従から聞いていた天皇もそれに応じて素早く兵を繰り出す。


清正の為だといえば一も二もなく天皇を動かせることが明らかになった出来事でもあった。



伽の為だけに召し上げられた宦官が
このように朝廷を撹乱するとは
さながら傾国の美女よのう



右パルチョのドゥーリャー儀貞ぎていは腹の底で冷たく嗤う。



ふん
その宦官を一目拝んでやりたいものだ



★★★★★★★★★★



生理痛に慣れていない清正には、辛い日々が続いた。重く気だるい身体を鞭打って清め、伸びてきた豊かな髪を気にして、鬱々と過ごす。


「香油は如何でございますか、帝姫様」


離宮を取り仕切る女官を初め、清正お付きの侍女たちは皆、清正の名前を呼ぶことは許されていない。


ご主上様とは天皇のことを指し、天皇自身が清正を帝姫様と呼ぶようにと離宮に敷いた。



「清正の名を呼べるのは天皇である朕のみぞ。わからぬ奴は舌を出せ」



舌を鄭切ちょんぎるという意味だ。



「帝姫様。これは後宮に伝わる伝統の贈り物でございます」



妾姫たちからの届け物は、直接離宮に来ることはない。


先ずは侍従長が部下を使って安全を確かめ、天皇の了解を得て初めて、清正の離宮に運ばれる。


それでも、送り主の名は伏せられた。


全てが後宮からとだけ伝えられる。



「伝統の……」

山梔子くちなしの香油にございます」



香り高い花ではあるものの、日本語では死人に口無しという言葉を連想させて、花言葉にもなっている。


奈利子は日紙比螺羅の国の言葉を日本語で理解している。


山梔子くちなしと聞いただけで反応した。



不吉なっ
日本ではね
死人に口無しって言うのよ
花言葉にもことわざにもなってる

そんなものを贈るのが伝統なわけ
どういうことよ



清正は青くなって、侍女を呼んだ。



「その香油はどのように使うのだ」

「はい、帝姫様。この香油は髪の色艶を増して香り好ましく、また、ご気分をお慰め致すものかと」

「そなたの家に送ってやれ。家人が喜ぶであろう」

「滅相もない有り難きこと。ご恩は生涯……」

「良い。私には……」



清正は言葉を呑んだ。



なに、清正
自分には過ぎたことだって
何を言ってるのよ

でも、あんたは賢い
山梔子ってね
ヤバいのよ
ヤバいピース


ヤバい……とは……
ピースとは……
その言葉の意味が
分かりかねます









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